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チャンスあるようでないものってどう思います?

「そこでこちらから提案があります」

 考えこもうとしたときに、メリダが声を上げた。

 俺は目を上げた。シェリーとクリスも驚いたようにメリダの方に注目する。

「魔族であるあなたに神の祝福の意味を知る機会を。その試練を授けましょう。もしその試練を無事達成されれば、検討してもよいでしょう」

 俺はその意味を図りかねて問うた。

「……どういう意味だ?」

「そのままの意味です。私はこれでもあなたには敬意を払っているのです、ダスクさん。あなたは確かに魔族ですが、世界の危機に立ち向かおうとする意志に関して本物だと思っています。その気持ちは私にもあります。ゆえにあなたの意志に可能な限り報いたいと思ったのです」

 善意百パーセントの押し出しで、裏については教えるつもりはないようだ。だが、他に方法がないというならば仕方がない。俺は短く息を吐いた。

「……乗せられている感じなのが少々気にかかるが、仕方ない。折角チャンスをくれるというんだ。その試練、是非受けたいね」

「それでこそです。ではこちらについてきてください」

 そうしてメリダは俺を試練の場へと誘ったのであった。


 連れ出されたのは少し教会から離れた地下の一室だった。入った瞬間、俺は目が眩みそうになる。エルバスタの地上以上の祝福で満たされていた。絶不調の底なし沼に陥るような感覚はどこまで続くのかと呪いながら俺は皮膚がひりつくような痛みに耐える。

「着きました」

 不思議な場所だった。地下にも拘らず、太陽の光が天井から差し込み周囲は明るい。春の風のような温かい風が吹き、どこか包み込むような穏やかな優しさに心に安らぎを覚えるだろう。――人間ならばだ。半魔の俺は――以下略。

「紹介します。ここは初代のエルバの聖女エリシアの霊廟になります。死してなお、彼女の祝福は我らをお守りくださっているのです」

 メリダは地下室の奥に黙祷を捧げた。奥には歴代聖女の名前が刻まれた墓標があった。

「なんだ?俺に墓参りでもやれってか?」

「悪くはありませんが、違います。もう少し簡単なことですよ」

 入口付近で突っ立つ俺を置いてメリダは地下室の奥に進む。墓標の前にある壇上に立ち、メリダは机に置かれていた木製の十字架を手に取って俺に示した。

「さて、ダスクさん。あなたへの試練は簡単です。そこからこの十字架を取ってくること。それだけで構いません」

「……それだけか?」

 俺は問うてみた。ただ、その問いはその言葉の意味に反して力なく小さいものであった。

「それだけです。ですが、魔族のあなたにはそれが何よりも厳しい試練でしょう。現にあなたは一歩も前に進めない、そうでしょう?」

「…………」

 一言も反論できなかった。

 そうだ。その通りである。全身が警告を発している。一歩でも前に行けば、『焼かれる』。魔を拒絶する祝福に俺は冗談では済まない程度の耐えがたい苦しみを受けるだろう。

 冷や汗が垂れる。距離にして十数メートル。たったそれだけの距離を歩いて、物を取ってくるだけのこと。その辺の子供でもできることだ。クリスにもできる。

 頭が前に出ろと弱弱しく呟く。足は動かなかった。

 手を伸ばす。しかし何も掴めやしなかった。

 何もできはしなった。あいつらを見送ったあの時のように。

「…………」

 俺は力なく手を下ろし、ぎりりと歯噛みした。情けないことに俺はいつものふてぶてしい余裕を忘れ、ただ近くとも限りなく遠い十字架を睨むばかりだった。

「シェリー」

 メリダの声が沈黙を破った。

 シェリーが「はい」と、返事をして前に出る。

「あなたには彼の監視と試練の見届け人をお願いいたします。頼みましたよ」

「はい、シスター・メリダ。承りました」

 シェリーは恭しく礼を返した。

「ダスクさん、あなたがこの試練を受けるか受けないか、それはあなたにお任せします。試練を受けないことは恥ではありません。あなたは魔族なのですから。どのような選択であれ私はあなたの意志を尊重します」

 そう言い残してメリダはシェリーに任せて、地下室を出る。残ったのはシェリーと俺、そして場違い感が半端ないクリスの三人だ。

 重苦しい空気。俺は大きなため息を付いて俯いた。

 切り替えろ、いつもの俺に。思い出せ、いつもの俺を。

 そんな暗示は不要だったか。顔を上げた俺は反骨精神剥き出しのひねくれた自分を取り戻す。

「まあ、あれだ。ものは試しといこうか」

 死ぬほどではあるまい。ならば試す価値はある。挑む理由もある。それにこの程度で何もせず退いては命を懸けたあいつらに申し訳が立たない。

 俺は一歩踏み出した。まだ何もない。

 俺はもう一歩踏み出す。突如視界が歪み、凄まじい苦痛に声を漏らす。

「ぐっ……!あ、あ、あっ……‼」

 そして俺は気合で重い足を持ち上げ縺れるように前に出した。

「が、ああああああああああッ‼」

 この世のものと思えない全身が張り裂けんばかりの激痛に俺の身体は地面に崩れ落ちた。手を伸ばす。まったく距離は縮まらない。遠く届かない十字架はやがて暗闇の中に消えていき、俺は気絶した。

……いや、無理だろこれ。

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