第14話 報酬ゲット
街へ戻り、冒険者ギルドに到着した頃には、朝の混雑が嘘のように、すっかり落ち着いた雰囲気になっていた。
掲示板の前に集まっていた冒険者の姿は減り、代わりに飲食スペースで休憩している者がちらほらと見える。
俺は袋を担いだまま、受付のカウンターへと向かった。
「あ、マモルさん。お帰りなさい」
昨日から世話になっている受付の女性が、俺に気づいて笑顔を向けてきた。
「ただいま戻りました。薬草を採ってきたので、確認してもらえますか?」
「はい、もちろんです。では、こちらに……」
女性はカウンターの上へ視線を向けた。
俺が担いでいた袋を下ろすと、その大きさに気づいたらしい。
「……え?」
「あの、ここに出しても大丈夫ですか?」
「は、はい。大丈夫ですが……」
俺は袋の口を開き、中身をカウンターの上へ広げた。
丸い葉をつけた回復草が、次々と積み重なっていく。
それを見ていた女性の目が、みるみる大きくなった。
「……これ、全部回復草ですか?」
「だと思います。たまたま、まとまって生えている場所を見つけまして」
「群生地を見つけられたんですか?」
「ええ、まあ……」
女性は驚いたように回復草の山を眺め、それから俺の顔へ視線を戻した。
「……すごいですね。初めての採取で、これだけの量を持ち帰る方はなかなかいませんよ」
「はは……運がよかったんだと思います」
俺は曖昧に笑って誤魔化した。
女性はまだ少し驚いている様子だったが、やがて気を取り直すと、回復草を丁寧にまとめ始めた。
「これだけの量ですと、査定に少しお時間をいただくと思います。あちらのテーブルでお待ちいただいてもよろしいですか?」
「わかりました」
俺は頷き、飲食スペースへと向かった。
空いていたテーブルを見つけて椅子に腰を下ろすと、ほどなくしてエプロン姿の女性が近づいてきた。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
そう言って、テーブルの上へメニューを置く。
「あ、どうも」
俺はメニューを受け取り、そこでふと思い出した。
……そういえば、昼飯を食べてなかったな。
朝食を食べてから森へ向かい、3時間も薬草を探し回っていたのだ。
そのあと《変化》の実験までしていたのだから、すでに昼は随分と過ぎているはずだ。
時間的にはまだ夕方にもなっていないが、ここで食事を済ませておかないと昼を食べ損ねることになりそうだ。
ただ、メニューを開いてみたものの、どんな料理なのかよくわからないものが多い。
「……すみません。何かおすすめをお願いできますか? アルコールはなしで」
「かしこまりました。では、本日のおすすめをお持ちしますね」
女性はにこやかに頷き、厨房の方へと歩いていった。
俺は椅子の背もたれに身体を預け、周囲を見渡した。
昨日は酒を飲んで騒いでいる冒険者が多かったが、今は食事をしている者がほとんどだ。
鎧を脱いでくつろいでいる者もいれば、仲間同士で依頼の成果を話し合っている者もいる。
こうして見ていると、冒険者という仕事も案外普通の職業なのかもしれない。
もっとも、命の危険があるという点では、元の世界の仕事と同列に考えない方がいいだろう。
そんなことを考えているうちに、厨房の方から香ばしい匂いが漂ってきた。
「お待たせしました」
先ほどの女性が、大きな皿を載せた盆を運んでくる。
テーブルに置かれたのは、厚切りの肉を豪快に焼き上げたステーキだった。
表面にはこんがりと焼き色がつき、熱々の肉からはじゅわじゅわと肉汁が溢れている。
「ボア肉のステーキです。こちらは果実を使ったジュースになります」
「おお……美味そうですね」
「ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」
女性が去っていくのを見送り、俺はさっそくナイフとフォークを手に取った。
ボア肉、か。
ボアというと、猪のことだろうか。
この世界にも普通の猪がいるのか、それともそういう名前の魔物がいるのか。
まあ、どちらでもいいか。
俺は肉にナイフを入れた。
見た目はかなり分厚いが、思っていた以上に簡単に刃が通る。
切り分けた肉を口へ運ぶと、噛んだ瞬間に濃厚な旨味が広がった。
「……っ、うま!」
思わず声が漏れた。
味はポークソテーに近いが、こちらの方が少し野性味がある。
とはいえ、臭みが強いわけではない。
むしろ、肉の旨味と程よい野性味が、かけられたソースによく合っていた。
「……これ、かなり美味いな」
俺はもうひと切れ口へ運んだ。
続いて、添えられていたジュースを飲んでみる。
柑橘系の爽やかな風味があり、甘さは控えめだ。
肉の脂をさっぱりと洗い流してくれるので、食事の合間に飲むにはちょうどいい。
気づけば、あっという間に皿の上が空になっていた。
「……ごちそうさまでした」
俺が満足げに息を吐いたところで、ちょうど受付の女性がこちらへ歩いてくるのが見えた。
「マモルさん、お待たせしました。査定が終わりましたよ」
「あ、ありがとうございます」
俺は席を立ち、女性と一緒にカウンターへ戻った。
「お預かりした薬草ですが、すべて回復草で間違いありませんでした」
「本当ですか?」
「はい。全部で215本ありましたので、報酬は銀貨4枚と大銅貨3枚になります」
そう言って、女性は硬貨を載せた小さな盆を差し出してきた。
銀貨が4枚。
それに、宿でお釣りとして受け取ったものと同じ、大きめの銅貨が3枚。
銅貨10枚分の価値がある硬貨は、大銅貨というらしい。
「ありがとうございます」
俺は硬貨を受け取り、懐にしまった。
どうやら、変化させた回復草も問題なく買い取ってもらえたようだ。
これなら、今後の金策にも十分使えそうだな。
「それにしても、いくら群生地を見つけたとはいえ、これだけの回復草を一度に持ち込まれるなんて、初回としては今までで一番多いかもしれませんよ」
女性は感心したように微笑んだ。
「はは……運がよかったんですよ」
俺は苦笑しながら答えた。
ただ、内心では少し反省していた。
初めての依頼で200本以上の回復草を持ち込むというのは、さすがにやりすぎだったかもしれない。
今回は群生地を見つけたという説明で納得してもらえたが、これを何度も繰り返せば、いずれ不審に思われる可能性もある。
……次からは、もう少し量を考えた方がよさそうだな。
俺の目的は、冒険者として名を上げることではない。
必要な金を稼いで、できるだけ早くこの街を離れることだ。
そのためにも、余計な注目を集めるのは避けたい。
「それじゃあ、また明日も来ますね」
「はい。お待ちしております」
女性はにこやかに頭を下げた。
俺も軽く会釈を返し、カウンターを離れる。
こうして、俺の冒険者として初めての依頼は、無事に完了したのだった。




