第17話 本物の一服
工房ではなく、広間の片隅に、即席の調合台が据えられた。
衆人環視の中で、薬を組む。逃げ場のない、公開の勝負。けれど私は、不思議と落ち着いていた。むしろ、心が躍っていた。
だって――私がずっと、影でやってきたことを。今、ようやく、誰にも隠さず、白日のもとでやれるのだから。
ヴェルンフェルトで集めた素材を、台に並べる。月光草。荒れ地の鉱石。北の苔。どれも、王都の高級店には並ばない、辺境のありふれた素材だ。ファルクが、それを見て、せせら笑った。
「そんな、その辺の草で? 笑わせる」
私は答えず、手を動かした。
素材の声を、聴く。今日の月光草は、乾きが少し強い。なら、水を一滴多く。鉱石は、昨日より湿気を吸っている。なら、火を入れる前にひと擂り余分に。ディートハルトの今日の呪いの深さ。脈の速さ。顔色。――そのすべてを、舌と指が、勝手に計算していく。
広間は、咳ひとつ聞こえぬほど、静まり返っていた。
やがて、立ちのぼる湯気が、薬草の清らかな匂いを運ぶ。ファルクの献じた薬の、香料でごまかした甘ったるさとは、まるで違う。混じり気のない、本物の匂いだ。
居並ぶ家臣たちが、いつのまにか前のめりになり、固唾を呑んで、私の手元に見入っていた。
できあがった一服を、私は、ディートハルトに差し出した。
「どうぞ。いつものより、少しだけ、深く効くように組みました」
ディートハルトは、私の目を、まっすぐ見た。そして、迷いなく、それを呷った。
数瞬。
彼の強張っていた肩が、ふっと落ちる。呼吸が、深く、穏やかになる。何年も彼を苛んできた痛みが、目に見えて、引いていく。
ディートハルトは、ゆっくりと息を吐き、はっきりと、広間じゅうに聞こえる声で言った。
「……効く。ファルク殿の“最高傑作”とやらより、よほど、な」
広間が、ざわめいた。
ファルクの顔から、血の気が引いていく。
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