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勇者、辞めます。 ~何度死んでも蘇る呪いなんていらないので、辺境でスローライフを始めます~  作者: 山ノ上商会


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第12話 始めてのクエスト


街の門までやって来たものの、俺はそこで足を止めた。


「……そういえば、どこに行けばいいんだ?」


薬草を採取すると決めたのはいいが、肝心の採取場所を聞き忘れていた。


街の外に生えていることは間違いないだろうが、どこにでも生えているとは限らない。


かといって、今からギルドへ戻るのも面倒だ。


どうしたものかと辺りを見回していると、門の脇に立つ男と目が合った。


「あれ? おぉ、昨日の兄ちゃんか」


「あ、どうも」


声をかけてきたのは、昨日俺の犯罪歴を確認してくれた門番だった。


どうやら顔を覚えていてくれたらしい。


「今日はどうした? また街の外へ出るのか?」


「はい。あと、ギルドカードもちゃんと取りました」


俺は懐からカードを取り出し、軽く掲げてみせた。


「おう、それはよかった。出るときはいいが、帰りはちゃんと見せてくれよ」


「わかりました」


門番は満足そうに頷いた。


せっかくなので、薬草の採取場所についても聞いてみることにする。


「それで、ひとつ聞きたいことがあるんですけど」


「ん? なんだ?」


「薬草を採りに行こうと思っているんですが、どこに行けばいいかご存じですか?」


「ああ、薬草か。それなら……」


門番は街の外へ視線を向けると、少し離れた場所を指さした。


「向こうに森が見えるだろ? あの中なら生えているはずだぞ」


「あの森ですか?」


指さされた先には、昨日俺がスキルを試していた森が広がっていた。


どうやら、わざわざ離れた場所まで行かなくても済みそうだ。


「ただ、入口の辺りにはあんまり残っていないだろうな。薬草採取に来る連中が、真っ先に探す場所だからな」


「なるほど……」


「だからって、あんまり奥へ行きすぎるんじゃないぞ。また魔物に襲われたら大変だからな」


門番はそう言うと、少し心配そうに俺を見た。


そういえば、昨日は魔物に襲われて持ち物をなくしたという話をしていたんだった。


「はい。気をつけます」


「おう。無理せず帰ってこいよ」


「ありがとうございます」


俺は門番に礼を言い、街の外へと歩き出した。


しばらく進むと、昨日も足を踏み入れた森が見えてくる。


木々の間から差し込む朝日が地面を照らし、風が吹くたびに葉の擦れる音が聞こえてきた。


昨日は人に見つからないことばかり考えていたが、こうして改めて眺めると、なかなか自然豊かな場所だ。


「さて、回復草を探すか」


俺は森の中へ入り、さっそく足元へ視線を落とした。


目当ては、ギルドで見せてもらった丸い葉を持つ植物だ。


……丸い葉、丸い葉。


そう呟きながら、地面に生えている草をひとつずつ確認していく。


しかし、これが思っていた以上に大変だった。


森の地面には、大小さまざまな草が隙間なく生えている。


細長い葉をつけたものもあれば、丸みを帯びた葉を持つものもあり、似たような植物がいくつも混じっていた。


少し離れた場所から見れば、どれも同じような緑色の塊にしか見えない。


そのため、気になる草を見つけるたびにしゃがみ込み、葉の形や茎の太さを確認しなければならなかった。


「……違うな」


ひとつ確認しては立ち上がり、数歩進んでまたしゃがむ。


そんな作業を何度も繰り返す。


最初のうちは、それなりに楽しかった。


何しろ、異世界で初めて受ける仕事なのだ。


ゲームでいうところの採取クエストを、実際にやっているようなものだからな。


だが、その気持ちも次第に薄れていく。


「……これも違うか」


俺は手に取っていた草を放し、ゆっくりと立ち上がった。


身体そのものは疲れていないのだが、似たような草を見分け続ける作業は、想像以上に集中力を使う。


「……もう結構探したよな?」


森に入ってから、そろそろ1時間くらい経っただろうか。


それなのに、回復草はまだ1本も見つかっていなかった。


探し方が悪いのか。


それとも、そもそもこの辺りには生えていないのか。


「……生えやすい場所の特徴も聞いておくんだったな」


今さら後悔しても遅い。


門番の話では、入口付近の薬草は採り尽くされている可能性が高いらしいし、もう少し奥へ進んでみた方がいいだろう。


