第8話 毒の出どころ
井戸の水を小さな器に汲み、ひと舐めした。
瞬間、舌の奥がはっきりと痺れる。苦い。けれど、自然の苦さじゃない。これは――じわじわと体を蝕む、遅効性の毒。一度に倒れるほどではない。ただ、何年もかけて飲み続ければ、土も、家畜も、人も、ゆっくり弱っていく。たちの悪い設計だ。
(誰かが、意図して入れている)
背筋が冷たくなった。これは天災じゃない。人災だ。
「ゴットフリート。この井戸は、村のどれくらいが使っているの」
「ほとんど、すべてです。一番水量が多く、涸れたことがない、頼みの井戸でして」
頼みの井戸を、選んで毒している。村全体を、ゆっくり締め上げるために。
「最近、この村に出入りした余所者は?」
老家令は、しばらく考えてから、苦々しげに答えた。
「商会の者が。数年前から、街道沿いに荷を運ぶ商会が一つ。最初は塩や鉄を安く卸してくれて、ありがたがられておりました。けれど近頃は、痩せて困窮した村人から、二束三文で土地の権利を買い集めて」
弱らせて、買い叩く。
絵が、するすると繋がっていく。井戸に毒を入れ、土地を枯らし、困窮した村人から土地を奪う。領主が呪いに伏せって動けないのを、いいことに。
「その商会の、名は」
「メルクヴァルト商会、と」
聞き覚えのない名だった。けれど、その手口の、底意地の悪い周到さには、覚えがあった。王都にいた頃、姉の薬の取引にも、こういう“顔の見えない大商会”の影が、ちらついていた気がする。
――まさか、ね。
その時はまだ、その直感を深くは追わなかった。辺境のことで、手一杯だったから。
けれど後になって思う。あの時すでに、王都とこの辺境は、同じ盤の上に並べられた駒だったのだと。誰かの、見えない手によって。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
続きが気になったら、評価とブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!




