第14話 傲慢な使者
王都の馬車から降りてきたのは、絹をふんだんに使った外套の、痩せた中年の男だった。
宮廷錬金術師、ファルク。宮廷錬金術師長の懐刀、と名乗った。指には宝石、首には金鎖。けれどその目だけは、値踏みする商人のように、冷たく素早く動いていた。
「これはこれは、ヴェルンフェルト辺境伯。ご壮健で何より」
ファルクは慇懃に礼をしながら、その実、ディートハルトの顔色を、無遠慮に観察していた。呪いに伏せっているはずの辺境伯が、自分の足で立ち、客を迎えている。その事実に、彼は明らかに、計算を狂わされていた。
「随分と、お元気そうだ。臥せっておられると、伺っておりましたが」
「おかげさまでな」ディートハルトは、にこりともせず応じた。
ファルクの視線が、ディートハルトの傍らに控える私へ流れた。そして、ふっと、嘲るように緩む。
「そちらが、噂の新領主夫人で? ……ほう。レーゲンドルフ公爵家の。確か、王宮に上がられた天才錬金術師ヴィオラ嬢の、双子の」
ぴくり、と。私のことが――“ヴィオラの双子の妹”が辺境にいることが、もう王都に知られているらしい。
「妹君、でしたかな。姉君は王宮で輝いておられるのに、妹君はこんな辺境で、薬の真似事を。……いやはや、双子といえど、ずいぶんと差がつくものですなあ」
侮蔑を、隠そうともしない。
私は、ただ静かに礼をした。怒りも、恥じらいも見せない。――この男は、私を“地味な妹”だと思い込んでいる。結構。思い込んでいてくれたほうが、後で崩しやすい。
ファルクは、満足げに鼻を鳴らすと、従者に命じて、うやうやしく一つの小箱を運ばせた。
「本日は、王都より、お見舞いの品をお持ちしました。天才ヴィオラ嬢、入魂の新薬にございます。なんでも、いかなる呪い、いかなる痛みにも効くという、特別な調合とか」
箱の蓋が、開かれる。
中で、青い液体の小瓶が、てらてらと光っていた。
その瞬間――私の舌の奥が、ちりっと、嫌な感じに痺れた。
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