七話:パーティを組んであげる
中古のブーツは、思ったより硬かった。
白鹿亭の前で何度か足踏みをしてみる。革靴よりはずっと歩きやすい。地面を掴む感じもある。石畳の上でも滑りにくい。
だが、まだ足に馴染んでいない。かかとのあたりが少し当たる。
「……痛くなりそうだな」
(中古ブーツ!!見た目は完全に冒険者っぽくなった!!足元だけ!!でも硬い!!前の持ち主、履いてなかったのか!?)
肩の上で、シューシュが身を乗り出した。
「ジン、ブーツです!」
「ああ」
「革靴ではありません!」
「そうだな」
「では、革靴ハンターではなくなりましたか?」
「その呼び名はもういい」
「では、ブーツハンターです!」
「ハンターはだいたいブーツだろ」
シューシュは胸のコアを淡く光らせながら、俺の足元をじっと見ていた。
「ジンの足元、少し強そうです!」
「足元だけか」
「はい!」
「正直だな」
俺は軽く息を吐いた。異世界三日目の朝。昨日の初依頼で何とか生きて帰り、報酬で中古のブーツを買った。
金は増えたようで、結局あまり残っていない。だが、少なくとも革靴で遺跡を歩く状態からは一歩進んだ。会社員だった俺が、中古ブーツで宿の前に立っている。
(人生急ハンドル!!ようこそ洞窟パラダイス!!)
その時、通りの向こうからイオナが歩いてきた。
赤に近い茶色の髪を後ろでまとめ、腰には短剣。いつもの動きやすそうな旅装だ。
昨日と違うところがあるとすれば、表情だった。どことなく、いつもより真剣に見える。
いや、真剣というより、少し落ち着かないようにも見えた。
俺の方を見て、足元を見て、また俺の顔を見る。それから一度だけ、小さく息を吸った。
「おはよう」
「ああ。おはよう」
「ブーツ、履いてるのね」
「やっと買えたからな」
「痛くない?」
「少し硬いが、大丈夫だ」
「最初はそんなものよ。慣れるまで無理しないこと」
「わかった」
イオナは俺の足元を確認したあと、少しだけ視線を逸らした。そして、何かを決意したようにこちらを見た。
「今日はまず、あんたの今後について話があるわ」
「今後?」
「そう」
イオナは腕を組んだ。表情はいつも通りに見える。だが、よく見ると耳が少し赤い。
「仕方ないから、しばらくあんたとパーティを組んであげる」
「……いいのか?」
俺が聞くと、イオナは少しだけ眉を上げた。
「勘違いしないでよ。別に、あんたと組みたいとか、そういうことじゃないから。白札一人でうろうろされたら危ないし、組合にも迷惑がかかるし、シューシュのこともあるし、教会に目をつけられたら面倒だし、あと、その、昨日みたいに転びかけられても困るし」
「わかった」
「わかったじゃないわよ。ちゃんと聞いてる?」
「聞いてる。理由が多いなと思って」
「多い方が正当性があるでしょ」
「そういうものか」
「そういうものよ」
イオナはぷい、と横を向いた。
(これを言うために、すごく用意してきた感じがする!!でもめちゃくちゃ助かる!!)
