そして順位が貼り出される
* ネイト=アイゼン *
・新学年統一テスト クラス別順位・1年生・
1位 蒼竜クラス
2位 緋剣クラス
3位 白騎クラス
4位 碧盾クラス
5位 黒鋼クラス
6位 黄槍クラス
「5位……」
ぽつり、とネイトがつぶやいた直後、
「ごっ、5位……5位だ! やったぞ! 最下位じゃない!」
「うおおおおっ! やったー!」
「5位よ!」
ゴドバルトが、リシャールが、ミレッタが叫び、
「……やったな、ネイト」
「ヴィリー」
「危なかったねぇ。でも、最下位じゃないよ」
「ダニー」
ふたりに左右から肩を叩かれ、ネイトは目の前がにじんで見えた。あれ、と思っていると涙がどんどんあふれてこぼれていく。
そうだ、これで誰も辞めなくて済む。黒鋼クラス1年は誰も辞めないで済むのだ。
「わはははっ、クラス代表ともあろう者が、そんな簡単に涙を見せおって」
「ゴドバルトさんも泣きそうじゃないっすか! 顔真っ赤っすよ!」
「う、うるさい、ケルヴィン」
「ぐほっ」
ふだんは言葉少ないゴドバルトがケルヴィンの頭を太い腕で抱え込みながらわめいている。リシャールなんて仲間と円陣を組んで「えっほえっほ」と謎の声を発しながらぐるぐる回っている。ミレッタは女の子らしくクラスの女子たちときゃあきゃあ言って喜んでいる。
「あははっ、あはははは!」
なんだこれ。今までこんなところを見せてくれたことはなかったのに。
そんなカオスな状況にネイトは笑ってしまう。
「——こんなの、あり得ないわ!!」
そこへ、鋭い声が聞こえた。
黄槍クラスのモモティだ。
「おかしいでしょう!? なんで底辺の黒鋼クラスが5位で、黄槍が6位なのよ!! ズルをしたに決まっているわ!」
彼女が叫ぶと、他のクラスの生徒たちもざわざわし始める。
「——確かに。テストの日って正騎士の方々が来ていたよな? なにかあったんじゃないか?」
「——黒鋼クラスの代わりに黄槍クラスが6位はおかしいよ」
「——見ろよあの喜びよう。最下位じゃないだけであんなに喜ぶのも変だよな」
我が意を得たりとばかりにモモティはうなずくと、
「そうよ! 黒鋼クラスが不正を行ったことが証明されれば順位なんてすぐに入れ替わるわ。学園に不正を糺してもらうよう申告して——」
「——およしなさい」
そう、口を挟んだのはエルフリーデだった。
「な……なんですって? 止めろと言ったのはあなた?」
「わたくしよ。見なさい、個人順位を。これを見ても不正だのなんだのと叫ぶのかしら」
・新学年統一テスト クラス別順位・1年生・
1位 エルフリーデ=ソーディア=ヴィルカントベルク(白騎)
2位 イルゼ=アクシア=ドラッヘンブルク(蒼竜)
:
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5位 ヴィリー=シールディア=モースブルク(黒鋼)
:
:
1位のエルフリーデはさすがの一言だが、2位にイルゼがつけており、3位と4位も蒼竜クラスだった。
「えっ、ヴィリー? ヴィリーさん? 5位? 5位じゃないですか!?」
「う、うむ……がんばっていたら気づけば5位であった」
「すごーい!」
ネイトが叫ぶと、「うおおおおお」とリシャールたちがやってきてヴィリーを円陣に巻き込んで「えっほえっほ」と謎のかけ声を始めた。大丈夫かな? まあいいか、放っておこう。
改めて上位を見ると、蒼竜と緋剣が強く、ちらほらと白騎と黒鋼が入り込んでいる。ダニーも30位だし、ミレッタグループじゃない女子たちも50位内に入っている。逆にネイトは99位とかろうじて2ケタに入っていて、ゴドバルトたちは真ん中のちょっと下に固まっていた。
黄槍クラスは、最上位のモモティですら16位で、下位へと散らばっていた。
「つ、つまりあなたは……個人順位がクラス順位を表しているとおっしゃるのね……!」
「ええ。それ以外に言いようがないわ」
「つまり、白騎クラスは3位に甘んじるということね!」
しん、と中庭が静まり返る。
そうだ——このロイヤルスクールの頂点にして、もっとも高貴な血が集まる白騎クラスが、3位という結果なのだ。
「三大公爵家とは言え、やはり新興公爵家は少々家格が下がるということかしら?」
エルフリーデはヴィルカントベルク公爵家であり、キルトフリューグのいるラーゲンベルク家、伝統を重んじてクラウンザード第1王子に娘をべったりつけているクラストベルク家と並ぶ三大公爵家のひとつである。
だが、歴史の浅さは否めず、王位継承争いにおいても一歩引いていることから他の貴族からは「日和見主義」と揶揄されることもあった。
「……モモティ様。そんなことよりあなたは、黄槍クラス全員の学力アップを考えたほうがよろしいわ」
「ッ!」
黄槍はクラス順位6位である。「6位に吠えられてもなんとも思わない」と言われたに等しい。
モモティは顔を真っ赤にすると、
「次のクラス対抗戦では覚えてらっしゃい!」
捨て台詞を吐いて去っていった。
ふぅ、とエルフリーデはため息を吐いてから、その視線をネイトへと向けた。
「……ネイト様」
「え……え?」
今、僕に話しかけた?
