第7話 痩せた土地の理由
弟の熱が下がった翌日から、私の評判は、奇妙な速さで村を駆け抜けた。
「館の奥方様が、ただで子どもの熱を診てくれた」。それだけのことが、この土地ではよほど珍しかったらしい。朝、工房の戸を開けると、痩せた村人が数人、おずおずと列をなして立っていた。咳の止まらない老人。膿んだ傷の猟師。乳の出ない母親。
順番に診て、ありあわせの薬を組む。礼にと差し出されるのは、卵が一つ、干した木の実がひと握り。それで構わない。むしろ、その卵一つを差し出す手の、節くれだった痩せ方のほうが、私には気がかりだった。
(みんな、根っこのところで、栄養が足りていない)
風邪も、傷の治りの悪さも、乳の出ない体も、もとを辿れば同じ場所に行き着く。この土地が、痩せている。
だが――おかしいのだ。
ヴェルンフェルトの土を、この数日、何度も指先で確かめていた。痩せてはいる。けれど、死んではいない。本来なら、麦の一つくらい育つはずの土だ。それが、ここ数年で急に、実らなくなったという。
「ねえ、ゴットフリート」その夜、家令に尋ねた。
「この土地の不作は、いつから?」
「三年ほど前から、急に、で」老人は記憶を辿った。
「それまでは、貧しいなりに、麦も豆も穫れておりました。それが、ある年を境に。井戸の、水が変わってから」
「井戸の水が」
ちりっと、舌の奥が痺れた感覚を思い出す。村へ続く道の、あの古い井戸。
「水が、どう変わったの」
「味が、です。少し苦くなった、と。気のせいだろうと、皆そのまま飲み続けて――その頃から、畑が枯れ、家畜が痩せ、人も病みがちに」
私は、立ち上がっていた。
「その井戸へ、案内してください。今すぐ」
これは、当主の呪いとは別の話だ。もっと単純で――もっと、人の手の匂いがする。
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