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天才錬金術師の正体は影武者の私でした 〜私を捨てた姉の薬が効かなくなった頃、呪われた辺境伯様は私だけに懐きます〜  作者: P作
第2章「辺境の竈に火を入れる」

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第9話 息を吹き返す土地

毒の正体さえ分かれば、あとは私の領分だ。


まず、解毒。井戸そのものを浄化するのは時間がかかるが、汲んだ水を“その場で無害にする”薬なら、今すぐ組める。炭と、特定の鉱石を砕いた粉、それに毒を打ち消す薬草。その鉱石がヴェルンフェルトの荒れ地に眠っているのは、もう見つけてあった。


「この粉をひとつまみ、汲んだ水に混ぜて、半刻置いてから使ってください。苦みが消えれば、安全な証です」


村の女たちに作り方を教えると、彼女たちは半信半疑で試し――本当に水の苦みが消えると、わっと沸いた。


それから数日、村を駆け回った。汚れた畑には、土を癒す薬を。弱った家畜には、滋養の飼い葉を。痩せた子どもらには、栄養を補う甘い丸薬を。一つずつ、根っこから、土地を起こしていく。


枯れていた畑の隅に、小さな緑が芽吹いた朝。


ミナが、泣きながら駆けてきた。


「奥方様! 芽が、麦の芽が出たって、みんなが……!」


その報せを、館へ戻ってディートハルトに伝えた。彼は窓辺で、しばらく黙って、芽吹きはじめた谷を見下ろしていた。


「お前が来てから、まだ十日も経っていない」


低い声だった。


「私が、何年もできなかったことだ。領主が呪いに伏せっているあいだ、この土地はただ枯れていくだけだと――そう、諦めていた」


「諦めるには、早すぎます」隣に立った。

「土も、人も、まだ生きている。生きているなら、起こせます」


ディートハルトが、ふと私を見た。その視線が、いつもより長く、私の上にとどまる。


「なあ、クロエ。お前は、なぜそこまでする。村の者を救っても、お前に得はない。私の呪いを和らげても、一年経てば、この契約は白紙に戻るかもしれんのだぞ」


一年契約。彼も、ちゃんと覚えていたらしい。


少し考えてから、正直に答えた。


「得とか、損とか。そういう物差しで生きるのは、もうやめたんです」


王都にいた頃の私は、ずっとそれに縛られていた。役に立てば置いてもらえる。役に立たねば、捨てられる。姉の影として、ただ“使える道具”であろうと必死だった。


「ここでは、違う。誰かが私の薬で笑う。私の名前で、ありがとうと言う。それが、ただ、嬉しいんです。理由なんて、それで充分でしょう?」


ディートハルトは、すぐには何も言わなかった。組んでいた腕が、ふっとほどける。何か言いかけて、けれど言葉を探しあぐねたように、一度、口を閉じた。


そして、ぽつりと。


「この呪いも」彼は、自分の手のひらを見下ろした。

「お前になら、いつか、本当に解けるのかもしれんな」


それは、長く絶望に沈んでいた男が、初めて口にした“希望”だった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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