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天才錬金術師の正体は影武者の私でした 〜私を捨てた姉の薬が効かなくなった頃、呪われた辺境伯様は私だけに懐きます〜  作者: P作


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第25話 本物の証明

ざわめきが、広間を満たした。


「面白い」と、誰かが言った。重臣の一人だ。

「双子の、どちらが本物か。その手で組ませれば、たちどころに分かる。よい趣向ではないか」


宰相が、苦々しげに、けれど断れずに、頷いた。衆人環視のこの場で、公正な検証を拒めば、それこそ怪しい。


二つの調合台が、広間の中央に据えられた。並べられたのは、まったく同じ素材。同じ器具。条件は、完全に等しい。


「では、お題を」重臣が告げた。

「ちょうどよい。辺境伯の、その呪いの痛みを和らげる薬を。――双子の、それぞれが、組んでみせよ」


私は、ちらりと、ヴィオラを見た。


姉の顔は、蒼白だった。手が、震えている。


当然だ。姉は、一度も、本当の意味で“薬を組んだ”ことがない。処方書を暗記し、決まった素材を、決まった分量で混ぜることしか、できない。けれど、今日の素材が、どんな状態なのか。湿気は。乾きは。それを“聴いて”配合を変える――その、いちばん肝心な工程を、姉は、知らないのだ。


「お姉様」私は、静かに声をかけた。

「どうぞ、お先に」


ヴィオラは、震える手で、素材を掴んだ。


それは、見ている者すべてに、残酷なほど明らかだった。彼女は、素材を“見て”いなかった。手に取って、香りを確かめることも、指で湿りを探ることもしない。ただ、頭の中の処方書をなぞるように、決まった分量を、決まった順に、混ぜていく。今日の月光草が弱っていることも、鉱石の湿りが飛んでいることも、彼女の目には、映らない。映らないまま、レシピだけが、空回りしていく。


「……ぁ」途中で、ヴィオラの手が、止まった。色が、思った通りに出ない。慌てて、別の素材を足す。けれど、それが、さらに濁りを呼ぶ。


重臣の一人が、眉をひそめた。別の一人が、隣と、ひそひそ何かを囁き交わす。その私語が、さざ波のように、広間に広がっていった。皆、薄々、気づきはじめている。――この女の手つきは、天才のものでは、ない。


出来上がったのは、濁って、いやな匂いのする、液体だった。


次は、私の番だ。


私は、同じ素材を手に取り、いつもどおりの工程を、淡々と進めた。月光草の乾きを、指で確かめる。鉱石の湿りを、嗅ぎ分ける。八話前、辺境の広間でやったのと、同じこと。違うのは、隣に、それを“できなかった”姉が、青ざめて立っていることだけ。


やがて、私の手の中に、澄んだ琥珀色の一服が、できあがった。匂いだけで分かる。これは、効く。


二つの器が、並べて、ディートハルトの前に置かれた。


彼は、まず、ヴィオラの薬を、ひと口。


――顔を、しかめた。「濁って、苦いだけだ。何の効きもない」


そして、私の薬を、呷る。


数瞬の後。彼の張り詰めていた肩から、すうっと、力が抜けた。広間じゅうに聞こえる、はっきりとした声で、彼は告げた。


「効く。――痛みが、引いていく。これが、本物だ」


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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