第13話 これがチートというやつか
俺は両手に持った回復草を見比べながら、しばらくその場に立ち尽くしていた。
見た目はほとんど同じ。
少なくとも、素人の俺にはどちらが本物なのか見分けがつかない。
ただ、問題はこれが本当に回復草としての効果を持っているかどうかだ。
「……まあ、それはギルドに持っていけばわかるか」
俺はそう呟くと、ふと思い出してステータス画面を開いた。
朝、宿を出る前に確認したときには、MPが全快していた。
昨夜はずいぶん早く眠ってしまったが、どうやら寝ている間に回復してくれるシステムのようだ。
そして、現在のMPは――。
MP 5755 / 5805
「なるほど。今の《変化》の消費MPは50ってわけか」
昨日、自分の容姿を変えたときには500ものMPを消費した。
それに比べれば、今回の消費量は随分と少ない。
これで、変化させる内容によって必要なMPが変わることは、ほぼ間違いないだろう。
「……てことは、今のMPだと多くても116本くらいしか作れないのか」
MPが全快した状態から、1本につき50ずつ消費すると考えれば、最大で116本。
回復草は5本で銅貨10枚だから、22セット分として銅貨220枚になる。
宿代が一泊銅貨50枚なので、毎日同じだけ稼げるなら、生活していくには十分な額だ。
ただし、それはMPをほとんど使い切ることを前提とした話になる。
「……もっと効率よく稼げないかな」
俺はステータス画面を閉じ、小さく息を吐いた。
金を稼ぐこと自体は、何とかなりそうだ。
だが、問題はそれだけではない。
昨日、王都へ戻ってきてからというもの、俺の頭にはずっとひとつの不安がつきまとっていた。
……いつか、勇者ディーンだとバレるんじゃないか。
顔も名前も変えた。
冒険者カードだって、マモル・フジーという名前で発行してもらえた。
それでも、この身体が元々ディーンのものであることに変わりはない。
何かの拍子に正体が知られてしまえば、また魔王討伐を命じられるかもしれないし、何より街の住民に非難されるだろう。
今朝、宿で目を覚ましたときも、その不安が完全に消えたわけではなかった。
できることなら、早いうちにこの街を離れたい。
そのためには、ある程度まとまった金が必要だろう。
「……よし。もう少し試してみるか」
俺は足元に生えている雑草へ目を向けた。
そこで、ふとあることを思いついた。
「……そうだ。一気に何本も変化させたらどうなるんだろう?」
今までは、ひとつの対象に対して《変化》を使っていた。
だが、別に一度にひとつしか変化させられないと決まっているわけではない。
物は試しだ。
俺は近くに生えていた雑草を4本ほど引き抜き、右手にまとめて握った。
左手には、最初に見つけた本物の回復草を持つ。
「……よし」
俺は4本の雑草すべてが、左手の回復草と同じ姿になるところを思い描いた。
そして、スキルを発動する。
「《変化》」
すると、右手に握っていた雑草が一斉に淡い光を放ち始めた。
光が収まると、そこには丸い葉をつけた植物が4本握られていた。
「……おお!」
思わず声が弾む。
どうやら、複数のものを一度に変化させることは可能らしい。
問題は、消費したMPだ。
俺はすぐにステータス画面を開いた。
MP 5705 / 5805
「……おぉ!」
思わず目を見開いた。
減っているのは、先ほどから50だけ。
それにもかかわらず、右手には4本の回復草が握られている。
「この4本まとめて、1回ってカウントになるわけか!」
これは大きな発見だ。
1本ずつ変化させても50。
4本まとめて変化させても50。
それなら、もっと大量の雑草を一度に変化させれば、さらに効率よく回復草を作れるのではないだろうか。
「……よし、次は10本だな」
俺は近くの雑草をまとめて引き抜き、今度は10本を一度に変化させてみた。
結果は成功。
消費MPも、やはり50だった。
「……マジか」
俺は思わず笑みを浮かべた。
こうなると、どこまで一度に変化させられるのか気になってくる。
次は20本。
さらに30本。
雑草を集めては《変化》を使い、そのたびにMPを確認していく。
いずれも問題なく回復草へと変化し、消費MPも50のままだった。
だが、一度に変化させる数が50本を超えたところで、ようやく変化が現れた。
「……あれ?」
ステータス画面を確認すると、今度はMPが60減っていた。
「なるほど……。回数だけじゃなくて、量によってもMPが増えるのか」
どうやら、まとめて変化させれば必ず50で済むというわけではないらしい。
それでも、1本ずつ変化させるよりは遥かに効率がいい。
「……これなら、いくらでも作れそうだな」
俺は満足げに頷き、足元へ視線を落とした。
そこには、先ほどまでなかった小さな緑色の山ができあがっていた。
「……いや、ちょっと待て」
改めて眺めると、なかなかの量だ。
試しに数えてみたところ、全部で200本ほどの回復草が積み上がっている。
「……調子に乗って作りすぎたか?」
いくら何でも、初めての薬草採取でこの量を持ち込むのは不自然かもしれない。
だが、せっかく作ったものを捨てるのももったいない。
「……まあ、何とかなるだろ」
俺はそう呟くと、持ってきていた袋を広げた。
実は、ギルドで薬草の見本を見せてもらったあと、採取した薬草を入れるための袋を借りていたのだ。
薬草そのものは貸してもらえなかったが、こちらは快く貸し出してくれた。
何でも、冒険者が魔物から採取した素材などを運ぶ際にも使われる袋らしい。
広げてみると、かなりの大きさがある。
「……これなら全部入りそうだな」
俺は足元の回復草をまとめて袋へ詰め込んでいった。
最後の1本を入れて口を縛ってみると、まだ少し余裕が残っている。
「持ってきておいて正解だったな」
袋を担いでみると、それなりの重さはあったが、今の身体なら問題なく運べそうだ。
「……よし。とりあえず今日は帰るか」
俺は周囲に入れ忘れた回復草がないことを確認し、来た道を引き返し始めた。