俺は周囲の木々を確認しながら、森の奥へと歩き始めた。


もちろん、帰り道がわからなくならないよう、進んできた方向は意識しておく。


途中、倒木に腰を下ろして休憩を挟みながら、根気強く地面を探し続けた。


木の根元。


低い茂みの陰。


日差しが差し込む少し開けた場所。


目につくところを片っ端から確認していく。


それでも、なかなか見つからない。


「……これ、本当に生えてるのか?」


思わず疑いたくなってきた頃だった。


少し大きな木の根元に、見覚えのある葉が生えていることに気づいた。


「……ん?」


俺はしゃがみ込み、その植物をじっと見つめた。


丸みを帯びた葉。


少し太めの茎。


葉のつき方も、ギルドで見たものによく似ている。


「……これじゃないか?」


慎重に根元へ手を伸ばし、土を軽く払ってから引き抜く。


そして、目の高さまで持ち上げて確認した。


「……これだ!」


思わず声が弾んだ。


間違いない。


俺の手には、ギルドで見せてもらった回復草と瓜二つの植物が握られていた。


「やっと見つけた……!」


森に入ってから、すでに3時間ほど経っている。


まさか、たった1本の薬草を見つけるのに、ここまで苦労するとは思わなかった。


俺はしばらく手の中の回復草を眺め、達成感に浸っていた。


だが、すぐに現実へと引き戻される。


「……これをあと4本か」


薬草採取の依頼は、基本的に5本で1セット。


回復草の場合、1セットにつき銅貨10枚で買い取ってもらえる。


つまり、3時間かけてようやく見つけたこの1本は、銅貨2枚分の価値しかないということだ。


宿代は一泊銅貨50枚。


単純に計算すれば、一泊分を稼ぐだけでも25本の回復草が必要になる。


「……これはまずいな」


思わず顔をしかめた。


慣れていないせいもあるのだろうが、この調子では日が暮れるまでに5本見つけられるかどうかも怪しい。


ましてや、25本なんて到底無理だ。


「……参ったな」


俺は回復草を手にしたまま、周囲を見渡した。


足元には、相変わらず大量の雑草が生い茂っている。


これだけ草が生えているのに、どうして目当ての回復草だけが見つからないのだろう。


「……ここにある雑草が全部回復草だったらいいんだけどな」


そんなことを呟いた、そのときだった。


「……ん?」


ふと、ある考えが頭をよぎった。


俺は手に持った回復草へ視線を落とし、それから足元の雑草を見つめた。


……待てよ。


別に、最初から回復草が生えている必要なんてないんじゃないか?


俺には《変化》がある。


金属製の防具を手鏡に変えたり、聖剣の姿を変えたりできたのだから、植物の形を変えることだってできるはずだ。


それに、今は本物の回復草が手元にある。


見た目を想像する必要すらない。


「……そうか。回復草がなければ、作ればいいのか」


俺は近くに生えていた雑草を1本引き抜いた。


左手には、苦労して見つけた回復草。


右手には、何の変哲もない雑草。


俺は2つを見比べながら、左手の回復草をじっくりと観察した。


丸い葉の形。


茎の太さ。


葉が生えている位置や、全体の大きさ。


できるだけ細部まで頭に思い描き、右手の雑草が同じ姿になるよう意識を集中させる。


そして、口を開いた。


「《変化》」


その瞬間、右手に握っていた雑草が淡い光に包まれた。


光は植物全体へと広がり、数秒ほど輝いたあと、ゆっくりと収まっていく。


「……おお」


俺は思わず声を漏らした。


右手に握られていたのは、先ほどまでの雑草ではなかった。


丸みを帯びた葉に、少し太めの茎。


左手に持っている回復草と、ほとんど同じ姿をした植物だ。


「……できた」


俺は両手の植物を並べ、何度も見比べた。


少なくとも、見た目に関してはほとんど区別がつかない。


「……マジか」


3時間かけてようやく見つけた回復草を、ほんの数秒で作れてしまった。


俺は右手の植物を見つめながら、思わず口元を緩めた。


……これ、本当に回復草になってるのか?


見た目が同じだからといって、薬草としての効果まで同じとは限らない。


だが、もしこれが本物の回復草として使えるのなら。


「……もしかして、金の心配しなくてよくなるんじゃないか?」


俺は期待を込めて、両手の回復草を見つめた。



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