シューシュが肩の上で手を挙げた。
「イオナ、たくさん理由を用意してきました!」
「用意してないわよ!」
「すらすら言えました!」
「黙ってなさい」
「はい!黙ります!」
「だから、それが黙ってないのよ」
いつものやり取りだ。少しだけ空気が柔らかくなる。俺はイオナに向き直った。
「正直、俺だけじゃ何もわからない。イオナがいてくれるなら心強い」
「……そう」
イオナは一瞬だけ言葉を詰まらせた。それから、少し早口になった。
「そ、そういうことを簡単に言わないで。別に、あたしが特別どうこうじゃなくて、青札が一人いるだけで白札の安全性が上がるっていうだけだから。依頼の範囲も少し広がるし、組合への報告も通りやすくなるし、実務上も必要ってだけで」
「理解した。実務上、頼りにしてる」
「実務上を強調しなくていいわよ!」
「言い方が難しいな」
「難しくない!」
イオナは少しだけ咳払いをした。
「とにかく、ちゃんと頼りなさい」
「ああ。よろしく頼む」
「任せなさい」
そう言ったイオナの声は、いつもより少し小さかった。シューシュが首を傾げる。
「では、イオナも相棒ですか?」
イオナの表情が固まった。
「ち、違うわよ。パーティメンバーよ」
「相棒ではないのですか?」
「違うって言ってるでしょ」
「ジン、違うのですか?」
シューシュが俺を見る。
俺は少し考えた。
「パーティを組むなら、仲間ではあるな」
「仲間!」
シューシュの胸のコアがぱっと明るくなった。
「イオナは仲間です!」
「大きな声で言わない」
「仲間は大事です!」
「それは……まあ、そうだけど」
イオナは何でもない顔をしようとしている。だが、少しだけ視線が泳いでいた。
「……まあ、そういうことでいいわ」
「嬉しいですか?」
「嬉しくないわよ」
「でも、嬉しそうです!」
「嬉しくないって言ってるでしょ」
「ジン、イオナは嬉しくないそうです」
「そうか」
「そこは信じるの?」
イオナがこちらを見た。
「違うのか?」
「……そういうところよ」
「何がだ?」
「何でもない」
イオナは早足で歩き出した。
「ほら、組合に行くわよ。パーティ登録するなら、書類が必要だから」
「また書類か」
「当然でしょ」
「読めないんだよな」
「わかってる。代筆するわ」
「毎回すまない」
「別に。慣れてきたし」
イオナはそう言ったあと、少しだけ口元を緩めた。
「変なことを書かれたくなかったら、ちゃんと横で答えなさい」
「信用されてるのか、されてないのか」
「信用はしてるわよ」
「そうなのか」
「ただし、目は離さない」
「監視だな」
「見守りよ」
俺たちはベルカ・トレジャーハンター組合へ向かった。
朝の組合は、相変わらず慌ただしかった。昨日よりも少しだけ、その空気に慣れた気がした。
(昨日は全部が異世界だったけど、今日はちょっとだけ職場っぽく見えるな!!飛び込み営業に行く前みたいな!!)
受付に向かうと、昨日も見た女性職員が顔を上げた。
「おはようございます。今日は依頼ですか?」
イオナが答える。
「その前に、パーティ登録をお願いしたいの」
「パーティ登録ですね。構成は?」
「青札ハンター、イオナ。白札ハンター、ジン。登録アーティファクト、シューシュ」
「私は相棒です!」
シューシュが元気よく言った。受付の女性は一瞬だけ目を丸くし、それから慣れたように微笑んだ。
「書類上は登録アーティファクトになります」
「書類上です!」
「そうです」
シューシュは納得したように頷いた。
「実態は相棒です!」
「ちゃんとわかってるよ」
俺が小声で言うと、シューシュは胸を張った。受付の女性は書類を取り出す。当然、俺には読めない。
「登録は、仮パーティでよろしいですか?」
俺が首を傾げると、イオナが説明してくれた。
「仮パーティは、短期間や依頼単位で組む登録よ。固定パーティは、継続的に活動する正式な組単位。名前をつけて、依頼記録もその名前で残るわ」
「いきなり固定ではないと」
「当たり前でしょ。まだ組むって決めたばかりなんだから」
イオナは少しだけ言葉を早めた。
