第15話 粗悪な献上薬
ひと目で分かった。
その青い薬は、見てくれだけは美しい。けれど――濁りがある。素材の質を、香料で誤魔化している。青い発色そのものは、無害な色草で出したもの。問題は、その色の陰に、巧妙に忍ばせてあるものだ。
(……砒石。それも、ごく薄く)
舌の奥が、はっきりとそれを拾う。砒石は、古来、最もたちの悪い遅効の毒。少量を毎日重ねれば、肝の臓を蝕み、痩せ、やがて起き上がれなくなる。健やかな者でも危うい。まして、呪いで弱りきった体に、毎日となれば。
効くどころか、これは、ゆっくりと人を殺す薬だ。
ファルクは、それを“いかなる呪いにも効く新薬”と称して、ディートハルトに差し出している。
偶然だろうか。それとも――。
「辺境伯。ぜひ、お試しを」ファルクが、瓶の栓を抜いた。
「天才ヴィオラ嬢の最高傑作。これさえあれば、辺境の薬師の世話になど、ならずとも済みましょう」
ディートハルトが、瓶に手を伸ばしかけた。
その手を、私は、横から押さえた。
広間が、しんとなる。ファルクの眉が、不快げに吊り上がった。
「……何の真似かな、奥方様」
「お待ちください」私は、できるだけ穏やかに言った。
「この薬は、お飲みにならないほうがよろしいかと」
「ほう?」ファルクの声が、嘲りに尖る。
「辺境の薬師風情が、天才ヴィオラ嬢の調合に、難癖を?」
「難癖ではございません。事実です」私は、瓶を指した。
「その薬の、美しい青の陰に、砒石が忍ばせてあります。ごく薄く、毎日では気づかぬほどに。けれど呪いで弱った旦那様の体には、確かな毒になります。肝の臓を、ゆっくりと蝕んで」
ファルクの顔色が、一瞬、変わった。
それは――驚きでは、なかった。
「知っていた」のだ。この男は、この薬が、弱った体に害を成すことを。
私の背筋を、冷たいものが伝った。やはり。この“見舞いの品”は、ディートハルトを治すためのものじゃない。とどめを、刺すためのものだ。
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