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【連載版】加護なしの第八王女は、前世が社畜だったので王宮生活がイージーモードにしか見えない  作者: 茨木野


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114/139

114.


「ひぃん……酷い目にあった……」


 ミシェルからお説教の後、ティルは自室へと戻ってきた。

 とりあえず休養は与えられた。

 ……起きたらまた地獄の労働が待っているのだが。


「てぃるは眠るのですぅ……」


 彼女がいるのは、帝城にある、彼女の寝室。

 ティルを始め、ミシェルの家臣たちは皆、衣食住をきちんと与えられているのだ。(地獄の労働は待っているが)


 ティルが布団に入って、ふと、気づく。


「あれ……? なんだか温かいですぅ……?」

「ちる……」

「うぉっ。か、カイウス様……」


 もそ、とカイウスが布団の中から現れたのだ。

 どうやら、ティルが帰ってくるのを、ずっとここで待っていたらしい。


(他の場所で待っていれば……あ、いや、てぃるが確実に帰ってくるのはここですか。だから待っていたんですね)


 カイウスは心配そうにこちらを見ている。

 何度も、何度も。


「あのね……ちる。ごえんあさい」


(ごえんなさい……? ああ、ごめんなさい……? でも一体どうして……?)


「ぼくのせーで、ちる……いっぱいおこられた……」

「ああー……」


 なんとも優しい王子であった。

 ティルの記憶にある、他者の顔は皆、怒っている。

 あるいは、自分を路傍の石ころ並に、無価値な存在だと見下している。


 だがミシェルも、ギデオンも、カイウスも。

 この城にいる人間達は皆、自分をちゃんと『ティル』という個人として見てくれている。


 ティルの能力に期待してるから、無茶ぶりをしてくる。

 ティルの行動に問題があり、それを直して欲しいと期待しているからこそ、叱りつける。


 いずれにしろ、自分を物ではなく、者として、見てくれるからこそ。


「ちる……みえう、きらいになった? ならないで……。みえう……いいひと……」

「わかってますよぉ。大丈夫、ミシェル様も、カイウス様も、キライになってないから」


 ティルは微笑んで、カイウスの頭を撫でてあげる。

 誰かからこうして、心配してもらえたのは、いつ以来だろう。


 師であるピクシーの元を去ってから、初めてかもしれない。


「てぃるはね、みんな大好きですぅ」

「みえうも?」


「ええ。あの人……まあ鬼だけど、悪魔だけど、でも……優しいので」


(こんな半端者な自分を雇って、お金までちゃんとくれるんですからねぇ)


 カイウスはまだ知らないのだろう。

 獣人やハーフエルフといった種族が、いかに人間達から差別されているかを。


 まともに仕事にありつけているだけで、奇跡のようなものなのだ。

 この世界の人間達は、この子が想像する以上に……冷たい人たちばかりなのである。


(……そこまで言う必要はないですね)


「てぃるは、だぁいすき。ミシェル様も、だぁいすき」

「ぼくも、みえう、大好きっ!」


「じゃ、仲間ですね」

「うんっ! ぼく、ちるもだいすき!」

「あはは、てぃるもカイウス様だいすきですよぉ」


 こんな風に優しくしてくれる、この子のことを、ティルも好きになっていた。

 無論それは、人間として……という意味である。


 カイウスはティルをしっかり見て、言う。


「ぼく……ちる好き! ぼくが責任とる! ちるを、やちなう」

「お、おう……?」


(あ、あれ……? なんだか妙な方向に話が進んでないですぅ? てゆーか、責任とか、養うとか……どこで覚えてくるんでしょうね)


 まあ、多分意味も分からず言ってるのだろう、とティルは結論づける。

 だとしても、自分にそんな風に言ってくれたことが、ティルには嬉しかった。


「待ってますよぉ」

「うんっ」


 カイウスはベッドルームを抜けると、去って行った。

 ティルは「ふふ」と笑うと、眠りについた。

 ……良い夢を見れたような気がする。


「おい」


 誰かにゆすられて、ティルは目を覚ます。


「ふぇ!? み、ミシェル様!?」


 気づけば、朝になっていた。

 そこには、悪夢に出てきそうな、悪鬼の形相のミシェルが立っていた。


「おはよう、ティル」

「おはようですぅ~……あ、あのぉ。どうしました?」


 自然と、ティルはミシェルの前で正座をする。


「カイウスは今朝、エステラの作った料理を食べました」

「お、おー、良かったじゃあないですかぁ」


「そうですね」


 全然良かった顔をしていなかった。

 どう考えてもキレていた。


(てぃるは一体どんな地雷を踏んでしまったのでしょぉ)


「カイウスに聞いたのです。どうして急に普通にご飯を食べれるようになったのかと……。そしたら、ティルをお嫁さんにする、というでは、ないですか」


(あれを真に受けてるのかこの人ら!?)


 つまり、ミシェルはティルにカイウスを取られてしまうと思い、ぶち切れているのだろう。


「ま、まあ……ミシェル様。落ち着いてですぅ。あんなの子供の戯言じゃあないですかぁ」


「戯言……? おまえは、カイウスの決意と覚悟を、そんな風に軽んじるのですか?」


 ……今までとは比ではないくらいの、怒りの表情を浮かべる、ミシェル。

 その場に刃物がなくてよかったと、ティルは心から思った。


 そのまま刺し殺されてもおかしくない、そんな殺気を、ミシェルからひしひしと感じるのである。


 ティルは体の震えが止まらなかった。


「か、軽んじてなんてないですぅう。滅相もないですぅ!」

「ならいい。おまえ……カイウスを泣かせたら、どうなるかわかってますね?」


「無論ですぅ!」

「よし。では三〇秒で支度しなさい。仕事にとりかかりますよ」

「合点ですぅう!」


 ミシェルが部屋を出て行き、ティルはハァ……とため息をついた。


(あれこれ……詰んでない?)


 仮に、カイウスと結婚した場合、姑にミシェルがついてくる。

 約束を反故にしたら、ミシェルが鉈を持って襲いかかってくる。


(ぼ、亡命先をリストアップしておいたほうがいいかも……ああ、駄目だ。追いかけてくる未来が見えるですぅ~……)


 ティルは、考えるのを止めた。

 とりあえず着替えて、目の前の仕事にだけ、集中することにした。


 人それを、現実逃避とも言う。

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― 新着の感想 ―
ご、誤字報告で、30秒を40秒に指摘したい(ぉぃ
ティルよ、強く生きるんじゃぞ 外部関係が希薄で、帝国内トップ2から不興をたびたびかいそうになり、将来が勝手に決まりかけているけど、強く生きるんじゃぞ
姑にミシェルが 小姑にミシェルがては? 義姉妹になるから
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