「べ、別に、固定が嫌って意味じゃないわよ。ただ手続き上、いきなり固定にする必要がないってだけで、仮で様子を見て、問題なければそのうち固定にしてもいいし、しなくてもいいし、とにかく今は仮で十分ってこと」
「詳しいな」
「普通のことよ」
「助かる」
「……べ、別にいいわよ」
イオナは小さく呟いた。
受付の女性は書類に視線を落とした。
「代表者はどうしますか?」
イオナが少し考えた。
「今は私でいいわ。ジンはまだ白札だし、文字も読めないから」
「異論なし」
「異論あったら困るわ」
受付の女性が書類をこちらへ向ける。
「代表者イオナ、同行者ジン、登録アーティファクト一体。白札の方がいるため、高危険度依頼と遺跡深部への申請はできません。ただし、青札のイオナさんが代表者になるので、街道周辺調査や低危険度の外縁依頼は受注可能になります」
「つまり、少しは行ける場所が増えると」
「そういうこと。あんた一人なら無理な依頼でも、私がいれば受けられるものがあるわ」
イオナが少し得意げに言った。
「頼りになるな」
「……べ、別に、頼ってくれればいいのよ」
イオナは視線を逸らした。受付の女性が微笑んでいる。たぶん、見なかったことにしてくれている。
「パーティ名は未定でよろしいですか?」
「パーティ名?」
俺が聞き返すと、イオナは肩をすくめた。
「固定にする時でいいわ。今は仮だから未定で十分」
シューシュがぱっと手を挙げた。
「価値あるガラクタ隊!」
「却下」
イオナが即答した。
「早いな」
「今のは早く却下すべきでしょ」
「ジン、だめですか?」
「悪くはないが、恥ずかしいな」
「恥ずかしいですか!」
「かなり」
シューシュは少し残念そうに胸の光を弱めた。
「では、拾いもの隊」
「悪化してるわよ」
「小型ゴーレムと仲間たち」
「主役を取るな」
「難しいです!」
受付の女性が、笑いをこらえるように口元を押さえた。
「では、パーティ名は未定で登録しますね」
「お願いします」
イオナが代筆し、俺は聞かれたことに答える。名前、登録札、同行範囲、責任者。こういう手続きは、どこの世界でもあるらしい。
(異世界にも書類!!やっぱり仕事と生活から書類は逃げられない!!)
書類を書き終えると、受付の女性が小さな札を二枚出した。俺たちの登録札とは別の、薄い木札のようなものだった。
「仮パーティ証です。正式な固定名が決まるまでは、これを依頼ごとに提示してください」
「わかったわ」
イオナがそれを受け取る。その表情は、どことなく真面目だった。
「これで、パーティか」
俺が言うと、イオナは少しだけ肩をすくめた。
「仮よ。まだ仮」
「仮でも十分だ。これで少し、この世界に足場ができた気がする」
イオナは一瞬だけ目を逸らした。
「……そ、そう。なら、その足場を勝手に崩さないでよ。危ない時は黙らない。勝手に動かない。拾う前に一度こっちを見る。いい?」
「わかった。相談する」
「そう。それでいいの」
イオナは少しだけ咳払いをした。
「……とにかく、ちゃんと生きて帰ること」
「ああ」
イオナは一瞬だけ満足そうな顔をした。
だが、すぐにいつもの表情に戻る。
「それと、あんたの服装もそのうち何とかするわよ」
「靴の次は服か」
「当たり前でしょ。その格好、街中でも目立つし、遺跡では危ないわ」
「スーツは防御力が低いからな」
「防御力以前の問題よ」
「でも、これはこれで動きやすい」
「嘘でしょ」
「いや、慣れてる」
「慣れてるだけで、向いてるわけじゃないの」
「正論だな」
シューシュが俺の袖をつまんだ。
「ジンの服、しわしわです!」
「言わなくていい」
「しわしわハンターです!」
「増やすな」
イオナが頭を押さえた。
「本当に、装備を整えることから始めないと駄目ね」
「金が足りない」
「だから依頼を受けるのよ」
「生活が回り始めた感じがするな」
「回さないと止まるわよ」
「重い」
「現実よ」
パーティ登録が終わったところで、奥から低い声がした。
「おう。早速パーティか」
振り返ると、グレン支部長が腕を組んで立っていた。
「グレン支部長」
「イオナ、監視役が正式に世話役になったな」
「違います」
「違わんだろ」
