12話 あの方へ
「気づいていられたのですね。試すような真似をして、申し訳ございません。」
「構いません。俺の有用性を図るには、この方法が最適ですし。最も、俺はまだあなたが何をしたいのか、までは知らないのですが。」
さて、素直に話してくれるものかな。
「そうですね。私がやろうとしていることは、私以外に誰も知りませんから。……私の話を聞くというのなら、お約束して欲しいことがあります。この状況で図々しいのはわかっていますが。」
「他言無用で、ということでしょう。約束します、と言いたいところですが、万が一、俺の周辺の人に影響が出るようなら、守るのは難しいですね。」
「ええ、リュシオン様の立場上、難しいということは存じております。それだけでも、十分です。」
シュレガートは、変わらず、まっすぐに俺を見つめています。
「隣国への視察では、基本的に私たちはあちらの国の王城に滞在することになるのですが、私の目的は王城の書庫にあります。」
「王城の書庫、ですか。わざわざ隣国でしらべるとなると、かなり小さな事案、または国民の名簿ですか?」
「ええ、後者ですね。ネティアさん……本名かどうかは確かではないですが。」
本名かわからない、か。
なんか色々複雑そうになってきたな。
「本当に隣国の方なのか、確証はできていませんし、幼い頃の記憶なので、確証は持てませんが、今考えると隣国の話し方に近いような気がしていて。この国の名簿を調べてみても、見つかりませんでしたし。本人が既に亡くなっているため、これ以上手がかりが見つからず……」
「なるほど。……その方というのは、もしかして。」
「本当に、驚くほど頭が切れる方なのですね。ええ、ネティアさんは、サフィーリアの実の母です。」
やっぱり。貴族の子供が関われる、素性の知れない人間なんて、ほとんどいないはずだ。
本来なら、愛人という立場でもそんなことは無いはずだけど。
「父は少々頭の足りない人でして、街中で美しい女性を見かけたからと、強引に連れ帰ってくるような人間なのです。」
通りで。
「……ご苦労様です。」
「実の親で、育ててもらった恩はありますが、貴族の権力を振りかざすような人間を、私は好きになれなくて。人として、大切なことを教えてくれたのは、いつもネティアさんでした。両親の目を盗んで、サフィーリアと三人で過ごす時間が、私にとって、とても大切なものでした。」
「だから、サフィーリア嬢と仲が良いのですね。」
「ええ。だからこそ、探したいのです。ネティアさんとサフィーリアが、本来いるべきだった場所を。……そして、サフィーリアの、本当の親を。」
「本当の、親?……待ってください。ということは、サフィーリア嬢は……」
「ええ、本当は私とも、父とも、血の繋がりはありません。ネティアさんが、最期に私に教えてくれました。そして、サフィーリアを守ってほしいと。」
だから、本来いるべき場所……
「サフィーリアの本来の父親については、ほとんど聞くことはできなかったのですが、サフィーリアの白い髪は、その方の遺伝なのだと、言っていました。」
「白い髪。……たしかに、この国では見ない色ですね。」
「隣国では、多い色と聞いたので、それだけで判断するのは難しいですが。」
「……そうですね。」
特定する、となると、もうすこしヒントが必要になりそうだな。
「リュシオン様、よければご協力していただけませんか。どうしても、ネティアさんのことも、サフィーリアの本当の父親のことも、知りたいのです。」
「……ええ。ここまで聞いて、放っておくこともできませんし。」
「本当に、ありがとうございます。」
シュレガートは、深々と頭を下げ、去っていった。
……サフィーは、本当は隣国の人だったんだ。
本来なら、出会うはずもなかった。
けれど、不運と、偶然が重なったせいで、出会った。
……本当の父が見つかったら、サフィーは隣国に行くのかな。
もしかしたら、ネティアさんの家族も、サフィーの居場所になってくれるかもしれない。
そうなれば、本当はいいよな。
人の目を気にせず、家族と一緒にいられるんだから。
ただ、そうなると。
……すこし、寂しいな。




