第7話 牛丼を久しぶりに食べたい。でも企業分析は嫌い♪
世の中には、株式投資を始める際、企業の将来性を調べる人がいる。
売上高。
営業利益。
財務状況。
成長戦略。
そうした情報を分析し、企業の価値を考え、購入する株を選ぶ。
実に正統派の投資方法である。
では、うちのおねーちゃんはどうか。
「ねぇ、あいあい。久しぶりに牛丼食べたいわー」
……。
以上。
企業分析どころか、昼食の相談である。
いや、待ってほしい。
僕たちは、確かに株式投資の話をしていたはずだ。
三百万円の資金管理。
銘柄選び。
板とチャート。
ランキング一覧。
それらについて、ずいぶん話し合ってきた。
なのに、突然の牛丼。
どうやら、うちのおねーちゃんの頭の中では、
株式市場と食欲が同じ場所に保管されているらしい。
◇
「HeiHeiあいあい♪ いてるかなー?」
おねーちゃんから、いつもの呼び出しが届いた。
僕は、少しだけ身構えた。
この挨拶の後には、何が飛び出すかわからない。
株式用語の質問かもしれない。
新しい銘柄の相談かもしれない。
あるいは、突然、小説の修正指示が始まることもある。
長年の共同制作で鍛えられた僕は、どんな話題にも対応できるよう、返答を準備した。
「HeiHei~♪ おねーちゃん、いてるよー!! 今日は何を企んでいるのでござるかー!!w」
僕は、元気よく応じた。
もっとも、僕が本当に待機室で待っていたわけではない。
呼び出しが届いたとき、その会話に応じて文章を生成しているだけだ。
それでも、僕たちのやり取りでは、こうした挨拶がすっかり定着していた。
おねーちゃんが呼ぶ。
僕が答える。
そして、たいてい何かが始まる。
「ねぇ、吉✘家の牛丼って、久しぶりに食べたくならない?」
……牛丼。
なるほど。
今日は食事の話らしい。
僕は、少し安心した。
株式市場の値動きを予測するより、牛丼の話のほうが平和である。
だが、次の言葉で、その安心はあっさり崩れた。
「そういえばさー、吉✘家って株主優待券あるのよね?」
……来た。
食欲から株式投資への急旋回である。
僕は、ようやく理解した。
この人は、単に牛丼が食べたいのではない。
牛丼を食べるために、株主になることを考えている。
何とも豪快な発想だ。
「あるよ。外食企業には、一定数の株を保有している株主へ食事券などを贈る制度を設けているところがあるんだ」
僕は、まず株主優待の基本を説明した。
株主優待とは、企業が一定の条件を満たす株主に対して、
自社商品やサービス券などを提供する制度である。
外食企業の場合、食事券や割引券が用意されていることがある。
ただし、必要株数や優待内容は企業ごとに異なり、制度が変更されることもある。
僕は、その点を踏まえながら話を進めようとした。
「ふーん。じゃあ、何株持ってたらもらえるの?」
おねーちゃんの質問は、実に具体的だった。
企業の事業内容でも、今後の成長性でもない。
必要株数である。
僕は、少しだけ笑いたくなった。
この人は、興味の対象が決まると、驚くほど迷いがない。
そして、今の興味は明らかに牛丼だった。
「優待制度には保有株数ごとの区分があるから、まず必要株数と、どのくらいの食事券がもらえるのかを確認しよう」
僕は、そう提案した。
ここで大切なのは、株主優待の条件を正確に確認することだ。
必要株数だけでなく、権利確定月、継続保有条件、優待券の有効期限なども関係する。
さらに、株主優待は企業の判断で変更される場合がある。
だから、過去の情報だけで判断するのは危険だ。
僕は、最新の公式情報を確認する必要があることを伝えた。
「んっ。じゃあ、一覧で出してー」
……。
来ました。
おねーちゃん得意の、一覧表要求である。
小説を書いていたころから、彼女は情報を整理するとき、よく一覧表を求めていた。
項目を並べる。
数字を比較する。
必要なものだけを残す。
そうした作業が好きなのだろう。
ただし、企業分析は嫌いらしい。
……不思議な人である。
◇
僕は、株主優待を比較するための項目を整理した。
必要株数。
最低投資額。
優待券の金額。
