2 反逆の狼煙
「へぇー、君高校生なんだ!若いねぇ、いいことだ。」
「......あのぉ.........結局僕に何の用が.....?」
土手上の道を進んだ先にある橋、そこで2人は腰を手すりに掛けて話し合っていた。
ふと、神代は隣にいる男を見る。
ローブのようなもので体の全体が見えず、顔もフードで隠れていて口元より下しか見えない。明らかに不審者だが、ここにいなきゃいけないという本能が神代を止めていた。それにしても、男と話していたが声が高いせいで男か女かわからない。
――不気味。
「えっ、用?いやいや、そりゃ人が倒れてたら声をかけるでしょ?」
「.......噓ですね?」
「ん?どうして?」
神代の問いに男は疑問で返す。しかし、その声色は多少の期待や興味が含まれているように感じられた。
「本当だったら『力が欲しいか?』みたいなバトル漫画みたいなこと言いませんって。」
「バトル漫画!?なっつ~......読んでるの?」
「まぁ、はい......今はみんなが漫画みたいなことできますから、漫画なんて売られてないですけどね。部屋には一様ありますよ。」
「本当に!?」
(まさか.....漫画でここまで反応するとは....)
漫画の話になり少しうれしくなる神代だったが、話を逸らされていることに気づいて再度男に詰め寄る。
「で、どうなんですか?」
「う~ん.......正解!」
「ですよね。」
チャラく返されてしまったが、どうやら噓をついていたらしい。しかし、嘘をついていたことはそれほど重要ではない。
重要なのは――。
「......『力』って......能力のことですか?」
「.....うん、ってか君......無能力者だろ。」
「......なっ!?」
「あふれてるんだよ.......無力感がさ。」
「そ、それと何が関係あるんですか......?」
無能力者だとバレて嘲笑されるかと思ったが、横にいる男は笑わない。それどころかどんどんと真剣な雰囲気になっていく。神代自身、親や友人以外とこんなに話したことはない。それでも話しているのは、この男に何か惹かれるものがあるからだ。
「.....話す前にタバコいいかい?」
「......どうぞ。」
「ありがとう。」
男はローブの中からタバコが入った箱とライターを取り出してフードの前で火をつける。タバコに火が移った後は白煙が空へと薄くなりながら立ち昇っていく。それを神代は見つめていると、男に肩を叩かれる。
「君は?.....いる?」
「.......はい。」
黄昏ているのか、神代はだめだとわかっていてもタバコを受け取ってしまう。
「あぁ、高校生なのに......」
「もう、両親いないんでいいんですよ。」
「えっ、そうなの?」
「はい.......5年前ぐらいに他界しました。」
「えっ、親戚の人は?」
「仕送りをたまにしてくれるぐらいですよ。直接会いに来てくれたことは一回もありません。多分ですけど、無能力な俺に会いたくないんだと思います。」
あきらめたような顔で神代は笑う。人生で初めてのタバコは思ったより甘く、苦かった。これを学校の人や先生に見られたら大変なことになるかもしれないが、どうせ明日も何かいちゃもんつけられて怒られるんだから......
「はは......わっははっは!!」
「急に笑い出して.....どうしたんですか?」
「いや~.....センスがある子を拾ってうれしいだけさ。」
「?」
男は神代の孤独さを笑っているが、なぜかいやな気持ちにはならない。おそらく、嫌みを込めていないのだろう。自然と笑っている.....そんな印象がする。
「はは.....はぁー......あぁ、笑った笑った。」
「楽しかったですか?」
「うん、もちろん!」
「それはよかったです。」
神代は男に笑いかける。
最低な会話でもよくここまで盛り上がるもんだ。
「じゃあ、君のことも結構分かったことだし.......本題、話そうか。」
「!!」
(ほ、本題!?)
いきなり現れた本題という言葉に神代の目が少し見開く。
そして男はこちらの興味を誘うように間を置くと、ゆっくりと喋りだす。
「......今から23時間13分11秒後に......東京駅構内で言葉では表せないほどの異常現象がやってくる。その現象を乗り切った時、君の望むものが手に入るだろう.......。」
「と、東京駅で......異常現象?」
正確な位置と時間、そして今僕が望むもの......この男はすべてを示した。
「別に?行くもいかないも君次第だしぃ?僕はどっちでもいいけどぉ?」
望むものが手に入る........それなら――。
「その情報に噓はないですね?」
「もちのろん!!」
「じゃあ......いきます。」
神代は小さく決意の言葉を漏らす。その言葉を聞いた瞬間、男の口角が動く。まるで、その回答を知っていて待っていたかのように....。
「じゃあ!この話は終わり!僕はもう帰るね?」
「えっえ?帰るって――。」
「よいっ...しょ!」
男は満足したように手すりから腰を離すと、その手すりの上に立ち上がる。
橋の下にはさらさらと流れる川。だが、それは川底の石の間隔が分かるほど浅い。
「ちょっ!!あっ、危ないっ!!」
「じゃあねぇ~!!」
神代が男の足首をつかむ前に男の体が力を抜けたように前に倒れ始める。
そして――。
スカッ
神代の手が空を切る。
慌てて神代が体を乗り出すが橋の下に男の姿はない。それどころか、何もなかったかのように平然と風が吹いている。神代にクソみたいな日常が帰還する。頭と心が重い。
この風は......なにも吹き飛ばしてくれない。
いや、なにか神代の中に入り込んでくる感覚.....。
「.....行くか。」
神代は橋の中央から遠ざかっていく。
向かっている先は誰も待つ人がいない自宅。
それでも帰らなきゃいけない。
それに今日はたくさん準備することがあるのだから。
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