祝勝会はいつもの食堂で
* ネイト=アイゼン *
「よーし、全員いるなー?」
その日の夜、黒鋼寮の食堂には多くの黒鋼生が集まっていた。
2年生男子はもちろん、女子寮の生徒たちも。
テーブルにはずらりと料理が並び、湯気を立てている。いつもの狩猟肉だけではなく、ちゃんと購入したソーセージや牧畜の牛肉なども。ローストはもちろん、衣をつけてフライにしたものや、骨付き肉も並んでいる。食堂のおばちゃんたちが腕によりをかけたことは明らかだった。
1年生が無事に全員退学せずに済んだということで——祝勝会だ。
ソーマが、寮の予算を都合して開いてくれたのだ。
「じゃ、腹も減ってるだろうし、始めようか——乾杯!」
ソーマの声とともに、みんながコップに注がれたジュースで乾杯する。
表情はみんな柔らかい。
ひとつ、いちばん最初のほんとうに小さな山だけれど、それでもひとつ、試練を乗り越えたのだという手応えがあった。
「いやー、良かったね、ネイト。誰も辞めずに済んで!」
ソーマがネイトの向かいに座る。
「で、でも……まだ5位ですし……」
「いやいや、1教科目がダメダメだったのに最下位じゃなかったんだからたいしたもんだよ」
「それよりソーマ先輩たちのほうがすごいです」
ネイトは前のめりになって言った。
2年生の結果も聞いていたのだが、黒鋼クラスは2位だった。1位は、白騎クラスである。そしてソーマは変わらず個人1位で、上位には黒鋼クラスのメンバーの名前がいくつも入っている。
「いや〜、今回は勝てると思ったんだけどな〜。さすがキールくんだよ。あの状況の白騎クラスをまとめあげるんだから……」
「あの状況?」
「ん? あ〜、1年生は白騎クラスが3位だったっけ。それに黄槍クラスが6位……まあ、その原因みたいなものだよ」
「?」
原因? 原因があるのだろうか。
エルフリーデが疲れたような顔をしていたのもそのせい?
「さて、それはそうと……次はクラス対抗戦、武技になるけど、自信のほどは?」
「い、いや、さすがに武技はちょっと……」
「あります」
横からずいっと顔を突っ込んできたのはヴィリーだった。
「ネイト。お前はさっき自信満々で『我々は強い』とイルゼ様に啖呵を切っていたではないか。あの自信はどこにいった」
「え〜? 意外とやるじゃん、ネイト」
「あ、あれは違うんです! ものの勢いというか……」
「イルゼってあれか、ドラッヘンブルク家の娘だっけ。『飛竜』の供給をしている。ゴリゴリの武闘派だぞ、あそこ。勢いとは言えよく言ったもんだなぁ」
「うぅ」
ソーマにいじられてネイトが涙目になると、
「あははは。だけど、お前みたいな特殊な戦い方はともかく、ゴドバルトやリシャール、ケルヴィン、それにミレッタもかなり腕前は上がっているぞ。少なくともどのクラスと戦ってもイイ線行けるんじゃないかな」
「——ほんとうですか」
話を聞きつけたゴドバルトたちがやってくると途端に周囲の人口密度が上がる。
「そうだろ、トッチョ、スヴェン」
「あ? まぁな、1年の今時期にこれだけ槍を振れるのはいいんじゃねぇかな。まあ、教えてる俺がすごいってわけだけど!」
「……トッチョのバカが伝染しなくてよかったな」
スヴェンがぼそりと言うと「お? やんのか?」「今は食事中だ」といつものやりとりが始まる。
1年はと言うと、珍しくトッチョに褒められてテンションが上がって、「明日から練習量増やそうかな」なんて言い出している。
「さて、ともあれ統一テストを乗り切ったみんなに——プレゼントがあります!」
ソーマが立ち上がった。
「プレゼント?」
ネイトが首をかしげていると、奥の部屋からリットやオリザといった2年生たちがぞろぞろと出てくる——なにかを抱えて。
そのなかでも黒くて長い棒——槍を見たときに、ネイトはピンときた。
「俺たち2年生の武器と同じ、鍛冶工房で作ってもらった模擬戦用の武器だ!」
ソーマが剣の1本を手に取って鞘から抜くと、黒光りする刀身が現れる。
おおおおおお——と1年生たちの歓声が上がる。
「『穴蔵鉄血鍛冶工房 花の都なんざカンケーねえ! 俺たちゃ汗と血を流し鉄を打つ王都支店』謹製の品だぞ!」
おおおおぉぉ……?
今なんて? って感じの顔をみんながするが、ソーマは無視して説明を続ける。
「剣と槍、弓の3パターンしかないが、是非使ってくれ。使って使って使いつぶすくらいまでやっていいぞ〜。ちなみに、刃は引いてあるけどエクストラスキル使ったら殺傷能力高いから注意な! クマなら倒せるぞ!」
ソーマが冗談を言ったと思ったのだろう、1年生たちは「あははは」と笑いながら、うれしそうに武器を受け取り始めた。
「……ん、ネイトはこれな」
「あ、ありがとうございます!」
【投擲】スキルを伸ばしているネイトだけれど、剣も必要なのでソーマから片手剣を受け取った。
「あの、ソーマ先輩……さっきのクマを倒せるって話、冗談ですよね?」
「いやー、冗談ではなかったんだけどな……」
「え!?」
「まあ、かなりしっかり作り込まれた品だから、使い込んでくれよな」
「は、はい」
ずっしりと重い剣の感覚。
ネイトは、重みだけでなく、ソーマたちの優しさを感じた。
模擬剣であったとしても鍛冶工房に頼んだのなら値段は張るはずだ。それにもかかわらず25人全員分を用意してくれた——誰ひとり欠けることなく、統一テストを乗り切ると信じて全員分を用意してくれていたのだ。
その優しさに胸がじーんとする。
「へへっ、ちなみに俺たちも新調した」
ソーマが自分の剣を見せてくれる。それは鞘が湾曲した、ネイトたちの剣とは違う造りだった。
「そう言えばソーマ先輩は直剣じゃないんですね?」
「おう。まあ、ロイヤルスクールで剣術を学ぶんなら、直剣がいいと思うけどね。刀の流派がないから、誰も教えてくれないとどうしても我流になっちゃうんだよ……」
ソーマはぶつぶつ言っているが、
「あの、先輩って我流でやってるんですか……」
「え? そうだよ」
こともなげにソーマが答えるが、それを聞いた1年生の面々がざわついた。
「——我流ってマジかよ。ていうか、あり得るのか?」
「——剣を誰にも教わらないで強くなんてなれるの?」
「——そもそもスキルレベルが上がらないよな」
それを聞いたオリザとリットが、
「よく考えたらこいつ我流でデタラメやってるんだったわ」
「ソーマの異常性は理解しているつもりだったけど、改めて気づかされる異常性がまだあるとは思わなかったな」
呆れた顔をしている。
「おい、勝手に人を異常扱いするな! あとネイト、冷静な突っ込みは禁止!」
「え、えぇ!? 僕が悪いんでぇ!?」
「そうだ、お前が悪い!」
ネイトがひえぇぇと声を上げ、ゴドバルトは黒い槍を惚れ惚れと見つめ、リシャールは「黒い剣も悪くねぇな」なんてニヤニヤして、ミレッタは「……ふぅん、ネイトとおそろいじゃん」なんてつぶやいて。
ヴィリーもダニーも、他のクラスメイトも大満足の夜となった——。





