奇妙な魔族。揺らぐ少女の心
前代未聞のエルバドルフへの侵入を果たした一人の魔族。その男が語る情報量の多さ、というよりも状況の難しさにシェリーの頭は処理しきれないでいた。
人間の希望である英雄の死。千年前の魔神の復活。そして、無謀とも思える対抗の一手。
嘘だ。魔族の言葉は信用するに値しない。命惜しさにシェリーを言葉巧みに惑わそうとしている、そうに違いない。
……。
そう言い切れない自分がいることにシェリーは苦しんだ。あの魔族の言葉は傲慢で嘘くさく飄々としていた。だが、一方で真に迫るものがあったのも確か。
すぐに判断できなかったシェリーはその場を後にした。部屋の外で見張りをしていた衛兵が声をかけた。
「どうでしたか?何かわかりましたかね?」
エルバドルフは半ば閉じられた世界だった。魔獣や魔族は祝福に満ちたエルバドルフには近寄らない。そのため、戦闘も滅多になく、衛兵たちの任務は巡礼者の対応や領主からの寄進の受付程度。衛兵たちは刺激の少ない退屈な毎日に飽きていた。
そんなところに魔族の登場である。大した被害もなく捕まったとあれば、魔族が現れた危機感よりも、興味関心がどうしても先に来てしまう。
シェリーは物憂げな顔で首を振った。
「いえ、色々と話はしてくれましたが、魔族の言葉です。どこまで信ずるに足るか……。あなたもくれぐれも耳を貸さないように。引き続き警戒をお願いいたします」
シェリーが気を引き締めるように念を押す。「は!」と敬礼して衛兵は警戒に戻った。
シェリーは考え事をしながら、礼拝堂へ向かう。時間は既に夜。見張りの兵士とクリス以外誰も教会にはいない。虫の音が静かに響いた。
礼拝堂にたどり着いたシェリーはゆっくりと扉を開ける。するとそこには思いがけない先客がいた。
一人の修道女が祈りを終えて立ち上がる。シェリーの方へ振り向いてにっこりと笑った。
「ただ今戻りましたよ、シェリー。どうやら大変な騒ぎがあったようですね」
「母さん……!」
シェリーはメリダに抱きついた。メリダの留守を預かる身としての責任感から気を張っていたが、今回の事態は彼女の手に余るところであった。不安から解放されて、ようやく重い肩の荷が下りた心地だった。
柔らかに受け止めたメリダがシェリーの髪を優しく撫でる。
「予定よりも少し早く帰れました。事情はある程度聞いています。が、今一度あなたの口からも教えてもらえませんか?」




