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【連載版】加護なしの第八王女は、前世が社畜だったので王宮生活がイージーモードにしか見えない  作者: 茨木野


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102/140

102.

 それから数日の間に、見捨てられていた辺境の村は劇的な変化を遂げた。


 ミシェルが手配した帝国の物資と人員が次々と到着し、途絶えていた流通網があっという間に整えられたのだ。

 壊れた家屋は修繕され、村人たちには十分な食糧と最新の薬が配給される。

 長年床に伏せていた村長ツヴァイの顔色も、見違えるように良くなっていた。


「親父、調子はどうだい」


「ああ。帝国の薬はよく効く。それに、村の皆も活気を取り戻してきてな。本当に、あの皇妃様には足を向けて寝られんよ」


 穏やかに笑う祖父の顔を見て、グレースは静かに決意を固めた。


 これほどの恩を売られて、何もしないわけにはいかない。

 マルコーという軍人が見せた帝国の誇り。そして、冷徹に見えて誰よりも的確に人々を救うミシェルの手腕。

 グレースは筋を通すため、ミシェルのボディガードとして仕えることを決めたのだ。


 しかし、いくら村が復興したとはいえ、高齢の祖父を置いて遠く離れることには未だ不安が残る。

 条件面での交渉をするため、グレースは大剣を背負い、王城に設けられたミシェルの執務室へと向かった。


(親父の安全さえ確約してくれれば、ワタシの命くらい安いもんだ。だが、どうやって話を切り出したものか)


 執務室の扉をノックし、中へ入る。

 そこには、相変わらず書類の山と格闘しているミシェルと、その後ろで腕を組んでいる巨大な皇帝ギデオンの姿があった。


「よく来ましたね、グレース」


「あんたに、一つ頼みがあって来たんだよ。ワタシはあんたの護衛になる。だけど」


 グレースが言いかけた、まさにその時。

 ミシェルはペンを置き、一枚の分厚い書類を机の上に滑らせた。


「貴女の祖父であるツヴァイ氏の、王都の特別医療施設への移送および、専属の介護スタッフの配置に関する確約書です」


「……え」


「村の復興は初期段階を終えましたが、高齢者の継続的なケアは専門施設で行うのが最も効率的ですからね。もちろん、貴女が休暇の際にすぐ会いに行けるよう、施設は王城のすぐ近くに用意してあります。これで懸念事項はなくなりましたか」


 ミシェルは中指で眼鏡のブリッジを押し上げ、涼しい顔で言い放った。

 グレースが口を開くよりも早く、彼女が抱えていた最大の不安要素を、完璧な形で先回りして解決してみせたのだ。


「あんた……。全部、お見通しだったってわけかい」


「データを見れば、貴女が何を望み、何を懸念するかなど容易に計算できます」


「ふっ。俺の女は世界一賢いからな」


 背後のギデオンが誇らしげに鼻を鳴らす。

 その言葉に嘘はないと、グレースは痛感した。


 圧倒的な頭脳と、隙のない配慮。

 ただの力押しではなく、論理と計算で相手の心を完全に掌握する手腕。

 グレースは深く息を吐き、これ以上の言葉は不要だと悟った。


「……さすがだよ。あんたの頭脳には、完敗だ」


 グレースは背負っていた大剣を床に下ろし、その巨体を折って、ミシェルの前に深々と片膝をついた。

 それは、誇り高きSランカーが、真の主に忠誠を誓う神聖な儀式であった。


「ワタシの力、すべてあんたのために使わせてもらうよ。これからよろしく頼む、ミシェル様」


「ええ。貴女の圧倒的な武力に期待していますよ、グレース」


 ミシェルが静かに微笑みを返す。

 こうして、冷徹妃ミシェルのもとに、帝国軍の精鋭すら凌駕する規格外の「最強の盾」が加わったのである。


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