prologue
「なんて醜い。
どんな手段を用いてルイ様に取り入ったのかしら」
「見窄らしい格好だこと、いい笑い者だわ」
絢爛豪華な宮殿内で開かれたパーティーには、肉は腐り、腹は黒炭と化している王族貴族やなんやらの女性たちが、たんまりと集まるのだった。
臭いものに蓋をしているのか、それはそれは煌びやかな宝石で自分たちを飾り立てて、一所懸命、この国の王太子にアピールをするーー
「皆の者!控えよ!王太子様の御膳であろう!」
第一王女の鶴の一声で、忽ち私を肴にして軽快に嘲笑い、パーティーを愉しんでいた雌豚共は、雛鳥のようにピーピーッと啼いていた声を噤む。
そして見目麗しい美貌を持つこの国の王太子に、皆からの視線が注がれたーー
「私の誕生を祝うために遥々お集まり下さった、紳士淑女の方々。
どうぞ思う存分、今日という日をお楽しみ下さいーー」
王太子、ルイは後ろから胸の前へと腕を回して、深々と一礼をする。
その整った容姿と模範的までに礼儀正しい姿に、四方八方からホゥという感嘆の声が聞こえるーー
けれども私からすれば、あの無駄に高く高く飾り立てた玉座の間に佇む貴公子が、サタンに見えて仕方がなかった。
私を飼育している張本人、そして私の絶対的な御主人様ーー彼の命令には如何なる理由があろうと逆らってはならない。
私にとってはそれが原点なのだが、彼は私に恋慕の情を抱いてしまった故、奴隷に対する扱いとは例外に、とても優しく私に接してしまうーー
ルイは言った。
『レナ、何よりお前だけを愛しているよーー』
オペラ座といった大舞台で歌う、男性テノール歌手のような美声で。
彼のダッチワイフとして床の上で踊って見せたなら、彼は少年のようにあどけなく笑い、私を丁寧に扱うーー
その度々に、どんな甘い甘いチョコレートも慄くほどの甘言を囁いていく。
けれどそれらは全て、危うさ上の行動ーー
喩えるならば、彼はまだ面白い玩具を見つけた物心ついたばかりの幼児。
一度私が他の男と間接的にでも話したものなら、その日の晩、とんでもない苦痛を味わうこととなるーー
ああ、思い出しただけで目眩を起こしそう、私はそう思いながら息が詰まる会場から抜け出して、月明かりを道標に庭へと飛び出す。
御主人様は多忙な方。
さすがに今日は追ってくるまいーーと、勝手な判断を自身の中で下して、私は黄金色に輝く月の下にある小さなベンチに腰掛け、物思いに更ける。
奴隷ーーそれは、人間としての権利、自由が認められず、主人の私有物として扱われるだけの存在。
それが私、醜い形をして、垢や埃塗れの麻の布を身に纏った、社会の最下層で生きる人まがい。
その層に縋り付いている理由の全ては、王太子に取り入って復讐劇を繰り広げるためーー
ーー時は満ちた。
彼はもう、私無しでは生きられない……
さぁ、彼の父ーーこの国の王の妾に成り下がった私の母に、重い鉄槌を下してやろう。
そして私を虐め、蔑み、私の大切な御主人様を狙う蝿どもを駆除してやろう。
狙うは、彼と血の繋がりがない第一王女からーー
生きるためには、どのようなことでも成し遂げてやろう。
ーーそのためには悪魔にだって魂を捧げてやる。