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天才錬金術師の正体は影武者の私でした 〜私を捨てた姉の薬が効かなくなった頃、呪われた辺境伯様は私だけに懐きます〜  作者: P作
第4章「効かない薬」

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第23話 打ち明ける

宿の小さな部屋。窓の外で、雨が、静かに降っていた。


「ディートハルト様。聞いて、いただきたいことがあります」


私は、彼の前に座り、両手を膝の上で、ぎゅっと握った。


ずっと、怖かった。これを話せば、彼は、どう思うだろう。利用されたと、怒るだろうか。最初から正体を隠していた女だと、失望するだろうか。


それでも――話す。彼には、本物の私を、知っていてほしいから。


「私は、ただの、辺境の薬師ではありません」


声が、わずかに震えた。


「公爵家で、私はずっと、姉の“影武者”でした。世間が『天才錬金術師ヴィオラ』と讃えた薬は……その、最後の一滴まで。ぜんぶ、私が、作っていたものです」


雨の音だけが、部屋を満たした。


「姉は、処方書を暗記しただけ。素材の声を聴いて、本当に効く薬に組み上げていたのは、私でした。けれど、表に立つのはいつも姉で。賞賛も、地位も、ぜんぶ姉のもの。私は、ただの“予備”として、屋敷の奥にいました。――そして、用済みになって、辺境へ、捨てられた」


言い終えて、私は、顔を上げられなかった。


彼が、どんな顔をしているのか。見るのが、怖かった。


長い、沈黙。


やがて、ディートハルトが、ゆっくりと口を開いた。


「……そうか」


その声は、怒ってなど、いなかった。


「ようやく、腑に落ちた」


私は、はっと顔を上げた。


彼は、静かに私を見ていた。その目に、軽蔑も、失望も、なかった。あるのは――深い、納得と、それから、痛ましさだった。


「辺境に来たばかりのお前が、なぜ、即興であれほどの薬を組めたのか。なぜ、宮廷の天才の薬を、ひと目で見破れたのか。ずっと、引っかかっていた。……お前が、その天才そのものだったなら、すべて、繋がる」


「……怒らないんですか。隠していたこと」


「なぜ怒る」彼は、わずかに眉を寄せた。

「お前は、自分の手柄を盗まれ、名を奪われ、それでも、辺境の誰かのために薬を組み続けた。――怒るとすれば、それは、お前にではない。お前から、すべてを奪った連中にだ」


その言葉が、ずっと張り詰めていた何かを、ほどいた。


気づけば、私の頬を、涙が伝っていた。十八年、誰にも言えなかった。誰にも、信じてもらえないと思っていた。その重荷を、この人は、ただ「腑に落ちた」と、受け止めてくれた。


「明日」彼は、静かに言った。

「王都で、お前の名を、お前に返そう。本物が、誰なのかを」

雨は、夜のうちに、上がっていた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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