1 異常な日常
いつ頃だろうか――。
能力がこの世の中の基本となってしまった。
原因不明の現象――通称《覚醒》により、人類はそれぞれ異なる“能力”に目覚めた。
この世のほとんどの人類はなんらかの能力に目覚め、日々至る所でその能力を活用している。
例えば炎を操る者、未来を視る者、身体を変質させる者……。
なかにはその能力を悪用して世の中を乱す者もいれば、その反対で悪党を抑制する為のパトロールチームが組まれるなど、能力の使い方は多岐多様になった。
能力が生きる指針。
能力が全ての基準。
そんなクソみたいな世の中をまるで窓から覗くように見下ろしている少年がいた。
彼の名は神代透、高校1年生のごくごく普通な生徒....。
だったらよかったのだが――。
「神代、お前全模試どうだったんだよ?」
神代が担任から返された結果表に見入っていると、友人からそう声をかけられた。
「学校は1位だったけど.....これはダメだな。全国9位に落ちたわ。」
彼は悠然にそう告げる。まるで自分の順位に満足でもしてないかのように。
「はぁ?お前それはウゼェよ。俺なんかケツから数えたほうが早いわ。」
頭を掻きながら苦しそうな表情をする友人を神代は笑って見つめる。その後、まるで諦めたような乾いた目つきを再び結果表に向ける。
『学力:A+ 全国9位
能力:E− 無能力なため不実施
総合:E− 無能力のためデータが不明確』
能力テストの欄には『E−』という最低な評価がされ、それに伴って総合順位も最低レベルになっていた。
「っ.....まぁ、まぁ!気にすんなよ、能力が無くたってお前には頭があるだろ?」
そうして、友人は神代の背中を優しくさする。寄り添うように感じられる手の感覚は、より神代の無力さを強調しているかのようだった。
――神代透、彼は無能力者である。
この世界では弱者で醜いものとして扱われる。そんな烙印を押された神代だったが、その影響は社会だけで無くこの学校にも反映されていた。
「ちょっと!このクラスにクソ代という無能力者はいるかしら!?」
突然、頭が割れるほどの高い声が教室中に響き渡る。人々が見つめたのは教室前方の扉。そこにいたのは金髪サイド縦ロールの貴族のような制服を着ている女。制服の胸部には赤いバッジがついていて、神代の同学年ということが分かる。
「ふふ、聞こえなかったのかしら?このクラスにクソ代というザコがいるでしょ!!早くそいつを連れてきなさい!」
――クソ代?
クソ代とはどういうことだろうか?
このクラスにクソ代という名の生徒はいないはずだが.....
「あぁもうッ!!神代透、神代透はどこよ!?」
ようやくクソ代の正体が明かされた。どうやらあの金髪縦ロールは神代のことをずっと呼んでいたらしい。
「....なんだよ、高嶺....。」
「ふん、やっと出てきたわねザコ。」
神代の前を立ちはだかるようにして立つ少女、名前を高嶺麗華と言う。
他を寄せ付けない絶対的な能力で、この学校で一位、全国でも2桁台という神代とは対局の位置にいる存在だ。そんな彼女の能身は『物体霧散』、手に触れた物体で命を持つもの以外を霧に変えるという力だ。この力を使って彼女はこの学校のカーストトップに君臨している。
では、そんな彼女がなぜ神代のところに来たのか....。その答えは彼女自身が教えてくれた。
「アンタがいると学校の面が汚れるのよ。さっさとここから消えてくれない?」
「.....ずっと言ってるけど俺はこの学校から出て行く気はない。」
「あらそう?私との模擬戦にも断ったチキンさんなのに?」
「......。」
「あら?図星ってやつかしら?」
確かに神代は高嶺との模擬戦を何度も断っている。しかし、それは神代が、単なる臆病というわけではない。そもそも、能力を持っていないため試合にすらならないからだ。
神代自身そんなに負け戦は好きではない。
そもそも高嶺に挑むということさえ、無謀に近い。
「ふん!まぁ、いいわ!明日は来ないでね、クソ代。」
「......あぁ。」
金色に輝く髪がヒラリとひるがえして廊下へと消えていく。こちらをいっさい振り返らずに廊下を進んでいく姿を見て神代は思う。「あぁ、もう嫌だ。」と。
クラスを見渡しても、神代を見てクスクス笑うクラスメイトしか視界に入らない。やはり、みんなは能力が正義だと思っているからだ。
完全なアウェーな状況。
それでも神代は静かに自分の席に戻ると勉強を始める。
全てはこの社会をぶっ壊すために――。
#####
夕日が当たってキラキラと輝く川の水を神代は土手に座りながら見下ろしていた。さらさらと心地のいい風は今日一日の悩み、苦しみをすべて吹き飛ばしてくれる。
「俺、何やってんだろうな......。」
ふと、自分のことをばかばかしく思ってしまう。
頭さえよければ国の重鎮になれば政治で今の世の中を変えられると本気で考えていた。しかし、現実はそう甘くはない。このご時世、ただのコンビニアルバイトでも受かるためには自己防衛のための能力が必要となる。
「あっ.........けんかだ。」
土手の下に広がる広場、12年前ぐらいは野球場だった場所が能力使用許可場になっている。そこで子供たちが何か言い合いながら火球や水球を飛ばしあっている。両者の技がぶつかり合うごとに衝撃音と波動がこちらまで届く。
小さい子供でもできることを自分はできない。
思考を放棄した神代は子供たちを一瞥してからゆっくりと立ち上がる。
その目に輝きはない、気力はない、希望はない。
それに対応するように身体に能力はない。
右手には小学校の入学記念で両親からもらった分厚い雑学書。
それをくれた両親はもうこの世にはいない。
残っているのはこの本だけ。
「......う”うっ.....う”っ。あれ、おかしいなぁ?忘れたはずなのに........。」
頬を一筋の水が駆け落ちる。目に熱がこもる。
もう限界だった。
「ううっ……うわ"あ"あ"あ"ぁぁぁぁ……!!」
腕の力がなくなり、バックがゆっくりと地面に落ちる。しかし、そんなことは気にならない。神代は地面に倒れこんで弱弱しく拳を叩きつける。鈍い音があたりに響くと共に血が地面と雑学書に染み付いた。
「悔しい......悔しい悔しいっ!!なんで、俺が.......おれがぁ....。」
誰も彼に寄り添わない。
誰も彼を理解しようとしない。
これが現実――。
「.........ねぇ、君.......力が欲しくない?」
突如、神代の後ろから声が飛んでくる。夕暮れ時に地面をぶっ叩いて泣きじゃくっている高校生に声をかけるなんて.......。この世界にもまだ人情というものが残っているのかもしれない。
「......だ、誰....?」神代がうるんだ瞳を後ろへと向ける。
「はは、誰.....かぁ...........うん、僕はね、通りすがりの心優しい青年さ。」
神代は見た。
フードを被った男を.......。その男はこちらに向けて手を伸ばしている。
夕日が二人を照らす。
「君、この世界は窮屈じゃないかい?」
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