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3 繰り返す


「おっ、今日休むのか神代?」

「......はい。」


ざわざわとうるさい廊下に比べてここは居心地がいい........数秒前まではそう思っていた。


ここは先生達の憩いの場、職員室。ここに神代は今日1日だけ休むことを伝えに来たのだ。理由は体調が悪いというありきたりなものにした。


「そうかそうか。ゆっくり休んでいいからな神代。」

「分かりました。」

「ほんっと!お前はよく学校来てるよ、もう少し楽してもいいんじゃないか?」

「そう......ですかね?」


神代は奥歯をかみしめて、殴りかかりそうになる衝動を抑える。いや、多分殴りかかっても能力でやり返されるだけだ。しかも、退学もセットで.......。


「あっ、そういえば神代。」

「なんですか?」

「また、高嶺のやつがお前宛に模擬戦をしようと言ってきたぞ。ったく、あいつもしつこいよなぁ。なぁ?お前もそう思うだろう?」

「はは、まぁ.....そうですかね。」


この先生が心配してくれてるように思うかもしれないが、神代は深く理解している。この先生の腹の内は『俺に不登校になってほしい。』だ。友人経由でこいつが高嶺を支援していることも知っている。それでも言わないのは、どうせはぐらかされるからだ。


表面だけの心配。


偽善者の典型的な特徴だ。



(本当に......反吐が出る。)



「じゃあ、失礼します。」

「おう、気をつけて帰れよ。........あっ!そういえば....。」

「?」


「このこと高嶺に言ってもいいか?」



「......大丈夫ですよ。」(死ねよ、偽善者が.....)



神代が閉めた扉の音は誰よりも鈍く重かった。



#####


「せんせー!おはようございます。」

「おぉ、高嶺来たか。」

「はい、今日の能力実習の持ち物を聞きに来ました。」


ここは職員室。高嶺はここへ能力実習の担当の先生に用があってきた。


この国では身を守るためには能力を使用してもよいという法律になっている。そのため、各学校で行われていた武道の授業が消えて能力実習の授業が必修化されていた。週に3回あるこの授業は生徒や先生にも気に入られている授業になっている。


「あぁ、水筒とタオルがあれば十分だ。」

「本当ですか?じゃあ、みんなに言っておきますね!」


高嶺はメモを取りながら了承する。高嶺自身は元々の能力が強力なため訓練などしなくても自己防衛ぐらいはできる。そのため、授業の際はサボっていることが多い。


(今日は.....屋上行こうかな。.....あいつ、今日長距離だから上から見えるし.....。)


高嶺は再度先生に一礼をすると、近くの扉を開け廊下へと出ていこうとする。


「あっ、待て。」

「はい?」


ちょうど片足を出したくらいで先生が高嶺を呼び止める。(なんだ?サボらないでみんなに能力出力の仕方を教えろって言いたいの?)と思っていたが、それは思い違いに終わる。


「今日、神代が休みって連絡が入ってな......良かったな。」



「.............はっ?」



「おいおい、うれしすぎたのか?顔が固まってるぞ?......う~ん、確かにそうだよなぁ。お前ずっと神代のこと嫌いだったからな。」

「..........な、何が原因で休んだんですか?」

「う~ん、たぶん風邪って言ってたな。まぁ、どうせ仮病だ。お前に恐れて学校に生きたくなくなったんだろう。」


突然のことで背筋が冷える。


高嶺自身はそこまで追い詰めたつもりじゃない。


ただ........



「ど、どうして――。」



少女の顔には絶望がにじんでいた。


#####


学校を出た後、神代は最寄駅から電車で乗り込み東京駅を目指していた。


「本当..........なんだろうな......?」


昨日の夕暮れ時の会話を思い出す。謎の男が神代に向けていった『力が欲しいか?』といった声が頭の中で反芻(はんすう)する。正直のところ半信半疑だ。確実に信用してはいない。人間というものは期待が大きいほど失望も大きくなる、そんな生き物だと雑学書にも載っている。


(けど、あいつ.......いったいどこへ?)


