第31話 帰る場所
王都での、長い戦いが終わり。
私とディートハルトは、辺境ヴェルンフェルトへの、帰路についた。
来た時とは、何もかもが、違っていた。あの時、私は、濡れ衣を着せられた“罪人”として、護送同然に王都へ上った。けれど今、帰っていく私は、自分の名前と、本物の証明と、隣に並ぶ人を持っている。
馬車の窓から、見慣れた谷が、見えてきた。
そして――村の入り口に、人だかりができていた。
ミナがいた。弟がいた。井戸の毒から救った村人たちが、麦の芽吹いた畑を背に、わっと、手を振っていた。
「クロエ様あーっ! おかえりなさい!」
その声に、目の奥が、つんと痛んだ。けれど今度は、こらえた。こらえきれずに、ただ一筋だけ、頬を伝う。
おかえり。生まれて初めて、誰かが、私にそう言ってくれた。帰る場所が、ここにある。私の名前を呼んで、待っていてくれる人が、ここにいる。
「……ただいま」
呟いた声は、少し、震えていた。
隣で、ディートハルトが、ふっと笑った。もう、何年も夜を眠れなかった、あの氷のような男が。今は、こんなにも穏やかに笑う。
「お前の、帰る場所だ」彼は、静かに言った。
「私が、そうすると、決めた」
その言葉の確かさに、胸の奥が、じんと熱を持った。
その夜。久しぶりに、自分の工房に戻り、私は、ディートハルトの呪いを、改めてじっくりと視た。
毒の騒ぎで、後回しにしてきた、本丸。彼の、血筋に巣食う、古い呪い。
そして――気づいてしまった。
王都で毒を盛られた、あの夜。荒れ狂った呪いを鎮めるために、私は、その淀みの、いちばん深いところまで、踏み込んだ。だから、視えてしまった。
この呪いの“根”が、どこから来たものなのか。その、最初の糸口が。
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