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12 天誅


「ゆ...ブハッ!....ゆ...許して...。」

「許してぇ?....何言ってんだ、お前が散々やってきたことの報いだろ。」


強風で砂埃が舞い散る中、校庭中央には2人の姿があった。1人は地面に仰向けで横たわっており、もう1人はそれを踏みつけていた。散々痛めつけたのか、その辺りには大量の血が散乱している。


「な....なんでこんな.....ことするの?」


殴られたことにより赤く腫れ上がった瞳で高嶺は神代を見つめる。言葉を発している口や肌だけでなく頭や腹からも血が溢れ出し、身体がだんだんと冷たくなっているのを肌でひしひしと感じる。


(あれ......?どんどん、瞼が重くなって....。)


そして、高嶺は失神しかける。



だが、目の前にいる男はそれを許さなかった。



「ダメだろ...。勝手に気を失ってもらっちゃあ、まだまだ借りを返し終えていないからな。」


突然、高嶺の体に異常が起こる。明らかに気絶しておかしくない状態なのに、どんだけ時間が経っても意識を手放せない。苦痛と恐怖が永遠に続く。


そう、()()()ーー。


「今、お前が失神してないところで()()したからな....俺が解除しないと、意識飛ばせねぇぞ。」


神代は『輪廻(ループ)』を高嶺に使ったのだ。だが、生物に能力を使うときは縛りがある。気になるのは神代がそれをどうやって解決したのか......。しかし、この能力の唯一の障壁も至極簡単なことでとっぱされているのだ。



「いやぁー、助かったわ。この対戦をするように楽器始めから()()()()()()()()()()()....。おかげで条件が達成できたわ。」



そう、神代は高嶺から毎度のように押しかけられた模擬戦(デメリット)を承認したために条件をクリアしたのだ。


「ゆ....グハッ!....許して....な、()()()()()()()()....。」

「おっ!本当か!?....いやぁ、でもいらないかなぁ。別にお前に何かして欲しいとかねぇし。」


その言葉に自然と高嶺の瞳から涙がこぼれ落ちる。頬に生温かい軌跡を残すそれは、校庭の地面に染み込んでシミを作っていく。神代はそれをぼーっと見ていると、ふと辺りのある変化に気がついた。それは周りからのヤジがいつのまにか無くなっていることだった。......否、なくなってはいなかった。


「や、やばくね....?」「えっ...高嶺死ぬんちゃう?」「おいおい!教師は何してんだよ!?」「なにあれっ!?神代あんなに強いのっ!?」


小さな声で囁かれるように話されている話。それは高嶺のことを心配するものもあれば、神城への驚愕の言葉もあった。たった30分ほどで観客の視線を釘付けにした神代だったが、彼自身は満足しているどころか少し退屈なまでもあった。


そんな中、周りから押し出されるように出てきた模擬戦の審判を担当している教員が神代へと慌てて声をかける。


「か.....か、神代くんっ!そ、そこまでですっ!!これ以上は彼女の身に危険がーー!」

「なんだなんだぁ?やけに焦ってるじゃねぇか。芳泉の時は助けなかったくせに、学年トップが死にかけてたら試合を止めるまで心配するのかぁ!?」

「ち、ちがっーー!?」


教員が反射で首を横に振る。それは猛獣と対峙したときの防衛本能に近い。だが、分が悪かったようだ。


「あぁ....お前も今まで俺をコケにしてくれたよなぁ?.....こいつみたいにしてやろうか?」

「ひぃっ!!」


恐怖で腰が抜けて校庭の地面へと倒れ込む教員。神代は高嶺がもう動けないのを確認すると、教員へと一歩一歩近づいていく。


「く.....く、く、くっ来るなぁぁぁ!!」

「.....」


無言でこちらへと歩みを進める神代を見て、教員の頭には『死』がよぎる。ヨダレと涙がこぼれ落ちていることにも気がつかず、ただただ命乞いをしているだけ。


(....そんなん、ロボットだってできるわ。)


呆れたのか、さっさと終わらせようと神代は拳を後ろにゆっくりと引く。それは教員にとってカウントダウンのようなもので...。


「....とりま...死んどけ。」

「ゔわぁぁぁぁっ!!」


思いっきり振るった右拳は教員の(ひたい)に向かって一直線で飛んでいく。



だが、その拳が教員に当たることは無かった。



「もう.....大丈夫だ。...だからもう終わろう。」

「......!!」


パンッという乾いた音が響き、神代が驚いて自分の右拳を見ると誰かが手のひらで神代の拳を止めていた。腕を伝って上へと視界を上げると、そこにいたのは神代の唯一の友人の芳泉が立っていた。


