第27話 姉の最後の罠
公開検証は、夜半まで決着がつかぬまま、いったん休会とされた。
姉の薬が効かず、私の薬が効いた。それは、広間の誰もが見た。けれど――「天才ヴィオラ」の名は、長く王都を支えてきた看板だ。それを、一日で覆すことを、宰相は許さなかった。「検証は明日、改めて」と。時間を稼いだのだ。
その夜、私たちに割り当てられたのは、王宮の客間だった。
私は、いつものように、ディートハルトの呪いを抑える薬を組んでいた。長旅と、広間での緊張で、彼の呪いは、いつもより深く疼いていた。
素材は、自前の道具入れのものを使う。けれど、足りない分の数種と、煮出しに使う湯だけは、王宮の従者が運んできたものを使うほかなかった。客間に、井戸も竈もないのだから。――その、わずかな隙が、命取りになるとは。
「……少し、休んでください」薬を渡し、私は言った。
「明日が、本番です」
ディートハルトが、頷いて器を呷る。
その時だった。
彼の喉が、ぐっと、鳴った。
いつもなら、すぐにほどけるはずの肩が――逆に、強く、強張っていく。顔から、血の気が引いていく。額に脂汗。
「ディートハルト様!?」
私は、血の気が引いた。違う。これは、呪いの発作じゃない。私の薬が、こんな反応を起こすはずがない。
薬の器を、ひったくるように嗅いだ。それから、調合に使った素材と、湯の残りを。
――砒石。それに、何か、別の。神経を昂らせ、呪いの巡りを暴走させる、毒。
湯だ。王宮が運ばせた、あの湯。それに、補充させた素材の一つも、すり替えられていた。私が“声”で気づけぬほど巧妙に、ごく薄く。だから、私が自分の手で組んだ薬が、そのまま、毒になった。
(素材のすり替え……いつもの、あの手口)
私が姉に気を取られ、王宮の用意したものに頼らざるを得なかった、この一夜を、狙って。
「人を……っ、誰か!」
崩れ落ちるディートハルトを、私は必死で抱き留めた。広い背中が、痙攣している。呪いと毒が、彼の体の中で、混じり合い、暴れ狂っている。
廊下の向こうで、誰かの足音が、遠ざかっていくのが聞こえた。
仕組まれていた。――姉一人の浅知恵じゃない。素材を、王宮の奥で、すり替えられる者。これは、もっと上から、降りてきた手だ。
(させない)
私は、震える指を、ぐっと握りしめた。泣いている暇は、ない。
この人を、殺させはしない。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
続きが気になったら、評価とブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!




