8 そして、ゴングは鳴り響く
戦闘シーンは次回からです。
「ふぅー、やっぱり業務は身体にくるな。」
「しっかりしてください会長。まだこんなにも業務が残っているのですから。」
「えぇ!?昨日見たときはこんなに無かったよね!?」
時間帯は正午。やはりここにも食堂から漂う料理の匂いが届いていた。
ここは学校の生徒会室。そして今は会長と副会長が雑務をこなしていた。今年から設置された意見箱のせいで業務量が去年の3倍にも増えてしまったため、昼休みまで業務をしなければならないと言う有様だった。
「今日の放課後に注目の模擬戦が開かれるんです。」
「注目?そんなにすごいのか?」
「はい!今年入った期待の新星のデビュー戦なんですから。」
「あぁ、えーと.....たかみね?とか言う名前の新入生だよな?......あれ?武道場で結構やってるよね?」
「あれは非公式だからですよ。公式戦は初参加です。しかも、彼女.....生徒会に入るかもしれないんですよ?」
「そうなの?....で、対戦相手は誰なの?」
会長が興味本意で副会長に質問をする。そんなに注目の一戦なら相手もさぞかし強いのだろう。
「えっと......無能力者です。」
「えっ?」
「はい、ですから高嶺さんは無能力者と戦います。」
混乱と動揺が会長の脳内に満ち溢れ、背筋がブルブルと震える。会長自身もこの学校に誇りを持っているが、こんな無謀な挑戦をする生徒がいると誇りに思えるか微妙なところである。
だが――。
「ねぇ、その対戦って何時から始まるの?」
「.....えっと、たぶん16時15分だった気がします。」
「じゃあ、それまでには業務全部終わらせないとね。」
「......え?」
副会長が驚いたような目つきで会長を見つめる。一方の会長は頬杖をついて副会長を和やかに見つめる。
静かな時間が流れた後、沈黙を破ったのは会長の一言だった。
「私のモットーは『百聞は一見にしかず』なんだよ。」
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5月の中頃なのに校庭にはやや冷たい風が流れていた。その風は草木を踊らせ、砂埃を巻き上げていた。
「なぁ、神代。やめといたほうがいいよ。」
「お前は黙ってろ。」
「.......。」
神代は芳泉の言葉を冷たくあしらう。だが、芳泉はその言葉に宥めるような優しい気持ちが存在することを知っている。
だから、芳泉は言う。
「....死ぬなよ。」
「...俺じゃなくてあいつに言ってやれよ。」
神代と芳泉がそんな会話をしているなか、高峰サイドでは2人をバカにする声が止まらない。
「ねぇ、本当にやるの?」「無能力でしょ?相手にならないって...。」「委員長もなんであいつのこと構ってんだよ。もういいだろ、あんな奴。」
様々な言葉が飛び交う中心に高嶺はいた。上下体操着の姿は一部の男子を興奮させると共に、高嶺自身の決意を表しているかのようだった。
だが、それは外見の話――。
(待って.....どうしよう、た、戦うことになっちゃった....こ、こんなはずじゃ無かったのに...こんなはずじゃ!!)
「おい、高嶺。大丈夫かよ?」
「え、えっ?」
野次馬の1人から飛んできた心配するような声で高嶺は正気を取り戻す。辺りを見渡すとみんなが心配するような目つきで自分を見つめる。まるで、何かを待っているかのように....。
「は、ははっ....大丈夫よ。能力出力をどれぐらいにすればいいか悩んでたの。相手は無能力者よ?私が本気を出したら死んじゃうわ。」
「まぁ、そりゃそうか。」
「う、うん.....。」
高嶺は落ち着くために大きく深呼吸をする。あまりにも早く鼓動する自分の心臓に不快感を感じながらも、体温を上げるために準備運動をし始める。
「なぁ、あっちのサイド全然人いなくね?」
「ほんとだ。ってか、ちょっといる奴らもこの前話してた野次馬じゃん。」
「なにそれ?超ウケるんだけど。」
ドクン
「あっ、神代が着替えて準備体操始めたわ。」
「まじ?負けるのによくやるよねぇ。」
ドクン
「まぁ、何秒持つかの戦いだからね。」
「えぇ~、何秒持つと思う?」
「知らん、30秒いったら相当じゃない。」
「いや、いくわけないでしょ。」
ドクン!
ドクン!
ドクン!
(もう......ダメ――。)
「おい、高嶺。あっち準備できたらしいぞ。」
「えっ、え、えぇ、行ってくる。」
高嶺は声援に無理やり押されるように一歩前に出す。その一歩は高嶺にとって地獄の一歩。進むごとに歩幅が短くなっていく。だが、どんなに短くなっても進むという行為には変わらない。気が付くと高嶺は神代の前に着いていた。思ったよりも大きい体に少し圧倒されつつも、高嶺はいつもの態度を崩さない。
「ふん、ようやくね。」
「.......。」
「チキンだったアンタがここまでするのは少し驚いたけど.......私にはもちろん、観客にもこの戦いの結末が見えてるみたい。そ、それなのにアンタはこの勝負に受けるわけ?」
「.......。」
「ね、ねぇ、何か言ったら――。」
「ビビってんのか?」
「えっ.....。」
「こんなところにまで来てちんたらと喋りやがって.......そんなん見たら戦いたくないって言ってるみたいなもんだぜ。」
「........。」
「安心しろ借りは返してやるよ。」
神代は下に向けていた目をゆっくりと上にあげる。その眼光が向けられるのは当たり前のように高嶺。だが、高嶺はそうは感じない。もっと遠く、高嶺の応援をしている生徒にも同じ目を向けているような気がした。
「両者そろいましたのでこれから模擬戦を始めます。では、位置についてください。」
模擬戦を担当とする教員が2人に合図する。その合図を受け取った2人はお互いに背を向けてゆっくりと距離を取っていく。そして、2人が止まったのを確認すると教員は二人の目を見て頷き宣言する。
「ただいまより、高嶺麗華 vs 神代透の能力使用許可試合の模擬戦闘を行います!」
その言葉に周囲からうるさいほどの拍手と歓声が沸き起こる。それを周りの教員が落ち着かせると、再び空間に緊張が満ちる。小鳥の声すらはっきり聞こえそうなほどの静寂。それを突き破ったのは教員の開始のかけ声だった。
「Let's fight !!」
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