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勇者、辞めます。 ~何度死んでも蘇る呪いなんていらないので、辺境でスローライフを始めます~  作者: 山ノ上商会


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第7話 《聖剣召喚》


「弄るとすれば、この明らかに勇者っぽい《聖剣召喚》がいいよな」


俺はステータスに並んだスキルを眺めながら呟いた。


《光魔法》《身体強化》《治癒》は、どれも使い勝手が良さそうだ。特に治癒なんて、これからの生活で何かと役に立つだろう。


だが、《聖剣召喚》だけは別だ。


いかにも勇者専用といった名前だし、今後はあまり人前で使わない方がいいに決まっている。


もっとも、どんなスキルなのかは一度確認しておきたい。


姿を変えたときと同じ失敗を繰り返すつもりはない。変更してから元の状態を知らなかったと後悔するようなことはもうしたくない。


「《聖剣召喚》」


スキル名を口にした瞬間、右手の周囲に淡い光が集まり始めた。


「おっ?」


光は複雑な模様を描きながら広がり、手のひらの少し上に円形の魔法陣が現れた。


それは、この世界にやって来たとき、王城の地下で見たものによく似ていた。


ただし、大きさはまるで違う。あのときの魔法陣は人間が何人も入れそうなほど巨大だったが、目の前に浮かんでいるものは直径30cmほどしかない。


俺が興味深く眺めていると、魔法陣の中心から何かが突き出してきた。


「……おっ」


最初に現れたのは、鋭く尖った剣の先端だった。


それがゆっくりとせり上がり、続いて長い刀身が姿を現す。最後に柄の部分まで出てくると、魔法陣は光の粒となって消え、剣が俺の手に収まった。


「……おぉ」


思わず感嘆の声が漏れる。


手にした剣は、まさに聖剣と呼ぶにふさわしい代物だった。


刀身は白色で、光を受けると淡い輝きを放っている。黄金に彩られた柄には所々に青いラインが走り、鍔の部分には繊細な装飾が施されていた。


剣について詳しいわけではないが、素人目にも普通の武器ではないとわかる。


ゲームなら確実にSSランク。そんな豪華な見た目だった。


「……やっぱり目立つだろうなぁ」


俺は剣を軽く持ち上げ、ため息をついた。


こんなものを腰に下げて街を歩けば、嫌でも注目を集めてしまうだろう。


それに、そもそも俺は積極的に戦いたいわけではない。


日本で暮らしていた頃は喧嘩すらしたことがないし、できることなら魔物との戦闘も避けたいところだ。


ただ、この世界で金を稼ぐ方法となると、真っ先に思い浮かぶのは冒険者ギルドだった。


異世界ファンタジーでは、ギルドで依頼を受けて魔物を倒し、その報酬で生活するのがテンプレだ。


もちろん、この世界にもそんな組織があるとは限らないが、もし存在するなら利用しない手はない。


そうなると、勇者の身体の性能に期待するしかない。


「まあ、その辺は街に戻ってから考えるか。とりあえず、一旦戻そう」


召喚したばかりだが、見た目の確認が終わった以上、聖剣に用はない。


俺は剣を握ったまま、ふと首を傾げた。


「……さて、どうやったら戻るんだ?」


召喚するときはスキル名を唱えるだけでよかったが、解除する方法まではわからない。


試しに、頭の中で剣が消えるところを思い浮かべてみる。


……何も起こらない。


今度は、戻れ、と強く念じてみた。


しかし、聖剣は相変わらず俺の手に収まったままだった。


「やっぱり、何か声に出す必要があるのか?」


それなら、思いつく言葉を片っ端から試してみるしかない。


「戻れ。解除。消えろ。召喚終了。召喚解除。召喚……おっ!」


次の言葉を口にする前に、手の中の聖剣が光を放った。


白い刀身が淡い輝きに包まれたかと思うと、次の瞬間には跡形もなく消え去っていた。


「なるほど。《召喚解除》か」


思ったより簡単な言葉で助かった。


これで召喚と解除の方法はわかった。あとは、肝心のステータスを書き換えてみるだけだ。


「ステータス」


目の前に半透明のウィンドウが現れる。


俺はスキル欄に並ぶ《聖剣召喚》の文字へ意識を集中させた。


さて、何に変えるべきだろう。


せっかくなら、勇者らしさを感じさせない名前にしたい。


