寮長はとっても手強くて?
* ネイト=アイゼン *
初日は惨憺たる結果だった。
1年生25人で、獲れたのは鳥が2羽(しかも小型)と、ウサギが2羽。
「…………」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「…………」
黒鋼寮の男子ロビーはひどい有様だった。
10キロ走って、森に入って、また10キロ走って戻った。「風呂に入れ! 入らんとパンもナシだぞ!」というトッチョにどやされ身体を洗ったものの、風呂の中で居眠りする者もいたほど。夕食に出されたのは肉が少々。これを男子全員で分けることなどできやしない。
ちなみに女子は、オリザがやってきて「女子寮は女子寮のルールがあるから」なんて言って連れ去られていったのでここにはいない。
獣を落とせた生徒は「うめぇ!」と叫びながら肉を食っていたが、ほとんどの生徒はパンと少々のチーズだけ。パンを食えば腹はふくらむが、心は痩せたままで徒労感に押し潰されそうになる。結果、食後のロビーで1年生たちは動けなくなっていた。
「ただいま〜……っと、なんだこれ」
言葉の最後は半笑いだった。
遅い時間に帰ってきたのは寮長のソーマである。
「う、りょ、寮長……おかえりなさい……」
「もしやトッチョの仕業か?」
「仕業と言うより……僕らの手際が悪かったんでぇ……」
ネイトが今日起きたことを語ると、ソーマはけらけらと笑った。
「ウケるわー。トッチョだって、最初の獲物を獲れるようになるのに何日掛かったのかって話なのに」
「え!? トッチョ先輩も、最初は苦戦してたんですか!?」
「そうだよ。森で獣を狩るのなんてやったことない人ばっかりでしょ。そりゃ簡単にはいかないよ。ただ去年と違うのは、去年は、俺たちが自分で獲らないとほんとに肉がなかったってことだわな。俺が狩りまくってみんなに食わせてた——まあ、1学期が終わるころにはみんな獲れるようになってたけどね」
「ソーマ先輩はどうやって獣を狩ってたんでぇ?」
ネイトがたずねると、他の生徒たちもむくりむくりと起き上がって身を乗り出している。
「ん? 俺は、生まれた村が田舎で食べるものも満足になかったからさ。森が遊び場だったんだよな。だから獣を狩るのは慣れてたよ。獣の行動パターンを知ること、獣の痕跡を見つけること、かな〜」
「なるほど……知識は力ですね」
「もちろん、その後はガチンコバトルだけどな!」
「……え?」
ガチンコバトル?
「そりゃそうだろ。80キロの大猪が突っ込んできたらどうする? 勝手に死んでくれるわけないんだから、倒さなきゃだぞ。向こうは生きるために必死だから、こっちを殺す気で来るし」
「…………」
新入生たちは青ざめた。
とそこへ、
「師匠! お帰りですか!」
スヴェンが現れた。
「うん、今戻ったところ」
「お食事は!?」
「食べてきたよ」
「お風呂は!?」
「まだ」
「それじゃあ——修行は!?」
「……なんなの、その『ご飯? お風呂? それともア・タ・シ?』みたいな3段活用は。全然ときめかねーから」
「? なにを言ってるのですか、師匠は」
「ああ、お前に話が通じるとは思ってなかったわ……」
ソーマが呆れたように言ってるのを見て、ネイトは、ああ、寮長もスヴェン先輩とは話が通じないのか、と納得したような呆れたような感想を持ったのである。
「だけど今日のトレーニングはまだだから、今からやらなきゃな……もう暗いからサクッとやるか」
「お付き合いします!!」
「——あのっ、僕も見学していいですか?」
ネイトが申し出ると、
「もちろんいいけど……面白くないと思うよ」
「そうだ。引っ込んでろ」
ソーマは承諾したのにめちゃめちゃイヤそうな顔でスヴェンが言う。
「あのなぁ、スヴェン……1年生を邪険にするなよ」
「弱いので」
「お前だって去年の今ごろは同じだっただろ」
ソーマに言われ、スヴェンがめちゃめちゃ渋い顔をした。図星らしい。
「あ、あのっ、スヴェン先輩はどうやって強くなったんですか?」
「あー……正しい剣の振り方と、あとはひたすら模擬戦かなあ。どう、スヴェン?」
「俺は師匠に教わったとおりにひたすら剣を振っただけです」
剣を振っただけでそんなに強く……? とネイトはきょとんとしていたが、
「まあ、百聞は一見にしかずだから、裏庭に行こうか」
とソーマは言った。
裏庭はすっかり暗くなっていた。1年生がランプを持って来たのでほんのり明るいが、すこし離れたところで剣を構えたソーマとスヴェンの姿は薄暗くて見えにくい。
「じゃあ、久々に見てやるか。スヴェン、振ってみて」
ソーマが簡単に言うのを聞いてネイトは改めて「ソーマがスヴェンの師匠」ということを思い知る。スヴェンの強さを知っている自分からすると、同い年のソーマがスヴェンの師匠であることがどうにも腑に落ちない。ソーマはスヴェンよりもはるかに強い? ほんとうに?
「キエエエエッ!」
びゅう、と音を立ててスヴェンが木剣を振るう。その踏み込みと振り下ろしの速度はすさまじく速く、1年生を相手にしたときにはまだ手加減をしていたのだ。
「ん、相変わらずきれいなフォームだな。これならスキルレベルの伸びも早そうだ」
「ありがとうございます!」
スキルレベルの伸び? ソーマはさりげなく言ったが、ネイトはそこが気になった。まるで、スキルレベルを確認できる方法があるかのような言い方だ。
もちろん、経験上わかっているだけと言われたらそうかもしれないとも思える。
「じゃ、俺もやるか」
ソーマが木剣を握った——だがその剣の形状が湾曲している。片刃の剣は見慣れないのでそれがすこし気になったネイトだったが、それ以上に次のソーマの動きに目を奪われた。
「ハッ——」
スヴェンのように剣を振り下ろした瞬間、くるりと身体を反転させて蹴りを放ち、そのままジャンプして身体を宙返りさせる。着地と同時に剣でなにかを防ぐようなポーズを入れる。それを何度も繰り返す。目が回るのではないかと思ってしまうほどに、何度も何度も回転する。
「さすが師匠」
スヴェンが謎のドヤ顔で腕組みしているが、なにが「さすが」なのかネイトは全然わからない。
ネイトだけでなく、1年生は全員わからない。
ネイトのなかでは「なんかキモイ訓練やってる先輩」という意識しか残らなかったのである。
ソーマの訓練は効率化が行きすぎてキモイ





