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価値なき石の拾い主 〜ガラクタ好きのおっさんと、記憶を失った小さなゴーレム〜  作者: でう


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プロローグ2

 帰宅して、玄関の鍵を開ける。


「……ただいま」


 返事はない。一人暮らしなので当然だ。だが、この静けさが俺は嫌いじゃない。


 ポストを見ると何か入っている。水のトラブル屋の広告マグネットだ。昔に活躍していた有名人が広告塔になっている、絶妙にごきげんなデザイン。


普通なら捨てるだろう。だが、俺は捨てなかった。理由は単純だ。磁石だからだ。この“かろうじて役に立ってます”感が健気でいい。


 上着を脱ぎ、ネクタイを外し、コンビニ袋をテーブルに置く。冷蔵庫から冷やしていたビールを取り出し、広告マグネットを扉に貼り付け、部屋の奥にある棚へ向かった。


 そこには、俺のコレクションが並んでいる。拾った石。錆びたネジ。用途不明の金属片。古い鍵。きれいなビー玉。どの服についていたかわからないおしゃれなボタン。そして、観光地のお土産屋で買った剣のキーホルダー。


 銀色の小さな剣。柄の部分には赤いプラスチックの宝石。刃には、なぜかドラゴンのような模様が入っている。中学生が好きそうなデザインだ。いや、中学生に失礼かもしれない。でも、そこがいい。この全力で間違えたかっこよさが、たまらないんだよな。


 買った時は少し恥ずかしかった。店員が何も聞かずに袋へ入れてくれた時は、少しだけ感謝した。


 俺は棚を眺めながら、朝拾った緑の石を取り出す。


「……今日の新入りだ」


 棚の前に置いてみる。馴染む。妙に馴染む。


「お前は、センターだな」


 俺は缶ビールを開け、一口飲んだ。


「……悪くない」


 仕事中、俺は効率的な顔をしていた。無駄を削り、余計な会話を避け、必要なことだけをした。


 でも今は違う。俺は、何の役にも立たないものを眺めながらビールを飲んでいる。この時間が、一番自分らしい。


 緑の石を手に取る。表面には、まだ少し汚れが残っていた。


「……少し拭いとくか」


 机の端に置いていた柔らかい布を取り、石を軽くこする。 その瞬間だった。石が、強く光った。


「……ん?」


 最初は、部屋の照明が反射したのかと思った。違う。石そのものが光っている。


「おいおい……なんなんだよこれ!」


 光はどんどん強くなる。緑色の光が、白に近い眩しさへ変わっていく。壁が照らされ、テーブルが照らされ、棚に並んだコレクションの輪郭までもが白く滲んでいく。


「ちょっ……!」


 足元の感覚が揺らいだ。まるで部屋そのものが、光の中にほどけていくようだった。 棚の上で、何か小さなものが揺れた気がした。


「……ん?」


 確かめようとした瞬間、視界が完全に白で埋まった。


「おい、待て!さすがにこれはヤバ…!」


 声が最後まで出たかどうかもわからない。落ちているのか。浮いているのか。回っているのか。何もわからないまま、俺は反射的に目を閉じた。


 最初に感じたのは、冷たく湿った石のような感触だった。


「……っ」


 背中が痛い。硬い床の上に倒れているらしい。頬に触れているのは、フローリングではない。


 湿った土の匂いがする。空気が冷たい。暗い。


「……は?」


 ゆっくりと目を開ける。真っ暗だった。いや、完全な暗闇ではない。握っている石が、淡い緑色に光っている。


「……どこだ、ここ」


 声が、少し遅れて反響し、部屋ではないことはわかった。俺の知っている場所ではなさそうだ。壁は岩肌。床も岩。天井から水滴が落ちているのか、ぽちゃん、と遠くで音がした。


「……洞窟?」


 自分で言って、余計に意味がわからなくなる。


 夢か?気絶しているうちにどこかに運ばれたのか?いくつか現実的な可能性を並べてみる。だが、どれも決定打に欠けた。スマホを取り出す。画面は点いたが、圏外。


「……マジか」


 試しにライトを点けようとして、すぐにやめた。バッテリーはある。だが、ここがどこかわからない以上、無駄遣いは避けたい。


 代わりに、手の中の石を見る。石は淡く光っていた。そして、その光は細い筋のように伸び、洞窟の奥を指し示している。


「……奥?」


 出口ではない。少なくとも、俺にはそう見えた。


「普通こういうのって、出口を指すもんじゃないのか」


 もちろん、石に普通も何もない。


(いや、落ち着け!! まだそういうやつと決まったわけじゃない!!)


 そういうやつ。つまり、現実では説明しづらい何か。


(洞窟っぽい場所にいるだけだ!! ……いや、洞窟っぽい場所にいる時点で相当おかしいけど!!)


 心臓が速い。怖い。かなり怖い。けれど、ほんの少しだけ、胸の奥がざわついている。


(もし仮に!! 万が一!! そういう展開だったら……!!)


 俺は頭を振った。


「……いや、落ち着け」


(落ち着けるか!!)


 今は考えても仕方がない。ここがどこなのかはわからない。夢なのか、事故なのか、それとももっと別の何かなのかもわからない。だが、ひとつだけ確かなことがある。俺の手の中の石は、暗闇の奥を指し示していた。


「……行けってことか」


 俺は小さく息を吐いた。 正直、怖い。だが、それ以上に――少しだけ、気になってしまっている。この先に、何があるのか。


「……仕方ないな」


(仕方ない!! これはもう仕方ない!!光る石が奥を指してるんだから仕方ない!!)


 俺は緑の光を頼りに、洞窟の奥へと歩き出した。


 効率的な判断とは言い難い。けれど、俺は昔からそうだった。道端に落ちた、気になるものを見つけると、つい足を止めてしまう。


 意味があるかどうかは、後で考えればいい。まずは、拾ってみる。それが俺という人間だった。

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