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勇者、辞めます。 ~何度死んでも蘇る呪いなんていらないので、辺境でスローライフを始めます~  作者: 山ノ上商会


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第19話 ようやく手に入れた相棒?


宿に戻った俺は、さっそく買ってきた布と鉄くずをテーブルの上に広げた。


そして、忘れてはいけないものがもうひとつ。


俺はポケットの中へ手を入れると、そこから一本の植物を取り出した。


細く伸びた葉には、淡い銀色の筋が走っている。


それは、つい先ほど魔道具屋で見せてもらったエレメンタルグラスと、瓜二つの姿をしていた。


「……よし! やったぞ!」


思わず両手で拳を握る。


魔道具屋で《変化》を使ったあと、すぐにポケットの中を確認したい衝動に駆られたが、何とか我慢していたのだ。


もし街中で取り出しているところを誰かに見られたら、面倒なことになりかねない。


特に、あの魔女さんに見つかろうものなら、どこで手に入れたのかと問い詰められる可能性もある。


だからこそ、宿に帰ってくるまで確認せずにいたのだが……。


「……本当にできてるじゃん」


俺はエレメンタルグラスを持ち上げ、窓から差し込む光にかざした。


葉の形も、色も、銀色の筋も、記憶にあるものとほとんど変わらない。


これが本物として認められれば、銀貨50枚以上で売れることになる。


しかも、元になったのは道端に生えていたただの雑草だ。


正確には端数で余っていた回復草をポケットに入れていたのだ。


「……誰だよ、《変化》をハズレなんて言い始めたヤツ」


思わずそんな文句が口から飛び出た。


とはいえ、ギルドの受付嬢の話では、この世界の《変化》は大したことができないスキルと思われているらしい。


小石の形を少し変える程度でも、それなりの魔力を消費するのだとか。


それを考えると、俺の《変化》が特別なのか、それとも勇者のレベル59という強さが関係しているのか。


……まあ、そのあたりは今後調べていく必要があるだろう。


俺はエレメンタルグラスをテーブルの端へ置いた。


これを今すぐ換金するつもりはない。


ついさっき実物を見せてもらったばかりなのに、いきなり同じものを持っていけば、さすがに要らぬ疑いを持たれてしまうだろう。


しばらく時間を置いてから、偶然見つけたことにして持っていけばいい。


「……さて、と」


俺は両手を軽く叩き、テーブルの上に並べた材料へ視線を戻した。


せっかく時間もあることだし、今日はこの”超有能”なスキル《変化》について、もう少し詳しく調べてみよう。


まずは現在のMP残量を確認する。


「ステータス」


目の前に半透明の画面が現れた。


※

名前 マモル・フジー


レベル 59


HP 8029 / 8029


MP 5345 / 5805


スキル ・照明魔法 ・身体強化 ・治癒 ・武器召喚 ・変化


状態 筋肉痛 |

※


「……うん。ちゃんと変わったままだな」


名前もスキル名も、昨日《変化》で書き換えたとおりになっている。


ギルドでは確認されなかったが、状態の欄もしっかり変更できていた。


《聖剣召喚》と同じくらい、見られた瞬間に《輪廻の呪い》というのは勇者だとバレそうな項目だったので、真っ先に書き換えておいた。


……え?


何で筋肉痛なのかって?