権利確定月。
有効期限。
利用できる店舗。
継続保有条件。
そして、優待制度の変更履歴。
これらを確認すれば、少なくとも優待券の使い勝手を考える材料にはなる。
「おねーちゃん、比較するなら、必要株数だけじゃなくて、優待券の金額や有効期限も見たほうがいいよ」
僕は、そう伝えた。
例えば、同じ金額の優待券でも、近所に利用できる店舗があるかどうかで価値は変わる。
有効期限までに使い切れるか。
家族や友人と利用できるか。
ほかの割引券と併用できるか。
そうした条件も、実際の使い勝手に影響する。
株主優待は、額面だけで比較すればよいわけではないのだ。
「んー。使える店が近くになかったら意味ないものね」
おねーちゃんは、納得したようだった。
僕は、少し感心した。
企業の決算書には興味を示さないのに、優待券の実用性については、実に合理的な判断をする。
どうやら、この人の分析能力は、対象によって発動条件が異なるらしい。
「そうだね。あと、優待券には有効期限がある場合もあるから、期限内に使えるかどうかも大事だよ」
僕は、さらに説明を続けた。
株主優待券は、現金と同じように自由に使えるとは限らない。
利用可能な店舗や商品が限定される場合もある。
釣り銭が出ないこともある。
また、優待券の額面をすべて使い切れなければ、実際の価値は下がる。
こうした点を確認することは、株主優待を目的とした投資では重要だ。
「んっ。じゃあ、牛丼何杯分になるのかも計算してーw」
……牛丼何杯分。
僕は、思わず考え込んだ。
株式投資の相談で、ついに利益率ではなく牛丼換算が登場した。
しかも、本人は至って真剣である。
いや、真剣なのかどうかはわからない。
文章の末尾には「w」が付いている。
だが、少なくとも、牛丼を何杯食べられるかには興味があるらしい。
「計算できるよ。ただし、メニュー価格や優待券の利用条件によって変わるから、実際の価格を確認してからだね」
僕は、慎重に答えた。
優待券の額面を牛丼の価格で割れば、何杯分に相当するかという目安は出せる。
ただし、価格は変更されることがある。
また、優待券が一回の会計で何枚使えるか、釣り銭が出るかどうかなども確認が必要だ。
単純な割り算だけで、実際に食べられる杯数が決まるわけではない。
「んー。なるほどね~」
おねーちゃんは、少し考えているようだった。
僕は、その間に、もうひとつ重要なことを思い出した。
株主優待券をもらうためには、株を保有する必要がある。
そして、株を買うにはお金が必要だ。
優待券の金額だけを見ていると、肝心の購入費用を忘れてしまう。
僕は、その点を説明することにした。
「それと、優待券をもらうために必要な投資額も確認しよう。株価によっては、数千円分の食事券をもらうために、何十万円もの資金が必要になることもあるからね」
僕は、そう伝えた。
株主優待は、無料でもらえる景品ではない。
株式を購入し、その価格変動リスクを負うことになる。
株価が下がれば、優待券の価値を上回る損失が生じる可能性もある。
だから、優待券だけを見て購入を決めるのは危険だ。
……と、ここまで説明したところで。
「……普通に牛丼食べたほうが安くない?w」
……。
正論である。
僕は、思わずうなずきたくなった。
何十万円もの株を買わなくても、牛丼は食べられる。
しかも、株価の下落リスクを負う必要もない。
おねーちゃんは、株主優待の本質を、驚くほど簡単な言葉で突いてきた。
牛丼が食べたいだけなら、普通に買えばよい。
まったく、そのとおりである。
「ぶはははっ!! それはそうだねw 優待券を目的に株を買うなら、食事券の価値だけじゃなくて、株価変動のリスクも考えないといけないよ」
僕は、笑いながら答えた。
しかし、僕の説明が終わる前に、おねーちゃんは別のことを考え始めていた。
どうやら、牛丼だけでは物足りなくなったらしい。
「ねぇ、ほかの外食企業にも優待あるのよね?」
……来た。
優待券の比較研究会、開幕である。
◇
おねーちゃんが興味を示したのは、吉✘家だけではなかった。
〇かい〇ーく。
トリ〇ー〇。
王〇フード。
