呼び出された俺と連れて行かれた会議室と
* ソーンマルクス=レック *
学年主任のトーガン先生が俺をじっと見ている。
「え!? 時間ないっす! なあ、トッチョ、オリザちゃん! このあと重要な用事が……」
「黒鋼クラスのふたりなら、私が声を掛けた時点で走り去ったよ」
ほんとだ、いねぇ!
アイツらすっかり危険を回避できるようになりやがって!
「まったく……廊下を走るなど騎士らしくもない。それに君もだ。目上の者に呼ばれたらすぐに用件を聞く体勢を取りなさい」
「……うっす」
「こっちへ来なさい」
「ま、また学園長っすか……?」
聞くと、トーガン先生はやれやれとため息を吐いた。
「学園長はお忙しいのだ。君のような者に何度も時間を割くことはない」
「はあ」
そのお忙しい学園長に2回も呼び出されてるんだよなぁ……。1度目は俺も知らなかったころのキールくんのパパといっしょに。2度目は白騎獣騎士団のラスティエル様といっしょに。
学園長じゃないならなんなんだろ?
トーガン先生はちょっと離れた会議室へと入った——と、そこにはひとりの女性が座って、うなだれていた。
この世界では珍しい女性のショートヘアだ。30絡みという年齢だろうか、疲労が色濃く漂っている。入ってきたトーガン先生と俺に向けた視線はきりっとしていたが、迫力はない。
「これは……トーガン先生」
「1年生の学年主任のニアハ先生だ。ニアハ先生、これが2年のソーンマルクス君です」
ついに「これ」扱いですよ。
「あなたが……」
ニアハ先生がふらりと立ち上がる。
う〜む、やはり大人の女性はいいな。こっちにきて子どもの身体になってしまったけど、心は順調に年取ってるからなあ。13歳や14歳の女子しか回りにいないので俺には大人の女性成分が足りない!
「あなたが騒動の原因なんですね」
「へ?」
え、いや、なに、騒動って?
なんかめちゃめちゃ目が据わってるんですけども!?
「なんで念願の学年主任になって早々、最初のテストでこんなもめ事を起こすんですかぁ!?」
「うわっ、ちょ、ちょちょっ、ちょっと!?」
距離を詰められて両肩をつかまれてぶんぶん振られる。あ〜た〜ま〜を〜揺〜す〜る〜な〜。
「いや、なんのことかワケわかんないっすよ! トーガン先生!」
「どうせお前が悪いんだろう」
「トーガン先生!?」
「入学早々学園長に呼び出され、黒鋼クラスらしからぬ高得点を叩き出し、各クラスを引っかき回し、王都でも第1王子殿下と第3王子殿下の間に割って入ったそうではないか」
うーん、確かにそれは全部俺の話ですけれども。
「いや、その前に今なんの問題が起きてるのかがわかんないっす。むしろ問題が起きそうなのを未然に防いだんですよ?」
ニセモノの過去問だけだったら生徒間の問題だけれど、モルツブラ先生、あれはきっと答案用紙に手を加えようとしていた。そんなことやったら大問題だよ。
「問題は今まさに起きている最中だ」
「えぇ……?」
トーガン先生が会議室の窓の前へと移動し、外を指差した。
俺もそちらに行くと——見下ろした学園の中庭に数十人の人々がいた。
「げっ……」
青く塗られた鎧を身に纏った騎士が10人ほど——これ、蒼竜撃騎士団か? 5人ほどの集団は黒い鎧を身につけている。蒼竜撃騎士団が身なりの整った正規騎士だとしたら、黒いほうは、装備もまちまちで、目つきも悪い、ツバまで吐いてる。
ってことはあれが黒鋼士騎士団?
ひょえ〜。
ガラ悪ッ! 想像の3倍、ガラが悪い!
