第12話 王都の綻び
――同じ頃。王都、レーゲンドルフ公爵邸。
「どういうことなの!」
ヴィオラの金切り声が、自室に響いた。床には、突き返された薬の包みが、いくつも散らばっている。宮廷へ納めた薬が、立て続けに「効かない」と戻されていた。
「処方書のとおりに、ちゃんと混ぜたわ。素材も、いつもの店から仕入れた、最高級のものよ。なのに、なぜ……!」
侍女は、青ざめて俯くばかりだ。
ヴィオラには、本当に、分からなかった。
彼女はずっと、自分が天才なのだと信じてきた。処方書を完璧に暗記し、寸分違わぬ分量で調合する。それが“才能”なのだと。――そのとおりに、している。なのに、薬が、言うことを聞かない。
同じ素材でも、収穫の時期で、産地で、その日の湿り気で、効きは変わる。だから配合は、毎回“聴いて”微妙に変えねばならない。その「聴く」工程を、ヴィオラは一度もやったことがなかった。
なぜなら、それは、ずっと――妹がやっていたから。
「……クロエ」
ぽつりと、ヴィオラの口から、その名がこぼれた。
捨てたはずの、妹。味にうるさいだけの、地味な双子。あの子がいた頃は、薬は当たり前に効いた。あの子がいなくなってから、何もかもが、狂いはじめた。
まさか、あの子が。
「いいえ」ヴィオラは、ぶんぶんと首を振った。
「そんなはずない。あんな出来損ない。私の、ただの“予備”だったくせに」
認められなかった。認めれば、自分が空っぽだと、認めることになる。
だから彼女は、別の答えに飛びついた。
「……そうよ。きっと、素材が悪いのよ。あの商会、いつもの店に、粗悪なものを掴ませたんだわ」
己の腕を疑うより、他人を疑うほうが、ずっと楽だった。
そして、その“いつもの店”の裏に、どんな商会の影が伸びているのか。ヴィオラは、考えようともしなかった。
王都の天才の凋落は、まだ、誰の目にも触れていない。けれど、ひびは、確かに入りはじめていた。
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