歓迎の空気と歓迎できない事情と
ソーマ視点
* ソーンマルクス=レック *
歓迎会が終わると俺たちはロビーの装飾やら食器やらを片づけた。
獣を狩りに行っていたメンバーは疲れているからと先に寝ていて、残っているのは入学式に参加していたメンバーだ。
「ソーマさん、今年の1年生とは話されましたか?」
トッチョの双子の妹であるルチカが話しかけてくる。
「ん? お〜、話したよ。スヴェンがのした子たちとは話せてないけど……」
スヴェンに押しつけた俺も悪いのだが、スヴェンひとりに勝てなかった彼らは意気消沈したのか、あるいはふてくされたのか、歓迎会には来なかった。そのスヴェンは風呂に入って肉を食ってさっさと寝ている。アイツがいちばん新入生と話してねーな、うん。
「1年生はどうでしたか? 有望そうですか?」
「ん〜、どうだろうね。予想通り不良グループみたいなのがいたけどね、去年のトッチョみたいに貴族であることを笠に着たような……って、ごめん。ルチカの兄貴なのに」
「いえいえ、あのときのお兄ちゃんはほんと、どうかしてましたから。貧乏な男爵家なのにプライドばっかり大きくなってて……ソーマさんに高くなった鼻を折ってもらって良かったです」
ルチカもトッチョとは仲が良くなかったもんなぁ……一方的にトッチョは妹大好きだったけど、ルチカからしたら鬱陶しい兄って感じで。
それが、こんなふうに楽しそうに話題に扱えるまでになったんだからトッチョは俺に感謝すべき。
「ひとり、面白そうな1年生がいたな」
「あら、どなたですか? あの大きい方ですか?」
「あぁ〜、彼はすごい身体してたよね。鍛えたら伸びそうだけど……彼の家のブランブルク伯爵って確か第1王子派閥なんだよな」
「え……!?」
「1年生から派閥だのなんだのって、あんまり気にしなくていいかな〜って思ってたんだけど、彼にくっついてるメンバーは全員第1王子派閥の貴族家だった」
「そんな……」
ルチカもショックみたいだ。
そりゃそうだよな。1年生から派閥だの政争だのに巻き込まれちゃかわいそうだもんな。
俺たちはちょっと前に国王陛下が病気に罹ったってことで、その混乱に巻き込まれた。その記憶も新しい。
「かわいそうですね……」
「ああ……」
「第1王子との絡みだとあんまり燃えないんですよね……」
「ああ……え? 今なんて?」
「だって、ソーマさんっ。ゴドバルトくんの分厚い胸板と……たとえば、たとえばですよ? ジュエルザード第3王子殿下のような細い方の組み合わせは、これはもう最強じゃないですか! でもクラウンザード第1王子殿下はちょっと、俺様系なので、ゴドバルトくんとは残念ながら……」
「アッ、ハイ」
全然違った。
ルチカ大先生はルチカ大先生だった。こんなときにも男の子と男の子がキャッキャウフフする「裏☆|ロイヤルスクール・タイムズ《学園新聞》」のネタ探しに余念がない。
「……いえ、俺様系と筋肉系の組み合わせも、私がまだ可能性を模索し切れていないだけでなにかあるのでは……?」
ルチカ大先生がぶつぶつ言っている。こういうときのルチカは怖い。ふつうに怖い。だって俺だってターゲットにされてしまうかもしれないからな。
「や、ソーマ」
「お、おお、リットか」
俺がルチカからこっそり離れていくと食堂からリットが出てきた。
「リット、サンキューな。お前が集めてくれた情報がめっちゃ役に立ちそうだわ」
ゴドバルトくんの実家が第1王子派閥だとかそういう情報を集めてくれたのはリットと、緋剣クラスのリエリィだ。リエリィはさすが情報網を持っていると言えるところだけど、実家が商会のリットもなかなかどうして多くの情報を集めてくれている。
「んにゃ、ボクにとっても必要な情報だったからいいよ」
「リットにとっても……?」
コイツ、もしや新入生をだまくらかして高額商品を売りつけたりするつもりではあるまいな? さすが守銭奴! さす奴!