「ほ.....ほ、芳泉っ!?」

「もう、やめろ。このままじゃ、死人が出る。......それは誰も望んでいないことだ。」


芳泉が神代を宥めるようにゆっくりと話しかける。それに神代は応えるように冷静さを取り戻していく。さっきまでの興奮が消えて急におとなしくなった校庭は、全員が現状を見直すことで殺伐とした空気に変わっていった。


「ごめん、芳泉......ちょっとやりすぎたかもしれない。」

「いいんだ。俺だって心配かけてごめん。」


お互いがお互いのために謝る。それはどことなく友情という言葉を形にしているかのようだった。


全体が落ち着いてきてあとは事後処理だけになっていた時、その場の雰囲気を破壊するようなタイミングである男がやってきた。



「.....いやはや、すごいなぁ。生徒会の役員があっさりとやられてしまうなんて...。」



不意に後ろから響いた声に神代と芳泉が驚きで振り返る。その視界の先にはこの学校の制服に目立つような赤ネクタイを着用した、いかにも目立ちたがり屋のような見た目をした男。だが、この学校で赤ネクタイは目立ちたがり屋と反極の位置に存在する。


「ひょ、豹洲崎(ひょうすざき)生徒会長っ!?.....い、いったいなぜここに?今日は業務が山のようにあるはずじゃ....。」

「あぁ、芳泉くん?....いやぁ、なんか新しく生徒会に入るかもぉ....しれない子の模擬戦があるって聞いたからね。爆速で終わらせてきちゃった。」


豹洲崎は芳泉に不敵に笑いかける。だが、話しながら一歩ずつこちらへと進む姿はこの学校の長にふさわしい貫禄を放っていた。


「また丹波(たんば)副会長に押し付けたんですか?」

「押し付けたなんて.....そんな心にもないこと言わないでおくれよ。」

「実際やってるから言うんですよ...?」

「まぁ、今現在は彼女は高嶺さんとそのお友達の救護にあたってるけどね。」


豹洲崎はそう言うと、親指を後ろに向けて高嶺の方向を指す。そこには高嶺のそばで支援能力を使っている丹波の姿があった。


「一般の学校だったら緊急事態だけど....彼女がいるから『模擬戦』が出来るんだけどね。」


模擬戦を申し込むには教員と生徒会の許可がいる。教員の方は校庭や武道場の使用許可だけだが、生徒会は対戦生徒の情報公開と保護、そして1番大事な丹波の派遣など多岐にわたって行っている。


神代はあまり理解できていないが、当の2人はとても楽しそうにそんな会話をしている。ふと、豹洲崎が神代の退屈そうな顔に気づくと、一瞬で神代の前に現れて右手を優しく握る。


「.......はっ?」


突然、豹洲崎が瞬間移動したかのように見えたが、後から来る風の流れや息遣いがそれを否定する。明らかに豹洲崎は一回の跳躍で神城の目の前に現れたのだ。


「ごめん、びっくりさせちゃった?」

「えぇ...は、はい...。」


少しカタコトになってしまったが、どうやら神代の思いは伝わったらしい。豹洲崎は少し反省したような顔色を見せ、「ごめん!」と片手を軽く上げて謝る。


だが、神代が気になったのは豹洲崎の態度ではない。


気になったのはーー。


「の、能力ってやつですか?」

「えっ?」

「いや、そんな一瞬で俺の目の前に移動してきたので、移動系統の能力を使ったのかと...。」


神代が興味本位で聞くが、一方の豹洲崎は面白かったのか大声をあげて笑い出す。急に笑い出した豹洲崎に驚くのも束の間、神代は先ほどの答えを聞くことになる。


「いやぁ、ごめんねぇ。.....その答えとしては()()()使()()()()()よ。」

「えっ......?」

「ただ単に筋力だよ。まぁ、あとはボクシングとかのステップとかを使えばね.....ほら、自分ボクシング部だから。」


神代の頭が理解を拒む。素であの強さ、この能力社会でも()()()()()()()の強さだと言えるだろう。


「あ、あんた......いったい何者だよ?」

「んっ?......なぁに、僕はしがない生徒会長だよ。」


そうやって言葉巧みに操る姿を見て、神代は豹洲崎に疑いの目を向ける。ところが、そんな相手が次に発した言葉は、神城の耳を疑うほどのものだった。


「そうそう!僕は君に用があってきたんだ、神代透くん。」

「えっ?高嶺や芳泉とかじゃなくてですか.....?」

「うん、君良かったらさぁーー。」



「ーー生徒会に入ってみない?」



ご拝読ありがとうございます。

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また、不明点やアドバイス、感想、アンチコメも受け付けてます。

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