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【連載版】加護なしの第八王女は、前世が社畜だったので王宮生活がイージーモードにしか見えない  作者: 茨木野


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103/138

103.

 王城の中庭には、初夏の乾いた風が吹き抜け、訓練に励む兵士たちの汗の匂いと土埃が混ざり合って漂っていた。


 そこへ、背の丈ほどもある巨大な大剣を背負ったグレースが、地響きを立てながら足を踏み入れる。

 ミシェルの専属護衛として正式に王城へ迎え入れられた彼女のもとへ、漆黒の軍服に身を包んだマルコーが優雅な足取りで近づいてきた。


「お待ちしておりました、グレース様。貴女がいればまさに百人力です」


 マルコーは甘い笑みを浮かべ、恭しく胸に手を当てて頭を下げる。

 そのスマートな出迎えに対し、グレースの岩石のような巨体が一瞬にして硬直し、顔が耳の先まで真っ赤に染まった。


「う、うるせえっ」


 グレースは照れ隠しに声を荒らげ、逃げるようにマルコーの背中をバシッと叩いた。


 ドゴォッ。


 ただのスキンシップのつもりだったが、Sランカーの桁外れな腕力は容赦がなかった。

 カエルが潰れたような奇声を上げ、マルコーの体が鞠のように跳ねて訓練場の端まで吹っ飛んでいく。

 彼は地面を数回転がり、痛みに顔を歪めて激しく咳き込んだ。


「て、てめえら。連携の動きはいいが、個々の筋力が圧倒的に足りないね」


 グレースは盛大に吹っ飛ばしてしまったマルコーから目を逸らし、周囲で呆然としている帝国兵たちを指差した。


「ワタシが今日から、てめえらをまとめて鍛え直してやる。それが、ここでのワタシのタスクだからね」


 腕を組み、仁王立ちで宣言するグレースの姿は、すでに歴戦の鬼教官そのものであった。

 ミシェルから具体的な指示を受ける前に、彼女は軍の現状を把握し、自らの役割を的確に見出していたのだ。


 その様子を回廊から見下ろしていたギデオンが、不思議そうに太い首を傾げた。


「ミシェルよ。あいつは、お前の専属ボディガードとしてスカウトしたのではなかったか。なぜ兵の教育係になっているのだ」


 疑問を口にする覇王の隣で、ミシェルは計算通りと言わんばかりに薄く冷たい笑みを浮かべる。


「無論、わたしの護衛を二十四時間体制でこなしつつ、空いた時間で帝国軍の底上げ教育もやってもらいます」


「なんだと」


「彼女の圧倒的な体力と処理能力があれば、その程度のマルチタスクは容易なはずですからね」


 ミシェルの口から放たれた、あまりにもブラックで容赦のない要求。

 効率とパフォーマンスを極限まで追求する冷徹妃の恐るべき本性に、ギデオンは引き攣った笑いを浮かべるしかなかった。


「いくらなんでも、人使いが荒すぎるだろっ」


 遥か下方の訓練場から、グレースの悲痛なツッコミが木霊する。

 最強の盾として迎えられた巨女の過酷な労働の日々が、ここに静かに幕を開けたのであった。


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