「あの順位はなんですか」
「え……え? あ、え?」
まさか、僕に話しかけるわけないよね? 公爵家の御方が?
わけがわからないでいると、エミールがイラ立った顔で、
「おい、黒鋼クラスのメガネ。お前だよ。エルフリーデ様が話しかけてくださっているだろうが」
「あ、やっぱり僕に聞いてました? え、えっと……順位は、順位です。しょうがないです」
答えると、エルフリーデはひっそりと眉をひそめた。
「……つまり、それが実力だと?」
「はい」
「そうですか。……買いかぶりのようでしたね」
するとエルフリーデは白騎クラスを引き連れて去って行った。
「……ねえ、良かったの?」
ダニーがひっそりと聞いてくる。
「なにが?」
「だって、ネイトは最初のテストちゃんと受けてなかったじゃん」
「うん。でも、今の黒鋼クラスが5位っていうのは実力相当だと思ったんだよね。だから、順位は順位だよ」
「え?」
「え?」
「え、だって、今のってクラスじゃなくて……」
「?」
ダニーがもごもご言っている。「あれって……ネイトの個人順位のことを聞いてたんじゃ……」というのを聞き流してしまったのは、ネイトの視線がひとりの女子に吸い寄せられたからだった。
水色の髪の少女、イルゼ。
個人順位2位、クラス順位1位。
そのどちらも立派だ。
そんなイルゼが気づけばすぐ目の前にいたのだ。
「ねえ」
「は、はい!」
まさかイルゼからも話しかけられるとは思わず、背筋が伸びる。
おかしい。
エルフリーデに話しかけられてもこんなに緊張しなかったのに。
なんだか胸がどぎまぎして、体温が上がる。
「……黒鋼クラスは強いの?」
「そ、それは武技のことを聞いてる?」
「ん」
「強いよ」
間髪入れずに答えたネイトに、イルゼは目を瞬かせる。
「ほんとうに?」
「うん」
「……そう」
それだけ聞くとイルゼはきびすを返して去っていこうとする——その背中にネイトは言った。
「イルゼさん、クラス順位1位おめでとう!」
ぴたり、と足を止めた彼女だったが、振り返りもせずにまた歩き出した。
「……なにあの女。クッソ感じ悪いんだけど。自分のことにしか興味がないって感じ」
こちらもいつの間にかネイトの横に来ていたミレッタが言う。
「自分のことにしか……興味がない?」
「だってそうでしょ。ああやってネイトに話しかけてきたのってなんでだと思う?」
「え!? あ、その、それは……」
入学式のことを覚えていてくれたのかな、とかネイトは思っていたのだが、
「あの女より順位が上のエルフリーデ様が、自分じゃなくてネイトにだけ声を掛けたからよ。自分を無視してネイトにだけ話を聞いてるんだから、腹が立ったんでしょ」
「え、えぇ? そうなの……?」
入学式のことを覚えていてくれたんじゃないの……?
違うのぉ……?
「そうよ! もしかして、自分に気があるとか思っちゃったの?」
「!? そ、そそそそんなことはないよ! さすがに! さすがになぁ〜!」
「ふーん……でも変な夢を見ないことよ。あのイルゼって女も高位貴族だからね。平民なんて区別ついてないんだから」
「そ、そうかな……イルゼさんはそんなことないと思うけど……」
「そんなことあるわよ!」
「え、じゃあ、ミレッタさんも僕のこと区別ついてないの?」
「ついてるわよ! バカ!」
「うぐっ」
肘打ちを食らってネイトがうめいていると、ミレッタは離れていった。
「バカだなぁ、ネイト」
「うむ。バカだ」
いつしかやってきていたリシャールとヴィリーに左右からぽんぽんと肩を叩かれる。
「貴族の女ってのは難しいんだよ。自分を上げて他人を下げなきゃ気が済まない。『君はいつだってすばらしい』って言ってりゃいいんだ」
「え、えぇ……」
なんだか納得いかないネイトだったが——とにもかくにも、黒鋼クラスは5位という結果になり、退学者をひとりも出さずに済んだのだった。





