表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

prologue



「なんて醜い。

どんな手段を用いてルイ様に取り入ったのかしら」


「見窄らしい格好だこと、いい笑い者だわ」


 絢爛豪華な宮殿内で開かれたパーティーには、肉は腐り、腹は黒炭と化している王族貴族やなんやらの女性たちが、たんまりと集まるのだった。


 臭いものに蓋をしているのか、それはそれは煌びやかな宝石で自分たちを飾り立てて、一所懸命、この国の王太子にアピールをするーー


「皆の者!控えよ!王太子様の御膳であろう!」


 第一王女の鶴の一声で、(タチマ)ち私を肴にして軽快に嘲笑い、パーティーを愉しんでいた雌豚共は、雛鳥のようにピーピーッと啼いていた声を噤む。


 そして見目麗しい美貌を持つこの国の王太子に、皆からの視線が注がれたーー


「私の誕生を祝うために遥々お集まり下さった、紳士淑女の方々。

どうぞ思う存分、今日という日をお楽しみ下さいーー」


 王太子、ルイは後ろから胸の前へと腕を回して、深々と一礼をする。


 その整った容姿と模範的までに礼儀正しい姿に、四方八方からホゥという感嘆の声が聞こえるーー


 けれども私からすれば、あの無駄に高く高く飾り立てた玉座の間に佇む貴公子が、サタンに見えて仕方がなかった。


 私を飼育している張本人、そして私の絶対的な御主人様ーー彼の命令には如何なる理由があろうと逆らってはならない。


 私にとってはそれが原点なのだが、彼は私に恋慕の情を抱いてしまった(ユエ)、奴隷に対する扱いとは例外に、とても優しく私に接してしまうーー


 ルイは言った。


『レナ、何よりお前だけを愛しているよーー』


 オペラ座といった大舞台で歌う、男性テノール歌手のような美声で。


 彼のダッチワイフとして(トコ)の上で踊って見せたなら、彼は少年のようにあどけなく笑い、私を丁寧に扱うーー


 その度々に、どんな甘い甘いチョコレートも慄くほどの甘言を囁いていく。


 けれどそれらは全て、危うさ上の行動ーー


 喩えるならば、彼はまだ面白い玩具を見つけた物心ついたばかりの幼児。


  一度私が他の男と間接的にでも話したものなら、その日の晩、とんでもない苦痛を味わうこととなるーー


 ああ、思い出しただけで目眩を起こしそう、私はそう思いながら息が詰まる会場から抜け出して、月明かりを道標に庭へと飛び出す。


 御主人様は多忙な方。

さすがに今日は追ってくるまいーーと、勝手な判断を自身の中で下して、私は黄金色に輝く月の下にある小さなベンチに腰掛け、物思いに更ける。


 奴隷ーーそれは、人間としての権利、自由が認められず、主人の私有物として扱われるだけの存在。


 それが私、醜い(ナリ)をして、垢や埃塗れの麻の布を身に纏った、社会の最下層で生きる人まがい。


 その層に縋り付いている理由の全ては、王太子に取り入って復讐劇を繰り広げるためーー


 ーー時は満ちた。


 彼はもう、私無しでは生きられない……


 さぁ、彼の父ーーこの国の王の妾に成り下がった私の母に、重い鉄槌を下してやろう。


 そして私を虐め、蔑み、私の大切な御主人様を狙う蝿どもを駆除してやろう。


 狙うは、彼と血の繋がりがない第一王女からーー


 生きるためには、どのようなことでも成し遂げてやろう。


 ーーそのためには悪魔にだって魂を捧げてやる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