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第二十五章:温度差

翌日、夕方。

大学の講義を終えた伸也は、駅前のコンビニに立ち寄っていた。

ぼんやりと飲み物を選んでいると、

自動ドアが開く音。


「……あ」


反射的に視線を向ける。

スーツ姿の拓海が、同僚らしき男女と一緒に入ってきた。


「今日の資料、あれで通りそうですね」

「うん、たぶん大丈夫」

落ち着いた声。

仕事モードの、完全な“外の顔”。


(……なんだよ、それ)


一瞬、目が合う。

だが、拓海はほんのわずかに視線を動かしただけで、何事もなかったように会話を続けた。


まるで、知らない他人みたいに。


「……は?」

小さく漏れる声。


(昨日あんなこと言っといて、それかよ)


そのまま会計を済ませ、

何も言わずに店を出る。


帰り道。

スマホは無言。

連絡もない。


(……無視かよ)


家に着く。鍵を回し、ドアを開けた瞬間――

「おかえり」 引かれた。


「っ――!?」

母が買い物で留守にしている静かな家。玄関でいきなり腕を掴まれ、そのまま引き寄せられる。

背中が壁に当たる。


「……外では我慢した」 低く、抑えた声。

「だから今、無理」

「お前……!」

言い返す前に、キスで塞がれる。 強い。さっきまで抑えていた分が、そのまま出たような熱。


「待て……っ、なんで無視した!」

どうにか顔を逸らして言う。


一瞬、動きが止まる。


「無視じゃない」

「じゃあなんだよ」

「見てたら、行きたくなった」


「……は?」

「お前のとこ」

即答。


「会社の人間いる前で、それやったらどうなると思う?」

言葉に詰まる。


「……だから、見ないようにした」

静かな声。


「じゃないと、多分止まらない」

距離がまた近づく。


「……極端すぎんだろ」

「お前相手だとこうなる」

そのまま、額が触れる。


「ずっと我慢してた」

指先が、軽く服を掴む。


「だから、少しじゃ足りない」

「……少しでいいだろ」

「無理」


即答。


今度はゆっくりとキス。

さっきとは違う、確かめるような熱。


「……外ではちゃんとしろよ」

「してる」

「しすぎなんだよ」


小さく笑う気配。


「じゃあ、中間探す?」

「無理だろ、お前は」

「うん、無理」

素直に認める。


伸也は呆れたように息を吐く。

でも、もう抵抗はしていない。


むしろ、少しだけ近づく。


それを見て、拓海の目が柔らかくなる。


「ほら」

「結局、来る」

「……うるさい」


軽くもう一度キス。

短く、自然に。


「飯、どうする」

「もうできてる」

「またかよ」

「当たり前」


「……重い」

「知ってる」


でも、腕は離れない。

むしろ、少しだけ強くなる。


外では交わらない距離。

内では、逃げ場のない近さ。


その温度差が、

二人の関係を、さらに深く縛っていた。


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