「違います」
「……まあいい」
グレンは楽しそうに笑ったあと、俺を見た。
「ジン。パーティってのは便利なだけじゃない。命を預ける相手だ。軽く考えるなよ」
「はい」
俺は自然と背筋を伸ばした。
「イオナに迷惑をかけないようにします」
そう言うと、イオナが少しだけ眉を寄せた。
「そこは違うわ」
「違うのか?」
「迷惑をかけるな、じゃなくて、危ない時はちゃんと相談しなさい。勝手に抱え込まれる方が迷惑なの」
「理解した」
「あと、勝手に変なものを拾わない」
「それは難しい」
「即答しないで」
グレンが肩を揺らして笑う。
「いいじゃねえか。役割がはっきりしてる」
「どの辺がですか?」
俺が聞くと、グレンは指を折った。
「ジンは変なものを拾う。シューシュはそれをしまう。イオナは二人を止める」
「俺の役割が迷惑行為みたいになってますね」
「だいたい合ってるだろ」
「否定しきれない」
シューシュが元気よく言った。
「私はしまいます!」
「そこは胸を張るところか?」
「収納は大事です!」
イオナがため息をつく。
「支部長、真面目な話をしてください」
「してるさ」
グレンは少し表情を引き締めた。
「今日受けるなら、街道沿いの簡単な採取か、外縁の確認補助あたりにしておけ。昨日の巣穴増加の件もある。深いところへ行くな」
「わかっています」
「ジンもだ」
「はい」
「返事はいいな。あとは実行できるかだ」
「努力します」
「そこは断言しろ」
「自信がないので」
グレンはまた笑った。
「変わらねえな」
掲示板の前で、イオナは依頼を選んでいた。
俺は横に立っているだけだ。
文字が読めないので、依頼書を眺めても何もわからない。
「今日はこれね」
イオナが一枚の依頼書を取った。
「何の依頼だ?」
「街道脇の魔力草の採取。危険度は低いわ。昨日のブーツ慣らしにもなる」
「魔力草」
「薬や簡易魔道具の素材になる草よ。間違えやすい似た草があるから、ちゃんと確認しながら採る必要がある」
「地味だな」
「地味な依頼ほど大事なの」
「昨日も聞いた気がする」
「何度でも言うわ」
シューシュが手を挙げた。
「私も確認できますか?」
「できるの?」
「たぶん!」
「たぶんは不安ね」
「でも、半分くらいはできます!」
「半分なのね」
俺は思わず笑った。
その時、背後から気だるい声が聞こえた。
「あー、仮パーティ登録か」
振り返ると、ダリオが柱にもたれかかっていた。
薄い金髪を雑に流し、首元には青札。相変わらず眠そうな目をしている。
「ダリオ」
イオナが警戒するように名前を呼ぶ。
「何よ」
「いや、面白そうなことしてんなと思って」
「見世物じゃないわ」
「わかってるって」
ダリオは俺を見る。
「革靴……じゃなくて、今日はブーツか」
「その呼び方を変えるなら、普通に名前で呼んでくれ」
「仁」
「はい。急に普通だな」
「呼べって言っただろ」
「そうだが」
ダリオは俺の足元を見る。
「中古にしちゃ悪くねえな。ちょっと硬そうだけど」
「よくわかるな」
「足運び見ればな」
「そんなに見てるのか」
「気になるもんは見る」
イオナが横から言う。
「ダリオはそういう人よ。面倒だけど、目はいいの」
「褒めてる?」
「一応ね」
「一応かよ」
ダリオは気にした様子もなく、軽く肩を回した。
「で、仁。依頼から戻ったら、ちょっと付き合えよ」
「何に?」
「腕試し」
「遠慮したい」
即答した。
ダリオは眠そうな顔のまま笑う。
「だろうな」
「なら言わなくていいだろ」
「でも俺、気になったら確かめないと落ち着かねえんだわ」
「迷惑な性格だな」
「よく言われる」
シューシュが胸を光らせた。
「腕試しです!ジン、頑張りましょう!」
「シューシュ、応援の方向性が違う」
「ジンならできます!」
「何を根拠に」
「相棒なので!」
「根拠が強いようで弱い」
イオナがダリオを睨む。
「この人、まだ白札よ」
「知ってる」
「戦えるわけじゃないわ」
「それも知ってる」
「じゃあ何を試すのよ」
「そこが気になるんだよ」
ダリオは、にやりと笑った。
