最高に最悪だった。まあ、お前らがそれでよければいいけどさ。
ヒュージボアは完全に骨だけになってしまった。昨日の宴会で半分は干し肉、半分は村人たちの胃袋へと消えていったのだ。
アンデッドのために干し肉をもらう、という選択肢もなくはなかったが、奴らアンデッドは血抜きされた肉は好まない。好き嫌い激しいのだ。どうせ文句言われるくらいなら、村の皆に使ってもらう方がいいというもの。俺はアンデッドの報酬を諦めることにした。後でどうとでもなるしな。
翌朝、俺はザックと別れの挨拶をすることにした。
「ダスクさん、本当にお世話になりました。私たちの腹踊りいかがでしたでしょうか?」
お前は腹踊りしか興味ないのか?
「……ああ、最高だったぜ!」
最高に最悪だった。あの時は酔って場が温まっていたからこそよかったものの、あれをかつての仲間が見ればどう思うか。……端的に死にたくなる。
ザックは嬉しそうに頷いた。
「それは良かった。私たちもダスクさんのこと忘れません。このことは腹踊りと一緒に残していきたいと思います」
狂ってやがるな、この村長。
「いや、いいよ。というか考え直しません?そんなもの伝統にしたら笑われますよ?」
「ははは、楽しんでもらえるなら、それが一番ではないですか!昨日も大変盛り上がりましたしね!」
「……まあ、そんなにやりたいなら俺からはなんとも言えないが……」
理解に苦しむ。これが人間独自の感性というものか。アンデッドの方がよっぽど分かりやすい。
「それで、報酬のことで――」
そう言うとザックは分かりやすくたじろいだ。
「そうでした。そうでした。はい、こちら銀貨二枚になります」
ザックはさっと銀貨二枚を俺の手に握らせた。そして俺が口を開く前に、ザックは言葉を続けた。
「いやあ、我らの窮状を察して、依頼を引き受けてくれるなんて、あのなんとお礼申し上げていいか。ああそうだ。こちらは野菜の漬物なんていかがでしょう?銀貨二枚では心苦しいですからな!ぜひ受け取っていただきたい!味は保証いたします!旅の道中にお召し上がりください」
ずいっと押し付けられるように今度は袋を渡された。中に酢漬けの野菜が入っているのだろう。ありがたい。ありがたいが、味の好み的にも俺の欲しいものではない。
「……ありがとう。で、報酬の話がしたいんだが」
ぴきり、と言い逃れを封じられたようにザックが固まり、「……なんでしょう?」と恐る恐るという体で聞いてきた。
会話途中からの想像通りだった。どうやらこいつは報酬の上乗せが不安だったようだ。確かにあのヒュージボアを討伐して銀貨二枚はあり得ない。上乗せ報酬が想像つかないからこそ、腹踊りを全力で突き進んだわけだ。しかしあれ真に受けるかね。
俺はザックを安心させるように言った。
「いや、そんなに構える必要はねえよ。ちょっとしたお願いをするだけだ」
そう断って、俺は本題に入った。
「実は俺は聖地エルバドルフに行こうとしていてな。距離的にはここから数日のところか。そこまでの道案内を頼みたいんだ」
ザックが目を丸くした。
「なんとエルバドルフですか!ですが、納得しました。確かにこんな辺鄙なところにあなたのような腕の立つ方がいらっしゃるのは不思議だと思っていたのですが、そういうことですか」
まあな、と言って俺は続けた。
「どうも噂では流れ者には簡単にエルバドルフに入れないような仕掛けがされていると聞く。まあ、聖地だからな。そりゃあ、簡単に誰でも入れるってわけじゃないだろう。時間をかければ何とかなるかもしれないが、あまり変な労力を割きたくもない。そのあたりのことを教えてくれれば助かると思ってね」
ザックはほっと胸をなでおろした。金銭や何らかの無茶な要求ではなく、簡単なお使い程度ということで安心したのだ。
「なるほど。分かりましたよ。そうですか。目的は聖地巡礼といったところですかな?」
「ああ、そんなところだ」
そんなわけない。信じてもいない神に祈るためにわざわざこんな人間界誰が行くかよ。
そんな本音を隠して俺は言った。
「報酬というと大仰だが、要はエルバドルフまでの道案内、到着までの同行を依頼したい。できるか?」
ザックは快諾した。
「それはもちろん。このあたりの集落ならば皆巡礼や教会からの御用のために何度も言ったことがあります。誰でも、という訳ではありませんが、何人か案内可能です。いいでしょう。誰か一人呼んで――」
「俺が行くよ」
朝からずっと黙ったままついてきた少年が手を上げる。
何やら一日で一皮むけた少年がやりたいことを見つけて、思い切ったことをしようとしている雰囲気を出していた。
「クリス?しかし子供のお前に任せるというのは……」
「別にいいでしょ?俺もあの仕掛けとか知っているし、案内できるからさ。それに大丈夫だよ。おじさんはとても強いもん」
「それはそうだが……」
ザックは戸惑ったように俺に目で伺いを立てた。ご迷惑ではないか、とその目は聞いている。
まったく、元気で生意気な少年だ。しかし、何となくこうなるんじゃないかと予感はあった。
「何がお前をその気にさせたのか分からんが、少年。俺は別に構わん」
俺の言葉に少年は嬉しそうに目を輝かせた。
昨晩あれだけのことがあって自分から手を上げるとは。これはつまり……?
「もしかして俺のこと好きだったりする?」
「き、気持ち悪っ!なんでそんな話になるの⁈今、ぶるって来た。おじさんって本当に頭おかしいよね!」
その顔に断じて照れはなかった。ただ狂人を見るような目で見返されてしまった。いやまあ顔を赤らめられても困るんだけど。そもそも俺の性癖の守備範囲外である。
ザックが慌てて、
「ク、クリス!お前、ダスクさんになんてことを……!冗談に決まっているだろうが!謝りなさい!」
「嫌だよ!俺は間違ってないもん!この人、本当に頭がおかしいんだ!」
「少年、本人を前によくそれだけ言いたい放題言えるな」
こんなに真剣な頭おかしい発言初めて聞いた。
俺は変な感心をした後「まあ、いいか」と言って、
「正直、案内人が誰であろうとどうでもいい話だ。俺は目的地にたどり着ければそれでいい」
俺はにやりと笑って少年に手を差し出した。
「改めてもう少しの間頼むぜ、少年」
「俺の方こそよろしくね、おじさん!」
クリスも嬉しそうに俺の手を握り返したのだった。
ここでいったんキリよく終わりました。ダスクの自己紹介の話として入れてきたところです。
重い一話目から一転して、コミカルな話です。癖が強いとも言えます。
この後も、ダスク節は続いていきますが、それだけではなく、シリアスなシーンも出てきます。
最後になればなるほど面白いのかなと個人的に思いますのでもうしばらくお付き合いいただけると嬉しいです。
さて、皆さんいかがだったでしょうか。
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零細なので、励みと自信になります。
それではあともうしばらくよろしくお願いいたします。