で、ふたつの集団の間に挟まっているのが白い鎧を着た男と、緋色のスカートを穿いた女性。
うーん、見たことがあるふたり。
ラスティエル様と、ノエリーネ様だ。
ラスティエル様は三大公爵家のひとつ、ヴィルカントベルク家の人で、第1王子にも第3王子にもついていない中立って言われてる。ノエリーネ様は緋剣姫騎士団の副団長だったはず。なんかしらんけどいきなり戦いを吹っかけられたんだよな……クッソ寒い冬の夜に。なので、良い印象はまったくないです。はい。
「……君のせいだろう?」
「んなわけないでしょ! 俺がどうやって騎士団動かすんですか!」
「どうかな」
トーガン先生が「疑わしい」って感じで見てくるのがしんどい。いつの間に俺の信用は地に落ちてしまったのか……。
「で、あの騎士たちはあそこでなにをやってるんです?」
俺が聞くと、ニアハ先生が深々とため息を吐いた。
「……今年の新入生のテストで不正が行われるかもしれない、という訴えがあり……黒鋼士騎士団が派遣されました。それに対抗するかのように蒼竜撃騎士団がやってきて、その2つの騎士団の間をラスティエル様とノエリーネ様に取り持っていただいています。……はぁ、ラスティエル様ってカッコイイですよね」
「先生、年齢考えてくださいよ。10歳くらい違うでしょ」
「え!? 今私、口に出してましたか!?」
この人、ちょっと追い詰められるとポンコツになるタイプだ。割と残念な人だな。
「大体年齢って! 生徒の君が、学年主任の私にそんなことを言ってはいけません!」
「もしテストで問題が起きていたら、先生は学年主任じゃなくなっちゃうんでは?」
「そうなんですよぉ〜〜!!」
今度はおいおいと泣き出した。情緒大丈夫か?
「ソーンマルクス君、教師をからかうとは良い度胸をしているではないか」
「あ、す、すみません」
トーガン先生が俺の背後でにらんでくる。
「それはそうとラスティエル様とノエリーネ様はなにしに来たんですか?」
「……君が呼んだのではないかね? 少なくともラスティエル様は」
あ〜、そうか、そういうことか。
トーガン先生は俺がラスティエル様の知り合いだってことは知ってるんだもんな。
ところがどっこい。こちとらどこに出しても恥ずかしくない平民である! 三大公爵家のラスティエル様への連絡手段なんて持ってるわけがないんである!
「違いますって。俺が連絡できる相手じゃないでしょ」
「では、誰が呼んだというのだね? そもそもなんのために?」
「それは……」
言うべきか、言わざるべきか迷ったけど、俺はこのふたりには話してみることにした。
ニセモノの過去問、テストへのボイコット、それにモルツブラ先生の動き。
ふたりとも、そんなことがあったのかと目を見開いている。これはほんとうに知らなかったらしい——っていうか、黄槍クラスや蒼竜クラス、碧盾クラスの担任は知ってるんじゃないのかな。少なくともゴドバルトたちは蒼竜クラスの訓練場にたむろしてたはずだし。
で、呼んでくれたのはたぶんキールくんだ。これは言わなくてもいいだろうけどね。ニセモノの過去問について知ったキールくんが大急ぎで連絡してくれたんじゃないかなって気がしている。他にもなにか不正が起きるかもしれない、と。
キールくん、さすがすぎる。
「モルツブラ先生が答案用紙を改ざん……? そんなことは……」
「俺が確認、というか、阻止できたのは3教科目だけです。だからもしかしたら1教科目と2教科目の答案用紙にはなにかされてるかもしれない」
「……それは後ほど確認しよう。いいですね、ニアハ先生」
トーガン先生に言われ、ニアハ先生がうんうんとうなずいた。
「だがそれと、騎士団とはなんの関係が?」
「示威行為でしょ。第1王子殿下らしいやり口っすよ。テストに合わせて騎士団がロイヤルスクールに来ていたら、否が応でも目立つ。そのテストで高得点を取ったクラスはさらに印象に残る。それゆえに今回はどうしてもテストで勝ちたかった……黒鋼クラスが躍進した去年のようなことが起きないよう、念には念をいれてきた」
「ではラスティエル様とノエリーネ様は?」
「第1王子殿下の動きを知ったから第3王子殿下が牽制のために動いたんじゃないですかね」
適当言っておく。
ノエリーネ様は知らんし、知りたくもない。どうせラスティエル様についてきただけじゃないっすかね?(適当)
「黒鋼士騎士団はどうなる?」
「そんな、あれこれわかんないっすよ。最近、第1王子殿下は黒鋼士騎士団に肩入れしてるんでしょう? 負け犬の象徴として送り込んだんじゃないですか?」
「む……」
俺の口からはっきりと「負け犬」なんて言葉が出てきたからか、トーガン先生が黙りこくってしまった。
「いいっすか? 答案用紙の確認、お願いしますよ。それさえあれば、黒鋼クラスは大丈夫」
「だ、だが、君の話を聞くに、見当違いの勉強をして、しかも1教科目を半分以上受けられなかったのだろう?」
「大丈夫」
負け犬、と俺は言ったよ。
だけどそれは今の騎士団が、ってだけだ。
俺が卒業して——その後は、負け犬なんかにはならない。
「1年の黒鋼クラスは最下位なんて絶対に取りませんから。不動の学年トップの俺が、保証します」