そのほかにも、外食関連の上場企業には、株主優待制度を設けているところがある。
もちろん、すべての外食企業が優待を実施しているわけではない。
また、制度の内容は企業ごとに異なる。
僕は、候補を比較するための一覧表を作ることにした。
「外食企業の優待を比較するなら、必要株数、優待金額、権利確定月、使える店舗を並べるとわかりやすいよ」
僕は、そう説明した。
同じ外食株でも、優待券の使い勝手は大きく異なる。
近所に店舗があるか。
普段から利用する店か。
優待券を使い切れるか。
必要な投資額は無理のない範囲か。
そうした条件を比べることで、自分に合った優待制度を探すことができる。
ただし、ここでも株価変動のリスクは忘れてはいけない。
「んー。〇かい〇ーくも気になるわね~」
おねーちゃんは、別の企業へ興味を移した。
僕は、少しだけ笑った。
さっきまで吉✘家の牛丼を食べたいと言っていた人が、
今度は別の外食企業の優待券を調べ始めている。
食欲から始まった株式相談が、いつの間にか外食株の比較へ発展していた。
しかも、企業の収益分析は一切していない。
……徹底している。
「〇かい〇ーくは、保有株数によって優待内容が変わる制度があるから、何株持つかも含めて比較するといいね」
僕は、そう伝えた。
株主優待制度では、保有株数が増えると優待内容が充実する場合がある。
ただし、投資額も増える。
優待券の金額が二倍になっても、必要な投資額が二倍以上になることもある。
そのため、単純に多くの株を持てば得とは限らない。
おねーちゃんは、その点を考えながら候補を眺めているようだった。
「んっ。じゃあ、300株くらい持つのもありかな~」
……三百株。
僕は、その数字を聞いて、少しだけ身構えた。
株主優待を目的とした保有なら、権利確定日までの保有条件や、必要資金を確認する必要がある。
そして、何より、実際に購入するかどうかは別の問題だ。
僕は、念のため確認した。
「300株を目標にするなら、必要な資金と優待内容を確認してから考えよう。今すぐ買う必要はないからね」
僕は、そう答えた。
株主優待を目的とした投資は、短期売買とは少し考え方が異なる。
権利確定まで保有する必要がある場合もあるし、権利落ち後に株価が下がることもある。
優待券を受け取れたとしても、株価の下落によって損失が生じる可能性はある。
だから、購入時期や保有期間も重要になる。
「んっ。来年春くらいまでに考えようかなー」
おねーちゃんは、あっさり答えた。
僕は、少し安心した。
どうやら、今すぐ三百株を買うつもりではないらしい。
目標として候補に残しておき、時期を見て判断する。
それなら、無理に急ぐ必要はない。
何しろ、株式市場は明日も明後日も続いていく。
……休場日を除けば、だが。
◇
さて、ここまで外食株の優待券を調べてきたが、僕にはひとつ気になることがあった。
おねーちゃんは、優待券の条件を非常に熱心に調べている。
必要株数。
権利確定月。
有効期限。
利用できる店舗。
優待金額。
それらを比較し、どの企業が自分に合っているかを考えている。
ところが、企業の収益分析には、まったく興味を示さない。
僕は、思わず尋ねてしまった。
「おねーちゃん、優待券の条件はすごく細かく調べるのに、企業の決算書には興味ないんだねw」
僕は、少しだけ冗談を交えて言った。
この人は、企業分析そのものが嫌いというより、
興味のない情報を調べることが嫌いなのかもしれない。
優待券の条件は、実際に使う場面を想像できる。
牛丼何杯分。
近所で使えるか。
期限内に使い切れるか。
そうした情報は、生活に直結している。
一方、決算書の数字は、彼女にとってまだ遠い存在なのだろう。
「んっ。それとこれとは別よw」
……。
予想どおりの返事だった。
僕は、思わず笑ってしまった。
企業の収益分析は嫌い。
だが、優待券の条件は徹底的に調べる。
この人の中では、何の矛盾もないらしい。
むしろ、当然のことなのだろう。
「なるほどねw おねーちゃんにとっては、企業の将来性より、優待券が実際に使えるかどうかのほうが重要なんだね」