ほかに思いつかなかったんです。


いや、だって。


健康とか正常とか、そういう表示にしてもよかったんだけど、そもそも普通の状態の場合もここに表示されるものなのか分からなかったのだ。


それで、とっさに思いついたのが筋肉痛だった。


まあ、《変化》さえあればいつでも変更できる。


誰かに気付かれてツッコまれたら、そのとき考えればいいだろう。


「よし。じゃあ始めるか」


俺はステータス画面を閉じ、買ってきた鉄くずをひとつ手に取った。


俺は元の世界で使っていたハサミを思い浮かべた。


持ち手の形、二枚の刃、中央の留め具。


できるだけ細部までイメージを固める。


「《変化》」


手の中の鉄くずが淡い光を放ち始めた。


光に包まれた金属は、ゆっくりと形を変えていく。


そして光が収まると、俺の手には一本のハサミが握られていた。


「おお……。いい感じだな」


試しに刃を開閉してみる。


動きは滑らかで、特に問題はなさそうだ。


「さて、MPは……」


ステータスを確認すると、残量は5295。


消費したMPは50だった。


「なるほど。鉄くずからハサミを作っても50か」


どうやら、この程度の変化なら、回復草を作ったときと同じくらいの消費で済むらしい。


「……じゃあ、次はこっちだな」


今度は買ってきた布を広げると、さっそく作り出したハサミを使って、布を適当な大きさに切り分けていく。


ハサミの切れ味は驚くほどよく、少し力を入れるだけで布がすいすいと切れていった。


「……これ、普通に日本でも売れるんじゃないか?」


そんなことを考えながら、大小さまざまな大きさに切った布を種類ごとに並べる。


準備が整ったところで、俺は手ごろな布のひとつを手に取った。


「さてと。まずは下着からだな」


そう。


何を隠そう、俺が今一番欲しいもの。


それはパンツだった。


実は、なんと勇者ディーンは下着を着用していなかったのだ。


この世界ではそれが普通なのかもしれないが、元日本人の俺としては、どうにも落ち着かなかった。


昨日からずっと、何とも言えない違和感を抱えながら生活していたのである。


「……ようやく、この問題を解決できる」


俺はパンツ一枚分ほどの布を手に取り、目を閉じた。


思い浮かべるのは、日本で愛用していたユニク〇のボクサーパンツ。


あの程よいフィット感。


締めつけすぎない履き心地。


そして何より、優れた通気性。


「《変化》」


布が光に包まれ、形を変えていく。


やがて光が収まると、俺の手には見慣れた黒いボクサーパンツが握られていた。


「……おお!」


俺は思わず感嘆の声を上げた。


「やっぱり、お前の通気性が俺には必要そうだ」


我ながら一人で何を言っているんだろうとは思う。


だが、今の俺にとっては切実な問題なのだ。


俺はさっそく防具を脱ぎ、出来上がったばかりのパンツを身につけた。


「……はぁぁ。安心するぅ……」


思わず気の抜けた声が漏れた。


これだ。この安心感なのだ。


たかがパンツ一枚で、ここまで気分が変わるとは思わなかった。


……まあ、誰かに聞かれたら間違いなく変人扱いされるだろうな。


幸い、ここは宿の個室だ。


誰かに聞かれる心配はない……はず。


「おっと、MPも確認しないとな」


ステータスを開くと、残量は5245。


消費MPは50だった。


「……よし。次の実験だ」


今度は、先ほどよりもずっと小さな布を手に取った。


手のひらよりも小さいくらいの切れ端だ。


これを使って、もう一度同じものを作ってみる。


そう、パンツだ。


……別にパンツが好きなわけじゃないぞ?