とはいえ、あまりにも元のスキルとかけ離れた名前では、うまく変化できない可能性もある。


「……《武器召喚》あたりが無難かな」


聖剣を召喚できるのだから、武器を召喚するという意味では間違っていない。


少なくとも、名前だけなら勇者専用のスキルには見えなくなるはずだ。


俺は頭の中で新しい文字を思い描き、スキルを発動させた。


「《変化》」


すると、ステータスのスキル欄が淡く輝いた。


先ほど名前を書き換えたときと同じように、《聖剣召喚》の文字がぼやけ、ゆっくりと形を変えていく。


やがて光が収まると、そこには新しいスキル名が表示されていた。


《武器召喚》


「よし。とりあえず、ここまでは成功だな」


俺は満足げに頷いた。


念のためMPも確認してみたが、姿を変えたときほど大きくは減っていない。


文字を書き換える程度なら、それほど魔力を消費しないらしい。


さて、問題はここからだ。


もし本当にスキルの内容まで変わっているのなら、聖剣以外の武器も召喚できるようになっているかもしれない。


剣だけでなく、槍や斧、弓なんかも自由に呼び出せるとしたら、相当便利だろう。


「……よし、試してみるか」


俺は期待を込めて右手を前に差し出した。


「《武器召喚》!」


すると、先ほどと同じように手のひらの上に光が集まり、直径30cmほどの魔法陣が現れた。


「おっ、発動した!」


少なくとも、変更後の名前でもスキル。


俺が見守る中、魔法陣の中心から剣の先端が突き出してきた。


続いて白い刀身がせり上がり、黄金の柄が現れる。


そして最後には、見覚えのある剣が俺の手に収まった。


「…………」


俺はしばらく無言で剣を眺めた。


白い刀身。


黄金の柄。


所々に走る青いライン。


どう見ても、先ほど召喚した聖剣そのものだった。


「……ダメかぁ」


思わず肩を落とす。


どうやら、ステータスの表示を書き換えても、スキルの効果そのものが変わるわけではないらしい。


少なくとも、《聖剣召喚》を《武器召喚》に変えた程度では、召喚される武器に変化はなかった。


「まあ、そんなに都合よくはいかないよな……」


少し残念ではあるが、考えてみれば当然かもしれない。


名前を書き換えるだけで何でもできるようになるなら、もはや《変化》というスキルの範疇を超えている気もする。


もっとも、そこで諦める必要はない。


俺には、もうひとつ試せることがあった。


「……そうだ。だったら、こっちを変えればいいのか」


俺は手にした聖剣へ視線を落とした。


ステータスの文字を書き換えても召喚される武器は変わらなかった。


だが、実際に召喚した剣そのものならどうだろう。


何しろ、つい先ほど金属製の防具を手鏡に変えたばかりなのだ。


「《変化》」


俺はごく普通の片手剣を頭の中に思い描いた。


すると、聖剣が淡い光に包まれる。


白く輝いていた刀身は徐々に鈍い銀色へと変わり、黄金の柄からは青いラインが消えていった。


鍔の装飾も簡素なものへと変化し、やがて光が収まる頃には、どこにでもありそうな何の変哲もない剣が俺の手に収まっていた。


「……うん。これなら武器召喚で出てきてもおかしくないだろう」


俺は剣を軽く持ち上げ、満足げに頷いた。


見た目だけなら、完全にファンタジー系のゲームの初期装備。


街の武器屋で普通に売られていそうな代物だ。


少なくとも、これを見て聖剣だと思う人間はいないだろう。


もちろん、召喚を解除して再び呼び出したときにどうなるのかは、まだわからない。


それでも、ひとまず目立たない武器を用意することはできた。


そして何より、今回の実験でひとつ重要なことがわかった。


ステータスの表示を変えても、元々のスキルの効果までは変わらない。


つまり、《変化》でできるのは、少なくとも今のところ、表示の書き換えまでということだ。


「まあ、これがわかっただけでも一歩前進だな」


期待していたような万能のチート能力ではなかったが、それでも十分に便利なスキルであることに変わりはない。


俺は手の中の剣を眺めながら、これからの生活でどう活用していくかを考え始めた。




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