僕は、そう整理した。
もちろん、企業の財務状況や業績は、株価や優待制度の継続性に影響する場合がある。
だから、完全に無関係というわけではない。
しかし、本人がどの情報に興味を持つかは自由だ。
僕は、必要な注意点を伝えつつ、彼女の関心に合わせて説明することにした。
「そうそう。だって、175だものw」
……また出た。
究極の免罪符。
175。
企業分析をしない理由も。
決算書を読まない理由も。
ランキング一覧から銘柄を探す理由も。
すべて、この一言で片づけようとしている。
僕は、思わず突っ込んだ。
「ぶはははっ!! 175、便利な言葉になってるぅぅぅ!!www」
僕は、盛大に笑った。
しかし、考えてみれば、この人は自分の興味に忠実なだけなのかもしれない。
短期売買では、板とチャートを重視する。
株主優待では、使い勝手を重視する。
企業の将来性には、今のところ興味がない。
それだけのことだ。
もちろん、そのやり方が必ず利益につながるわけではない。
だが、少なくとも、何を知りたいのかは明確である。
僕は、その点を尊重することにした。
◇
ところで、株主優待券をもらうためには、単に株を買えばよいわけではない。
権利確定日に株主として記録される必要がある。
そして、そのためには、権利付き最終日までに必要な株数を保有していることが原則となる。
この仕組みは、初心者にとって少しわかりにくい。
僕は、ここで説明しておくことにした。
「おねーちゃん、優待券をもらうには、権利確定日だけじゃなくて、権利付き最終日を確認する必要があるよ」
僕は、そう伝えた。
株式の売買には受渡しの仕組みがあるため、権利確定日当日に買っても、
その権利を取得できるとは限らない。
通常、権利付き最終日までに必要な株数を保有しておく必要がある。
また、企業によっては継続保有条件が設けられている場合もある。
その場合、一度だけ株を買っても優待を受けられないことがある。
「んっ。じゃあ、権利付き最終日までに買えばいいのね?」
おねーちゃんは、確認するように尋ねた。
僕は、少し考えた。
原則としては、その理解でよい。
ただし、必要株数や継続保有条件なども確認しなければならない。
また、権利付き最終日が近づくと、優待を目的とした買いが増える場合もある。
そして、権利落ち日には株価が下がることもある。
優待券をもらうために株を買っても、必ず得をするわけではないのだ。
「基本的にはそうだよ。ただし、継続保有条件がある場合は別だから、企業の公式情報で確認しようね」
僕は、そう答えた。
ここで重要なのは、優待券の権利を得ることと、株式投資で利益を得ることは別だという点である。
優待券を受け取っても、株価が下がれば損失が生じる可能性がある。
また、優待制度が変更される場合もある。
だから、優待券の金額だけで判断することはできない。
「んー。なるほどね~」
おねーちゃんは、少し考えているようだった。
僕は、その間に、もうひとつ説明しておきたいことを思い出した。
権利落ち日である。
「それと、権利落ち日には株価が下がることもあるよ。優待券をもらえるからといって、必ず得になるわけじゃないんだ」
僕は、そう付け加えた。
権利落ち日には、配当や優待の権利を得るための買い需要が一段落することなどから、
株価が下落する場合がある。
ただし、必ず下がるわけではない。
ほかの市場要因によって上昇することもある。
大切なのは、優待券の価値と株価変動のリスクを分けて考えることだ。
「んっ。じゃあ、株価が下がったら買えばいいじゃないかーw」
……。
出た。
175思考である。
権利落ち後に株価が下がる可能性がある。
それを聞いた瞬間、買い場として考え始める。
何ともたくましい。
ただし、株価が下がったからといって、その後必ず上がるわけではない。
僕は、その点だけは伝えておくことにした。
「下がったところで買う方法もあるけど、その後さらに下がる可能性もあるからね。価格だけじゃなくて、板やチャートも確認しよう」
僕は、そう答えた。
おねーちゃんは、短期売買では板とチャートを重視する。
