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第三章:屈辱と救済の残響

宴が始まり、高級なおせちや刺身が並べられる。酒が回り始めると、恒例の「親戚間スペック品評会」が静かに、だが執拗にスタートする。


伸也は畳の目を数えながら、この嵐が早く過ぎ去ることをひたすら待っていた。この居心地の悪さは、三年前の苦い記憶と完全に重なっていた。


あれは彼が高校二年生の正月。


伸也は三十八度を超える高熱を出していたが、藤堂家において「体調不良」で正月の集まりを欠席することは、怠慢と見なされ決して許されない。大広間の隅で、彼は湧き上がる吐き気と戦いながら、焦点の合わない目で周囲を見つめていた。


「伸也! さっきから何を黙っている。お祖父様がお話をされているんだぞ」


父の焦燥に満ちた声に、彼はびくりと顔を上げた。上座に座る祖父(この一族の絶対的な支配者)が、彼をギロリと睨みつけていた。


「覇気がない。そんな幽霊のような顔をして座っているのではない! お前のような陰気な人間が一人いるだけで、一族全体の空気が悪くなるわ!」


それは一族の面前で浴びせられる、一切の反論を許さない正論の公開説教であった。親戚一同、誰も彼を庇おうとはしない。伸也の親でさえ、「すみません……」と声を潜め、小さくなるばかりだった。


高熱で思考が麻痺し、謝罪の言葉すら喉から出せない。彼は前髪で顔を隠し、「一刻も早くこの場から逃げ出したい」と絶望していた、その時。


「――お祖父様、言い過ぎですよ」


涼やかな声が、広間を覆っていた重い沈黙をあっさりと切り裂いた。


大学に入ったばかりの拓海だった。彼は静かに伸也の隣に座り、まるで悪意など存在しないかのように、にっこりと笑いかけた。


「伸也は、実はさっきまで俺の蔵の整理にずっと付き合ってくれていたんですよ。俺が重いものを持たせすぎちゃって、疲れて熱が出ちゃったんだよね。ごめんね、伸也」


伸也の肩に、拓海の温かい手が置かれた。


……それは、完全なる虚偽であった。伸也は蔵など行っていない。ただ病に伏せていただけであった。


「……拓海がそう言うのであれば、今回は不問にするが」


祖父は、拓海の前では拍子抜けするほどあっさりと矛を収めた。拓海は「ありがとうございます!」と完璧な笑顔を返し、瞬時に別の話題へ切り替えて、張り詰めていた座敷の空気を和ませてしまった。彼の存在は、危機を簡単に無力化する。


宴の後、熱でふらつきながら縁側で冷気に当たっていると、拓海がやってきた。


「体調、大丈夫? 無理はしちゃダメだよ」


「……あんな嘘、つかなくてよかったのに」


伸也が素直になれず、感情を押し殺した声でボソリと言うと、拓海は困ったように微笑んだ。


「嘘なんて言ってごめんね。でも、伸也が怒鳴られているの、見てられなかったから。おじいちゃんが怒っていたけど、伸也が悪いわけじゃないから、本当に気にしないで」


優しすぎる。あまりにも完璧すぎる。伸也は、拓海の光が放つ眩しさに、熱とは種類の異なる、強烈な目眩を覚えていた。


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