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【連載版】加護なしの第八王女は、前世が社畜だったので王宮生活がイージーモードにしか見えない  作者: 茨木野


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99.

 数日後。

 デッドエンドの村周辺に広がる深い森に、グレースの野太い怒声と魔物の悲鳴が響き渡っていた。


 彼女は自身と同じほどの背丈がある大剣を軽々と振り回し、群れを成して襲い来る狼型の魔物を次々と両断していく。

 しかし、倒しても倒しても、魔物の数は一向に減る気配がない。


「チィッ。今日はやけに数が多いね。これじゃあ、親父に薬を飲ませる時間に遅れちまうじゃないか」


 グレースが苛立ちに舌打ちをし、大剣を構え直したその時であった。


 シュンッ、と鋭い風切り音が森の中に響き、狼の魔物の一匹が悲鳴を上げて地に伏した。

 その額には、精巧な作りの矢が深々と突き刺さっている。


「なんだいっ。誰だっ」


 グレースが鋭く周囲を警戒すると、木々の合間から、漆黒の軍服に身を包んだ一団が音もなく姿を現した。

 その先頭を歩く、細身で美しい顔立ちの男が、優雅に頭を下げる。

 帝国軍の精鋭部隊を率いる、弓使いのマルコーであった。


「なんだい、お前たち。見ない顔だが、どこの部隊だ」


「お初にお目に掛かります。我々はミシェル様から派遣された帝国軍人です、レディ」


 マルコーは爽やかな笑みを浮かべ、胸に手を当てて芝居がかったお辞儀をした。

 グレースはそのキザな態度に片眉を吊り上げる。


「レディって柄じゃないだろうが。それで、帝国軍人がこんな辺境に何の用だい。ワタシは忙しいんだ」


「ええ、存じております。ですから、我々が参りました」


 マルコーは弓を構え直し、グレースの周囲を取り囲む魔物たちへ冷徹な視線を向けた。

 背後に控える帝国軍人たちも、一斉に武器を構えて殺気を放つ。


「『雑魚狩りは我らに任せて、貴女は早くお祖父様のもとへ帰りなさい』と。ミシェル様から、そのように厳命されております」


 その言葉に、グレースは大きく目を見張った。


 Sランカーであるグレースにとって、これらの魔物は確かに「雑魚」である。

 しかし、数は膨大であり、一人で処理するには時間がかかりすぎる。

 彼女の最も懸念している「時間」というリソースを、ミシェルは帝国軍を投入することで物理的に解決しようとしているのだ。


「……気を遣ってくれてるのかい、あの皇妃さんは。たかだか一人の冒険者のために、軍隊を動かすなんてね」


 グレースが大剣を肩に担ぎ直し、複雑そうな表情で呟く。


「まあ、そういうことだと思いますよ。あの方は、効率と結果を何よりも重んじます。貴女を休ませることが、結果的に最大のパフォーマンスを引き出すと計算されたのでしょう」


 マルコーが矢を放ちながら、こともなげに答える。

 その的確で無駄のない射撃により、魔物たちが次々と地に倒れていく。


 彼らの練度の高さと、ミシェルの回りくどくも確実な配慮。

 グレースはふっと息を吐き、口角を少しだけ吊り上げた。


「ふん。礼を言うよ。だが、あんたたちだけに任せて帰るわけにはいかないね。ワタシの獲物だ」


「おや。手伝っていただけますか、レディ」


「当然だ。さっさと片付けて、親父の薬の時間に間に合わせるよっ」


 グレースは地を蹴り、帝国軍の精鋭たちと共に魔物の群れへと突っ込んでいった。


 かつて孤独に戦い続けていた彼女の背中を、今は見知らぬ他国の軍人たちが確実に守っている。

 冷徹妃の計算された優しさが、強情なSランカーの心を、少しずつ、しかし確実に溶かし始めていた。


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― 新着の感想 ―
そうなんですよね~ 読みにくいですね
いつも楽しく読ませてもらってます お気づきかも知れませんが一応報告を。99と100が逆に投稿されてます
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