同じものを作らなければ、消費MPの比較ができないからだ。


これはれっきとした実験なのである。


俺は先ほどとまったく同じボクサーパンツを思い浮かべた。


「《変化》」


小さな布が光に包まれ、みるみる形を変えていく。


そして、出来上がったのは先ほどと同じ黒いボクサーパンツだった。


「……おお、ちゃんとできたな」


見た目も大きさも変わらない。


だが、ステータスを確認したところ、少し違いがあった。


「……あれ? 60減ってる」


残りMPは5185。


先ほどより10多く消費している。


「なるほど……。元の布が小さすぎたから、余計にMPが必要だったってことか?」


足りない分の材料を、魔力で補っているのかもしれない。


それなら、逆に材料が多い場合はどうなるのだろう。


俺は今度、パンツ一枚分よりも明らかに大きな布を手に取った。


そして、再び同じものを思い浮かべる。


「《変化》」


結果は成功。


またしても黒いボクサーパンツが完成した。


だが、MPは5125になっていた。


「……大きすぎても60消費するのか」


どうやら、材料が少なすぎても、多すぎても、余計にMPが必要になるらしい。


つまり、作りたいものに対して、ちょうどいい量の材料を用意した方が効率がいいということだろう。


「……なるほどな。これは覚えておいた方がよさそうだ」


俺は頷きながら、出来上がったパンツをテーブルへ置いた。


これで3枚。


とりあえず、下着の替えには困らなくなった。


……いや、まだ実験は終わっていない。


「次は、これだな」


俺はテーブルの端に置いていた鉄くずを手に取った。


今度は布ではなく、金属からパンツを作ってみようと思う。


普通に考えれば、鉄から布製品を作るなんて不可能だ。


だが、俺の《変化》ならどうだろう。


「……まあ、試すだけ試してみるか」


俺は手の中の鉄くずを見つめ、先ほどと同じ黒いボクサーパンツを思い浮かべた。


「《変化》」


すると、鉄くずが淡い光を放ち始めた。


光の中で硬い金属が形を失い、柔らかな布のようなものへと変わっていく。


そして光が収まると、俺の手には見慣れた黒いボクサーパンツが握られていた。


「……マジか!」


思わず声が大きくなった。


「素材の種類が違っても変化できるのか!」


これは凄い発見だ。


今までは、植物から植物、金属から金属といった具合に、同じ種類の素材同士で変化させていた。


だが、今回は金属から布製品を作ることに成功した。


つまり、素材の種類そのものを変えることもできるということだ。


「……これ、わざわざ布を買う必要もなかったんじゃないか?」


極端な話、道端に落ちている小石からだって、エレメンタルグラスを作れる可能性がある。


……いや、エレメンタルグラスも元はただの雑草なんだけどな。


「……おっと、興奮して忘れるところだった」


慌ててステータス画面を開く。


そして、表示された数字を見て固まった。


MP 4325 / 5805


「……4325?」


俺は思わず目を擦った。


「……800も減ってるじゃん!」


前回確認したときのMPは5125だった。


つまり、鉄くずからパンツを作るだけで、800ものMPを消費したことになる。


「……なるほど。素材が違うと、MPの消費が跳ね上がるのか」


俺は手の中のパンツを見つめた。


見た目は先ほど作ったものとまったく同じだ。


それなのに、消費したMPは16倍。


「……さすがに、そこまでうまい話はないってことか」


何でも好きなものを作れるとはいえ、素材が大きく違えば、それだけ大量の魔力が必要になるらしい。


MPが5805もある俺でさえ、全快の状態から7回ほどしか使えない計算だ。


レベルが低ければ、一度使うことすら難しいかもしれない。


「……これは、ちゃんと材料を用意した方がよさそうだな」


少なくとも、同じ種類の素材を使った方が圧倒的に効率がいい。


それに全く同じ素材を用意する必要はなさそうだ。


そうじゃないと綿から、ユニク〇のパンツなんてできるはずがないからな。


そこの設定は絶妙に甘そうだ。


今後何かを作るときは、今まで通りできるだけ近い材料を用意することにしよう。


そんな結論を出したところで、不意に鼻がむずむずした。


「……ハックション!」


大きなくしゃみが部屋に響いた。


「……ん?」


俺は自分の身体へ視線を落とした。


どこからどう見てもパンツ一枚で立っている自分の身体が視界に収まった。


……そういえば、ずっとこの格好だったな。


周囲を見渡すと、床には脱ぎ捨てた防具、テーブルの上には布の切れ端と鉄くず。


そして、なぜか綺麗に並べられた3枚の黒いボクサーパンツ。


「…………」


勇者の身体を手に入れた男が、宿の一室でパンツ一丁になり、そしてひたすらパンツを作り続けている。


しかも、そのために消費した魔力は、合計で1000近く。


「……服作ろ」


俺は小さく呟くと、テーブルの上に残っていた布を手に取った。


そして、今日何度目になるかもわからないスキル名を唱えた。


「《変化》」


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