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天才錬金術師の正体は影武者の私でした 〜私を捨てた姉の薬が効かなくなった頃、呪われた辺境伯様は私だけに懐きます〜  作者: P作
第2章「辺境の竈に火を入れる」

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第13話 視察という名の

辺境に、春の兆しが見えはじめた頃。


一通の書状が、館に届いた。封蝋には、王都の紋章。ディートハルトは、それを一読して、眉をひそめた。


「王都から、視察の使者が来る」


「視察?」私は首をかしげた。

「何年も見捨ててきた辺境に、今さら?」


「名目は、新領主夫人――つまりお前の、お披露目だそうだ」彼の声は、苦い。

「だが、こんな辺境に、わざわざ王都の人間を寄越す名目じゃない。何か、別の狙いがある」


私は、ふと、嫌な符合に気づいた。


ちょうど、私が領地を立て直しはじめた、この時期に。井戸の毒を見破り、商会の手口を暴きかけた、この時期に。まるで、辺境で“何か”が動きはじめたのを、嗅ぎつけたかのように。


「ディートハルト様。その使者は、誰の差し向けですか」


「書状の差出人は――宮廷錬金術師の、長だ」


宮廷錬金術師長。王都で、薬と毒を一手に握る役職。私が王都にいた頃から、姉の取引の裏に、その影はちらついていた。


胸の奥が、ざわついた。井戸の毒。当主の呪い。姉の薬の凋落。そして、王都から伸びてくる手。――ばらばらに見えた糸が、一点に向かって、たぐり寄せられていく気がする。


「お前は、会わなくていい」ディートハルトが、庇うように言った。

「奥に隠れていろ。あの手の連中は、お前のような者を、平気で踏みにじる」


それから彼は、ふと、探るように私を見た。


「……もっとも。ただの辺境の薬師が、宮廷錬金術師長の名に、眉ひとつ動かさんのも、妙な話ではあるがな」


心臓が、小さく跳ねた。けれど私は、何でもない顔で受け流す。――今は、まだ。


私は、笑った。今度は、はっきりと、したたかに。


「いいえ。お会いします。――せっかく、向こうから来てくれるんですもの」


逃げも隠れもしない。


王都が、辺境の“異変”を確かめに来るというのなら。私もまた、王都が何を恐れているのかを、その使者の顔から、読み取ってやろう。


「それに」私は、窓の外、芽吹きはじめた谷を見やった。

「この土地は、もう、昔のヴェルンフェルトじゃありません。見せてあげましょう。――本物が一人いれば、何が変わるのかを」


数日後。

雪解けの街道を、王都の馬車が、まっすぐにこの辺境を目指して、上ってきていた


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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