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【連載版】加護なしの第八王女は、前世が社畜だったので王宮生活がイージーモードにしか見えない  作者: 茨木野


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115/138

115.


 ミシェルの執務室には、張り詰めた糸のような空気が漂っていた。

 険しい表情のピクシーが、ミシェルの前に立っている。


 一方でミシェルは報告を聞く前と後で、表情は変わらなかった。


「グレース様を連れてきたですぅ~……」


 ティルとグレースが部屋に入ってくる。

 

「はれ? 師匠。聖王国行ってたんじゃあ?」

「ああ。聖王国の軍部連中と、演習の打ち合わせをして、転移魔法で帰ってきたところだよ」


 ティルはピクシーの塾生なので、師匠と呼ぶ。

 転移魔法。

 一度行ったことのある場所へなら、一瞬で移動できるという、破格の移動魔法だ。


 大賢者ピクシーしか使えない魔法である。


「なんでこんなピリピリしてるですぅ?」

「……聖王国が、今回の演習を利用して、こちらに戦争をふっかけてくる可能性がある」


 ティルがポカン……と口を大きく開く。

 

「どういうことだい?」


 グレースが尋ねると、ミシェルが書類の束を差し出す。

 ティルがあわてて書類に目を通して、さらに瞳を大きくする。


「軍事演習にしては、兵站に資金を詰め込み過ぎてる……。武具の流入も増えているし……」


「戦の準備だね、こりゃ」


 グレースが神妙な顔つきでつぶやき、ミシェルたちがうなずく。


「ふぇー!? せ、戦争……そんな……嫌ですぅ……」


 しかしミシェルは冷静に、グレースに尋ねる。


「新兵達の仕上がりは?」


(何冷静になってるんですかぁ、この人ぉ!?)


 ティルはもちろん、グレースもまた、戸惑っているようだ。

 ミシェルはあまりに動じなさすぎた。


「あ、ああ……。上首尾だね」

「で、あるなら問題ありませんね」


 ティルがバンッ、と机に手をつく。


「マルコーくんたち、若い軍人を、もう戦争に投入するです!? そんなの反対反対! 大反対です……あぎゃっ」


 ミシェルがティルの額を指で突いた。


「誰が戦争するなんて言いました?」

「はへ……?」


 ミシェルのあまりに意外な発言に、ティルは馬鹿みたいに、ぽかんと口を開ける。


「私たちは軍事演習の話をしてるのですよ」

「え、え、で、でも……聖王国は、この機にこちらに戦争をふっかけようとしてるんですよね?」


「まあそれは十中八九そうでしょう。単なる演習にしては、物と金が動きすぎです」


「なら……」


「しかしこちらが勝てば、これは演習だった。そう主張でき、終わらせることができます」


 ティルは本気で困惑した。

 ミシェルの狙いと、言ってることがまったくわからないのだ。


「聖王国も一枚岩じゃあないんだよ、ティル」


 ピクシーがメガネを直しながら言う。


「帝国に戦争をしたい派閥、したくない派閥があるのさ。今回演習を利用して、我らに戦争を仕掛けようとしたのは、前者。我々はその派閥を内々に潰そうとしてるのさ」


「金と物の動きから、主犯はわかりました。あとは勝って、演習を終えれば問題なしです」

 

 ティルは、遅まきながら、ミシェルの狙いに気づいた。


「も、もしかして……今回の狙いは、聖王国側にいる、反乱分子のいぶり出し……?」


「そういうことです。帝国側からは、あえて、軍人を多数解雇したこと、若い軍人を急ごしらえしたことを、聖王国側のスパイに流させました」


 ティルがずっこけそうになるのを、ぐっと耐える。

 こういう手を、ミシェルが使うことは知ってるからだ。


「つ、つまり……ミシェル様は全部狙っていたと?」

「ええ、計画通り。あとは演習で勝利するだけ」


 ミシェルの狙いは、聖王国穏健派側に恩を売ること。

 つまり、今回は主戦派の暴走だったと、(ある意味相手側の嘘を)受け入れてあげること。


 それと同時に、主戦派をいぶりだし、処分すること。

 その二つだったようだ。


「で、でもそれって……うちが勝つ前提の作戦ってことですよね?」


「当然」


「負けるとは……思わないのですか?」


「微塵も」


 グレースは、目を大きく剥く。

 冷徹妃の瞳には、後ろめたさをまったく感じない。


 本気で、グレースが鍛えた、若い軍人達が、聖王国の大部隊を相手に、勝利する。

 そう、確信してるのがわかった。


(……あたしらを信頼してくれているのか……ふふっ)


 グレースがニヤリと笑うと、自分の胸を叩く。


「あたしらに任せな、ミシェル様。あたしらはあたしらの仕事をする」


 ミシェルは「当然です」とだけ言って、ピクシーに指示を出す。


「馬鹿どものリストアップをしておきなさい。ティル、おまえはグレースの補佐」


「は、はひぃん……」


 ミシェルは小さく息をつく。


「さて、楽しいゴミ掃除の時間です」

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