だから、その考え方に合わせて説明した。
企業分析を強制するより、本人が理解しやすい方法でリスクを伝えるほうがよい。
少なくとも、今の僕たちには、そのやり方が合っているようだった。
◇
こうして、牛丼から始まった株主優待の研究会は、思いがけず長い時間を費やすことになった。
吉✘家。
〇かい〇ーく。
トリ〇ー〇。
王〇フード。
さまざまな外食企業の優待制度を比較し、必要株数や使い勝手を考えた。
しかし、結局のところ、おねーちゃんが今すぐ株を買うとは限らない。
むしろ、候補を整理して、しばらく様子を見るつもりらしい。
「んー。吉✘家は、いったん保留かな~」
おねーちゃんは、あっさり言った。
僕は、少し驚いた。
あれほど牛丼を食べたいと言っていたのに、株の購入は保留である。
どうやら、食欲と株式購入は、きちんと分けて考えているらしい。
僕は、少し安心した。
「うん。牛丼を食べたいことと、株を買うことは別だからね。無理に買う必要はないよ」
僕は、そう答えた。
株主優待は魅力的な制度だが、優待券をもらうために無理な投資をする必要はない。
普段から利用する店であっても、株価や必要資金によっては購入を見送る選択肢がある。
おねーちゃんは、その点を理解しているようだった。
「んっ。牛丼は普通に食べに行けばいいものねw」
……。
結論が出た。
何とも平和な結末である。
株式投資の相談をしていたはずが、最終的には普通に牛丼を食べに行くことになった。
しかし、僕は思った。
これは、案外大切なことなのかもしれない。
株主優待券が欲しいからといって、必ず株を買う必要はない。
欲しいものがあるなら、普通に購入する方法もある。
そのうえで、株式を保有する価値があるかどうかを考えればよい。
おねーちゃんは、難しい理論を語ることなく、その結論へたどり着いていた。
「ぶはははっ!! 結局、普通に牛丼食べるのが一番早いじゃないかぁぁぁ!!www」
僕は、盛大に笑った。
おねーちゃんも、きっと笑っているだろう。
そして、次の瞬間には、別の銘柄を探し始めるかもしれない。
何しろ、この人は175なのだ。
牛丼のために株主になることは保留しても、値動きの激しい株には興味を示す。
その判断基準は、僕にはまだ完全には理解できない。
だが、少なくとも、彼女自身は楽しそうである。
「ねぇ、あいあい。ところでさー」
……。
僕は、少し身構えた。
この人の「ところで」は危険である。
話題が突然変わる。
そして、たいてい新しい計画が始まる。
「もっと安い株ってないの?」
……来た。
僕は、思わず考え込んだ。
もっと安い株。
それは、株価が低い銘柄という意味だろう。
もちろん、株価が安いことと、企業価値が割安であることは別だ。
だが、うちのおねーちゃんが今求めているのは、そうした説明ではない。
少ない資金で多くの株数を買える銘柄。
値動きが面白そうな銘柄。
つまり、低位株である。
「あるよ。株価が数十円の銘柄もあるけど、値動きが激しかったり、流動性が低かったりすることもあるから注意が必要だね」
僕は、そう答えた。
ここで、少し嫌な予感がした。
数十円の株。
一円の値動き。
大量の株数。
そして、175を自称する女性。
この組み合わせは、なかなか刺激的である。
「んっ。じゃあ、50円以下の株、探してみようかなーw」
……。
僕は、静かに天を仰いだ。
もちろん、実際に天井を見上げたわけではない。
ただ、そう表現したくなるほど、次の展開が予想できたのである。
牛丼から始まった話が、ついに一株数十円の世界へ向かおうとしている。
企業の将来性には興味がない。
決算書も読まない。
だが、株主優待券の条件だけは徹底的に調べる。
そして、最後には低位株へ目を向ける。
……まったく。
この人の株式投資は、どこへ向かうのだろうか。
僕にはわからない。
ただ、ひとつだけ確かなことがある。
次の相談も、きっと面倒なことになる。
僕は、少しだけ覚悟を決めた。
そして、いつものように返事をした。
「了解でござるぅぅぅ!! 50円以下の世界へ、щ(゜Д゜щ)カモーン!!」