ぼんやりと窓の外を見ながら考え事をしていると、車内にアナウンスが鳴り響いて駅に到着したことを告げる。現在は午後3時.......つまり、男が言っていた時刻の約1時間前になる。早め早めの行動が大事だと親にも言われ続けたのでつい癖で来てしまったが、このままでは駅内で暇つぶしをしないといけなくなってくる。


(まぁ、東京駅だし.......何かおいしいものとかあるでしょ?)


電車が止まると、神代は人の流れで外に押し出されるように車外に出る。きれいなタイルが床に敷き詰められていて思わず目を閉じる。神代にとっては都会の様式はまぶしすぎたのかもしれない。それでも階段を上っていくと、そこには神代の知らない世界が広がっていた。


(全体的に眩しいなぁ....。うわっ、あのお姉さんすごっ!....ほぼパンツ見えてるって。ん?あそこの店はコロッケ売ってるのか....美味しそうだなぁ。お金が貯まったらもう一度来よう...。)


一つも見逃すものがない都会の景色に神代は興奮を抑えきれない。そもそも、東京に来たことが初めてなので、まるで小さい子供のように色々なところへと走り回る。



そうなると一時間を過ぎるのも一瞬でーー



「そろそろ言ってた時刻か....。」


だんだん近づいてくる時刻に焦るどころか落ち着いている神代。先程の半信半疑もその原因にあったが、1番は神代が死んでも困る人間がいないということだ。そもそも無能力者という足を引っ張る存在はこの世にいないほうがいいのかもしれない....そこまで考えてしまう。


「俺、死んだら保険適応されるのかなぁ.....まぁ、もういいか。考えるだけ無駄だな。」


神代の腕時計の針が小刻みに動いている。それをあと20回ほど刻めば、男の言っていた時刻になる。


果たして異常現象とはなんなのかーー。


火炎能力者による能力暴走、及び爆発。

氷結能力者による能力出力誤差、及び閉じ込め....。


神代の頭の中には様々なシチュエーションが展開される。それでも神代はその異常現象というものを予想できない。



ーー言い表せないほどの異常現象。



この世界は能力に満ちている。そのためなんかしらの異常があっても、軽視されて日常と認定されてしまう。


(.....この狂ってる世界には、もうフィクションなんて降りてこねぇよ....。)


神代は時計に目を落とす。気がつけばもう3秒前になっていた。周囲のざわめきで聞こえないはずの秒針の音が大きく聞こえる。それに同調して自分の鼓動が速くなる。


カチッ!


カチッ!



カチッ!



神代はいつの間にか閉じていた目を開ける。薄目で見た景色は先ほどと変わらない日常の景色だった。


「....結局嘘か...。」


神代は失望する。対して期待してはいなかったはずだが、どうやら心の奥では今の現状を変えたいと願っていたらしい。


「帰るか....家に。」


こうして、神代は先ほどまで進んだ道を戻るように歩いて行く。その足取りは重く、切ない。今の神代を表しているかのようだった。



また、神代の苦痛な毎日が始まるーー。




そうなるはずだった.....。



「!?」


神代は目を見開く。そこには先ほどと変わらない日常の景色あった。



そうーー、先ほどと1()()()()()()()()()()()がーー。



「おいおい、ふざけんなよ.....?」



神代は理解したくない情報を景色と共に反射的で掴み取ってしまう。これが、あの男が言う『言い表せないほどの異常現象』らしい...。



「く、繰り返されてる!?」



ご拝読ありがとうございます。

もし読んでみて面白いと思っていただけたら、評価とブックマークをしていただけると幸いです


また、不明点やアドバイス、感想、アンチコメも受け付けてます。

皆さんの意見をぜひお聞かせください。

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