第21話 濡れ衣
王都からの早馬が、ヴェルンフェルトの館に、一通の召喚状を届けた。
王家の紋章。物々しい封蝋。ディートハルトが、それを読み下していくにつれ、その端整な顔が、みるみる険しくなっていった。
「……どういう、ことだ」
彼は、召喚状を、私に手渡した。
そこに書かれていた内容は、私の予想の、さらに斜め上をいくものだった。
王宮の薬による死傷事件。その責を問われた天才錬金術師ヴィオラは、こう証言した
――「私の薬は、完璧だった。けれど、調合の“秘伝の処方”を、何者かに盗まれた。盗んだのは、私を逆恨みする、双子の妹。今は辺境ヴェルンフェルトに潜む、薬師くずれのクロエ。あれが、私の処方を歪めて広め、王宮を害したのだ」と。
つまり。
王宮を毒したのは、辺境の薬師クロエ。よって、即刻、王都へ召喚し、尋問する。
「……は」
私は、思わず、乾いた笑いをこぼしてしまった。
なんということ。あまりに、姉らしい。
自分の薬が毒に変わった理由を、説明できない。だから、すべてを、捨てたはずの妹になすりつけた。本物の私を“処方を盗んだ偽物”に仕立て、自分は“被害者の天才”であり続けるために。
「クロエ」ディートハルトの声は、低く、怒りに震えていた。
「これは、出鱈目だ。お前は、ずっとこの辺境にいた。王宮の薬になど、関わりようがない。こんな召喚、応じる必要は――」
「いいえ」
私は、召喚状を、そっと畳んだ。
「行きます。王都へ」
ディートハルトが、目を見開いた。
「正気か。これは罠だ。行けば、お前は」
「ええ、罠でしょうね。でも」私は、顔を上げた。
「やっと、来たんです。すべてを、ひっくり返せる場所が」
逃げれば、私は一生“逃げた偽物”のまま。けれど、王都の、衆人の前へ出れば――そこで、本物が誰かを、証明できる。
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