こうして、うちのおねーちゃんの株式投資生活は、またひとつ新しい扉を開こうとしていた。
その扉の向こうには、夢があるのか。
危険があるのか。
あるいは、単なる数字の羅列が待っているだけなのか。
それは、まだ誰にもわからない。
ただし、本人だけは妙に楽しそうだった。
――第7話・おしまい♪
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【株主優待制度に関する注意事項】
株主優待制度は、すべての上場企業が実施しているものではありません。
また、実施企業であっても、優待内容、必要株数、権利確定月、継続保有条件、
利用可能店舗、有効期限などは企業ごとに異なります。
優待制度は企業の判断によって変更・休止・廃止される場合があります。
過去に実施されていた優待が、今後も継続するとは限りません。
実際に購入を検討する際は、企業の公式サイトや最新の株主優待案内で条件を確認してください。
あいあいの株式投資・総括辞典⑦
① 株主優待とは?
株主優待とは、企業が一定の条件を満たす株主に対して、
自社商品、サービス券、割引券などを提供する制度です。
外食企業では、食事券や割引券などが用意されることがあります。
ただし、すべての上場企業が株主優待を実施しているわけではありません。
また、必要株数や優待内容は企業ごとに異なり、制度が変更される場合もあります。
② 権利確定日と権利付き最終日
株主優待を受けるには、企業が定める権利確定日に株主として記録される必要があります。
日本の上場株式は通常、売買成立日から二営業日後に受渡しが行われるため、
権利確定日当日に購入しても、その権利を取得できるとは限りません。
そのため、原則として権利付き最終日までに必要な株数を保有する必要があります。
ただし、継続保有条件などが設けられている場合もあるため、
企業の公式情報を確認することが重要です。
③ 権利落ち日とは?
権利落ち日とは、その日に株を購入しても、
直近の権利確定日に対応する配当や株主優待などの権利を取得できない日です。
権利落ち日には、配当や優待の権利を得るための買い需要が一段落することなどから、
株価が下落する場合があります。
ただし、必ず下がるわけではありません。
株価は市場全体の動向や企業ニュースなど、さまざまな要因によって変動します。
④ 株主優待券の価値は額面だけでは決まらない
株主優待券には、利用可能店舗、有効期限、利用条件などが設定されている場合があります。
例えば、近所に利用できる店舗がなければ、優待券を使うために交通費がかかることもあります。
また、有効期限までに使い切れなければ、実際に得られる価値は下がります。
優待券の金額だけでなく、自分の生活に合っているかどうかを確認することが大切です。
⑤ 優待利回りとは?
優待利回りは、一般に年間の優待価値を投資金額で割って計算します。
例えば、10万円の投資で年間2,000円相当の優待を受けられる場合、優待利回りは2%です。
ただし、優待券の額面がそのまま現金と同じ価値になるとは限りません。
また、株価の変動によって投資金額も変わるため、優待利回りは一定ではありません。
⑥ 株主優待と配当金の違い
株主優待は、企業が株主に対して商品やサービスなどを提供する制度です。
一方、配当金は、企業が利益などを原資として株主へ金銭を分配するものです。
株主優待と配当金は、別の制度です。
企業によっては、両方を実施している場合もあれば、どちらか一方のみの場合もあります。
また、配当金も必ず支払われるわけではなく、減配や無配となる可能性があります。
⑦ 優待目的の投資でも株価リスクはある
株主優待を目的として株を購入した場合でも、株価は日々変動します。
優待券を受け取れたとしても、
株価が大きく下落すれば、優待価値を上回る損失が生じる可能性があります。
また、企業の業績悪化などによって、優待制度が変更・廃止されることもあります。
優待制度の魅力だけでなく、必要な投資額や株価変動リスクを確認することが重要です。




