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勇者、辞めます。 ~何度死んでも蘇る呪いなんていらないので、辺境でスローライフを始めます~  作者: 山ノ上商会


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第20話 ちょっと退屈な世界説明


あれから、二週間が経った。


この二週間、俺は採集の依頼を受けては街の外れや人目につかない場所で雑草を刈り集め、それを《変化》で薬草に変えてギルドへ持ち込むという生活を送っていた。


もちろん、初日のように大量の薬草を持ち込むような真似はしていない。


いくら本物の薬草と見分けがつかないとはいえ、毎日のように数百本も持ち込んでいれば、さすがに怪しまれてしまう。


だから、換金するのはあくまで不自然に思われない程度の量に留めていた。


それでも、宿代と食費を賄うには十分な収入になっている。


そして、昼間はこの世界についての情報収集と、手持ちのスキルの確認に時間を費やしていた。


時には街にある図書館へ足を運んで書物を読み、時には買い物と称して商人から話を聞く。


夜になれば酒場へ向かい、冒険者たちの会話に耳を傾けたり、酒を奢って話を聞かせてもらったりもした。


まさか、こんなところで就職活動や社会人時代に身につけたコミュニケーション能力が役に立つとは思わなかった。


特に酒場での情報収集は、思っていた以上に収穫が多かった。


積極的に話しかけたのは、冒険者だったが、冒険者に限らず、酒が入ると人は驚くほど口が軽くなる。


こちらが少し興味を示すだけで、頼んでもいない武勇伝まで披露してくれた。


明らかに話を盛っている者もいれば、酔いが回って途中から内容が変わってしまう者もいる。


そのため、聞いた話はできる限り図書館の書物や別の冒険者の証言と照らし合わせるようにしていた。


おかげで、二週間前と比べれば、この世界について随分と詳しくなったと思う。


まず、この世界はひとつの大きな大陸のみで成り立っている。


そこに人族、亜人、魔族という三つの種族が暮らしている。


もちろん、それぞれの種族の中にもさまざまな違いがあるそうだが、大きく分けるとこの三つになるようだ。


そして、大陸の北側を広く支配しているのが魔族領。


その魔属領の南西に位置するのが、俺が今いるグレイシア王国だ。


さらにその東、隣にはベルティア王国という別の人族国家があり、そのまた東側には亜人たちが暮らす亜人領が広がっている。


つまり、グレイシア王国、ベルティア王国、亜人領の三つが魔族領と国境を接しているということになる。


そして、それらの国々より南側には、魔族領と直接国境を接していない人族の国家がいくつも存在しているらしい。


最初は勇者と魔王がいるという話から、もっと単純な世界を想像していた。


だが、実際には複数の国が存在し、それぞれに異なる文化や歴史がある。


まあ、考えてみれば当たり前のことか。


人が生活していれば、中々1つに纏まるのは難しい。


それは元居た世界との少ない共通点と言えた。


それから、世界地図を調べていると、ひとつ気になる場所を見つけた。


ベルティア王国と亜人領、そして魔族領。


その三つの勢力が接するあたりに、どの国にも属していない地域が存在していたのだ。


その名も、境界荒野。


名前だけ聞くと、見渡す限りの荒れ地を想像してしまうが、実際には森や草原、川なども存在する広大な土地らしい。


ただし、そこには大きな問題があった。


なんと、境界荒野には数多くの魔物が生息しており、中にはなんとドラゴンの縄張りまで存在しているというのだ。


ドラゴン。


一度くらい見てみたい気もするが、絶対に強いだろう。


いくらこの身体でも近づく気にはなれない。


そんな危険な魔物が生息していることから、境界荒野は魔境とも呼ばれているそうだ。


過去には開拓を試みた者たちもいたらしいが、結局現在に至るまでどの国の支配も受けていない。


魔族領と人族の国、そして亜人領に囲まれた危険地帯。


まあまともな人間なら一生縁のある場所ではないだろう。


そして、冒険者たちとの会話で、レベルとスキルの関係についても詳しく知ることができた。


まず、この世界ではレベルが上がるごとに身体能力が向上し、HPやMPの最大値も増えていく。