「昨日の鼠の件。金属片を集めて群れの向きを変えたんだろ?ああいうの、普通の白札はやらねえ」
「必死だっただけです」
「あー、はいはい」
「信じてないな」
「信じてるさ。あんたが必死だったってところはな」
「他は?」
「見てから考える」
「聞けば聞くほど不安になるな」
ダリオはひらひらと手を振った。
「まあ、殺し合いじゃねえよ。訓練場で軽くな。依頼から戻ったら声かける」
「逃げる選択肢は?」
「あると思うか?」
「ない気がしてきた」
「正解」
イオナがため息をついた。
「ダリオ、怪我させたら承知しないから」
「お、もう保護者か」
イオナの眉がぴくりと動いた。
「違うわよ。保護者じゃないし、世話役でもないし……いや、世話はしてるけど、それは必要だからで、白札が無茶をしたら同行者の責任にもなるし、怪我でもされたら報告書が増えるし、シューシュも不安がるし、支部長にも何か言われるし、だから止めてるだけよ」
「よく喋るな」
「うるさい」
「なるほどな」
「何がよ」
「いや、何でもねえ」
俺は少し考えた。
「報告書が増えるのは確かに面倒だな」
「そこじゃないわよ」
イオナが即座に言った。
ダリオは肩を揺らして笑う。
「まあ、安心しろよ。壊す気はねえ。ちょっと反応を見るだけだ」
「その“ちょっと”が信用できないのよ」
「信用ねえな」
「日頃の行いでしょ」
「否定はしねえ」
ダリオは俺を見て、軽く顎をしゃくった。
「仁。依頼が終わったら訓練場な」
「できれば忘れてほしい」
「忘れねえよ」
「それはわかってた」
シューシュが肩の上で元気に言った。
「ジン、腕試し用のガラクタを探します!」
「探さなくていい」
「必要になるかもしれません!」
「その可能性があるのが一番怖い」
「アーカイブ・コア、準備します!」
「準備しないでくれ」
イオナは深く息を吐いた。
「私が見てるから。変なことになりそうなら止めるわ」
「イオナが見てくれてるなら、かなり心強い」
イオナは一瞬固まった。
「……だから、そういうことを普通に言わないで」
「普通に言っただけなんだが」
「普通に言うから困るのよ。こっちは毎回ひやひやしてるのに、あんたは急にそうやって素直に頼るし……そういうの、反応に困るの」
「すまん」
「謝らなくていい!」
「俺の返し、だいたい外してるな」
「そういう問題じゃない!」
イオナは顔をそむけた。
耳が赤い。
ダリオがそれを見て、何か言いかけたが、言わなかった。意外と空気は読むらしい。
「じゃ、依頼帰りにな」
ダリオは面白そうに笑い、組合の奥へ歩いていった。俺はその背中を見送る。
「……腕試し、避けられない感じか?」
「ダリオはしつこいわよ」
「やっぱりか」
「でも、悪い人ではないわ。しつこいだけ」
「それも十分困るんだが」
「それはそうね」
シューシュが肩の上で元気に言った。
「ジン、腕試しです!」
「できれば忘れてほしい」
「忘れません!」
「忘れないタイプだったな」
イオナは依頼書を持ち直した。
「とにかく、今日は採取依頼。腕試しのことは後で考える」
「賛成だ」
「まずはブーツに慣れる。危ないものには近づかない。気になるものを見つけても、一度私に言う。いい?」
「了解」
「シューシュも」
「はい!変なものは拾いません!」
「本当に?」
「ジンが拾ったらしまいます!」
「しまわないで止めなさい」
「難しいです!」
イオナは深くため息をついた。
「……やっぱり、私が見てないと駄目ね」
「何か言ったか?」
「何でもないわ」
そう言って歩き出したイオナの背中は、少しだけ頼もしく見えた。昨日までの俺は、この世界で何もわからない異邦人だった。いや、今もほとんど何もわからない。
それでも、今日からは一人ではない。肩の上にはシューシュ。隣にはイオナ。
そして、なぜか腕試しをしたがる青札ハンターがいる。
(順調なのか!?これは順調なのか!?仲間はできた!!でも面倒ごとも増えてる!!)
俺は中古ブーツの紐を軽く締め直し、イオナの後を追った。まずは、魔力草の採取。そして、たぶんその先に、避けられそうにない腕試し。
異世界三日目も、どうやら静かには終わらなそうだった。




