第26話 剥がれていく
広間がどよめいた。
目の前で、起きたことだ。同じ素材、同じ条件。なのに、天才と呼ばれた姉の薬は濁って効かず、罪人とされた妹の薬は、辺境伯の呪いを和らげた。
誰の目にも、明らかだった。どちらが、本物か。
「ち、違います!」ヴィオラが、悲鳴のような声を上げた。
「今のは、何かの間違い……! 私は、天才で……ずっと、みんなが、そう……!」
「ヴィオラ嬢」重臣が、冷ややかに遮った。
「では、問おう。なぜ、あなたの薬は効かなかったのか。同じ素材だ。説明できるかな」
ヴィオラは、口を、ぱくぱくと動かした。
けれど、言葉は、出てこなかった。
説明できるはずがなかった。なぜなら彼女は、なぜ自分の薬が効くのか、その理由を、ただの一度も、理解したことがなかったのだから。効く時は、ただ“妹が組んでいた”から。効かなくなったのは、ただ“妹がいなくなった”から。それだけのこと。
「……っ」
追い詰められた姉の目が、ぎらりと、光った。
そして、彼女は、最後の手段に出た。理性ではなく、保身の本能で。
「そ……そうよ、思い出したわ!」ヴィオラは、震える指で、私を指した。
「クロエ! あなた、辺境伯に、何か飲ませたでしょう! さっきの薬に、辺境伯を操る、怪しい毒を仕込んだのよ! だから、効いたように見せかけて……!」
苦しまぎれの出鱈目。
けれど、私は――その言葉に、ぞくりとした。背筋が冷たくなる。
毒。操る。仕込む。
姉は、知らずに口走っている。けれど、その発想は、どこから来た? 普通の令嬢が、とっさに思いつく嘘じゃない。まるで、“誰かが実際にやっている手口”を、そばで見て、知っているかのような――。
私は、ヴィオラの、その怯えた目の、さらに奥を見た。
この人もまた、誰かに、操られているのかもしれない。
その時、広間の隅で。
ずっと沈黙していた宰相が、ほんの少し、目を細めたのを――私は、見逃さなかった。
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