ただし、その上昇幅には個人差があり、同じレベルだからといって必ずしも同じ強さになるわけではないそうだ。


ここまではゲームのようで分かりやすかった。


どうせならSTRとかLUKのような各パラメータも欲しいところだったけど、世界の仕組みに文句を言ってもしょうがないだろう。


そして、俺が特に興味を引かれたのが、スキルの成長についてだった。


この世界のスキルはレベルが10上がるごとに、その性能が大きく向上する。


例えば、俺も持っている《身体強化》。


このスキルは、レベル1~9までは身体能力を約1.2倍に引き上げる効果がある。


それがレベル10~19になると1.5倍、レベル20~29では2倍といった具合に、レベルが上がるにつれてどんどん強力になっていくそうだ。


この話を聞いて、ようやく俺の《変化》があれほど凄まじい性能を発揮する理由にも納得がいった。


以前、ギルドの受付嬢が低レベルの《変化》では小石の形を少し変える程度が限界だと言っていた。


しかし、俺のレベルは59。


すでに何段階もスキルが強化された状態なのだから、低レベルとは別物のような性能になっていてもおかしくない。


もっとも、どのレベルで何ができるようになるのか、詳しいことまではわからなかった。


そもそも《変化》自体がハズレスキルとして扱われているため、高レベルまで育てた人間の情報がほとんどないのだ。


大抵の人はスキルを1つしか保有していない。


確かに低レベルの《変化》でレベル上げができるとは思えないし、それも仕方ないだろう。


考えてみれば、俺がこの世界に来てから苦労せずに生活できているのも、元々のディーンが高いレベルだったおかげだ。


本人がそのレベルに至るまでに、どれほど過酷な人生を送ってきたのかを思うと、少し複雑な気分になる。


そして、レベルについて調べる中で、もうひとつ重要なことがわかった。


それは、この世界では異なる種族の命を奪うことでしかレベルが上がらないということだ。


人族であれば、魔族や亜人、そして魔物。


そうした存在を殺すことで、いわゆる経験値のようなものを得られるらしい。


もちろん、剣術や魔法の訓練によって技術を磨くことはできる。


だが、どれほど訓練を重ねても、それだけではレベルそのものは上がらないのだ。


これは、なかなか残酷な仕組みだと思う。


元の世界で遊んでいたゲームなら、モンスターを倒して経験値を稼ぐことなど当たり前だった。


しかし、ここはゲームではない。


魔族も亜人も、俺たちと同じように言葉を話し、考え、生活している。


それなのに、この世界では、そうした相手の命を奪うことが自分を強くする手段になっている。


そして、この仕組みを知ったことで、ひとつ納得できたことがあった。


この二週間、王都のあちこちを歩き回ってきたが、亜人らしい姿を一度も見かけなかったのだ。


最初は単純に、グレイシア王国が人族の国だからだと思っていた。


だが、それだけではないのかもしれない。


仮に亜人や魔族が人族の街で暮らしていたとしても、周囲の人間が全員善良だとは限らない。


レベルを上げたいという欲望に目がくらんだ者が、相手を襲う可能性だってある。


逆もまた然りだ。


亜人や魔族にとっても、人族は経験値を得られる相手なのだから。


もちろん、すべての者がそんなことを考えているわけではないだろう。


それでも、たったひとりでも命を狙う者がいれば、安心して暮らすことなどできない。


そう考えると、この世界で異なる種族が共に暮らすことは、俺が想像していた以上に難しいことなのかもしれない。


魔法があり、スキルがあり、勇者と魔王が存在する世界。


最初はまるでゲームの中に迷い込んだような気分だったが、こうして少しずつ知識を得ていくと、この世界は俺が想像していたほど単純な場所ではないらしい。


それでも、俺がやりたいことは変わらない。


勇者として魔王を倒すことでもなければ、強くなるために誰かと戦うことでもない。


のんびりと平和に暮らしたいだけだ。


そのためにも、まずは勇者という縛りなしで、安心して暮らせる場所を見つけなければならない。


二週間かけて集めた情報は、きっとその役に立ってくれるはずだ。



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