第30話 私の名前
ヴィオラの断罪は、淡々と進んだ。
天才の名を騙り、妹の功績を奪い続けた罪。王宮の薬害事件で、無実の妹に濡れ衣を着せた罪。――公的に、その地位は剥奪された。
けれど、それは、姉の物語の終わりであって、事件の終わりでは、なかった。
私は、玉座の間で、はっきりと申し述べた。
「ヴィオラは、確かに、私の功績を奪いました。それは、姉自身の、罪です。けれど――王宮を毒したのは、姉では、ありません」
広間が、どよめいた。
「姉には、砒石を仕込む知恵も、王宮全体に毒を流す力も、ありません。姉は、ただ“天才”という看板として、利用されていた。本当に、毒を流し、昨夜、辺境伯の命を狙った者は――別に、います。この、王都の、もっと高い場所に」
私の視線が、ふと、宰相の方へ流れる。
宰相は、表情ひとつ変えなかった。けれど、その沈黙は、雄弁だった。
「証拠は、まだ、ありません」私は、引いた。今、ここで名指しをしても、揉み消されるだけだ。「ですが、いずれ。必ず、たどり着きます」
それは、宰相への、宣戦布告だった。
宰相の目が、初めて、私を“敵”として、まっすぐに見た。――面白い、とでも言うように。
◇
すべてが終わり、私は、玉座の前で、改めて名乗ることを許された。
「ヴェルンフェルト辺境伯夫人、クロエ。――いいえ」
私は、顔を上げた。
「錬金術師、クロエ。それが、私の名前です」
姉の影でもなく。誰かの予備でもなく。
十八年かけて、ようやく、私は、自分の名前を、自分の手に取り戻した。
その響きを、私は、生まれて初めて、心から、誇らしいと思った。
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