「ソーマさんや? もしかしなくとも失礼なこと考えてるね?」
「いえいえ、リットさんや。失礼なことなんてとてもとても……」
「……それで、茶番は置いておくとして、今年の1年生はどう?」
俺が情報を集めていた一番の理由、それは——。
「結構難しいかもな、全員進級は……」
誰も、脱落者を出さないため、だった。
これからの1年で数々の試験がある。まずはあと1か月弱で始まる「統一テスト」とその翌月に「武技試験」、夏休みを挟んで「秋期国内統一テスト」と「秋期学内個人戦」、年末年始を過ぎると「冬期統一テスト」がある。クラス別順位が最下位になるとそのクラスは学園の指導で10%を退学にさせられる。
これまでの歴史では、黒鋼クラスはこの強制退学と自主退学によって、2年生に上がるころにはクラスの半分がいなくなっていた。
毎年黒鋼クラスは50〜60人いるのだけれど、それがおよそ30人になるのである。
ただ、今年は黒鋼クラスが25人と少ないので、最悪、1年後には15人とかになっている可能性がある。
それを避けるためには、まず最初の「座学試験」を好成績で突破しなければならない。
何事も最初が肝心って言うだろ?
ここで「やっぱり黒鋼クラスは落ちこぼれなんだ……」と、自分たちで思い込んでしまうと後から盛り返すのは大変だ。
「ソーマも面倒な目標を掲げたもんだよねぇ、これから先ずっと、『誰も辞めさせない』なんて」
「でも、他のクラスならそれが普通じゃね? 碧盾クラスは人数が多いから、自主的に辞めていくやつもちらほらいるみたいだけど」
白騎、蒼竜、黄槍、緋剣、碧盾、黒鋼の6クラスにおいて、黒鋼クラスだけが明らかに待遇が悪い。それは持ち上がりの騎士団でも同じことだと聞いている。
不公平にもほどがある。
俺にとって騎士とは——国からお金をもらえる公務員だ! 公平で! 手当が良くて! 安心安全でなければならないのだ!
それには不公平の原因になっている「バランスの改善」をしなきゃならない。
黒鋼士騎士団は他の騎士団と比べてロイヤルスクールから持ち上がりの人数が少なく、それを補うために傭兵のように騎士を雇ったりするらしい。そりゃ、ただの荒くれ者集団になるのは当然だよ。
だから俺は考えた。誰も、辞めさせなければいい。それができれば自然と黒鋼士騎士団内にロイヤルスクール出身者が増える。さらに、ロイヤルスクール内でも他のクラスとの横のつながりができていけば、騎士団入団後も役に立つはずだ。
世の中、コネなんだよ!
俺は前世で親父の工場を畳んだときに、いろいろ知ったんだ! 知りたくなかったけど!
「ソーマひとりががんばったって、1年生自身がやる気を出さなきゃうまくいかないよ」
「まさにそれ。リットさんは俺の言いたいことを先回りしてくれる」
「え……なに急に。キモいんだけど」
おいぃ、キモいはやめろよ、キモいは。俺だって傷つくんだぞ。
「1年生がうまくいくには、核になる人物が必要なんだよ。今みたいに不良グループが争ってるようじゃ、お互い足を引っ張り合ってクラス順位は最下位一直線だ」
「それはわかるけど、去年だって君は散々苦労してクラスをまとめたじゃないか。あの再現をしろったってふつうは無理だよ」
リットさんや、さらっと俺が「異常人物」みたいに言うのは止めてくれる? まあ、転生者だから異常なんだけどさぁ!
「ふつうは無理、そうなんだよ。だからもうちょっと情報が欲しい」
「情報? もう入学してるのに?」
「うん。誰が黒鋼クラスになるかはわからなかったから表面的な情報しか拾ってないじゃん? たとえば公爵家や侯爵家、伯爵家が黒鋼クラスになるとは思ってなかったから除外していたし。つまりゴドバルトくんの情報はほとんどない……まあ、たまたま第1王子派閥だってことだけは知ってたけど。今の25人の1年生に絞り込んで、もう一歩踏み込んだ情報を得られないかなって」
「すぐそこにいるんだから本人に聞けばいいじゃん」
「ん〜、まあ、それもやるんだけどね」
俺は知っている。
ここに入学している子たちの背後には親がいる。
そして子どもたちは往々にして親の都合によって振り回される……。
たとえば去年は、黄槍クラスのフランシスなんかが特にそうだった。本人の気持ちはどうあれ、親の都合がある以上、黒鋼クラスで足の引っ張り合いをさせられるかもしれない。
「追加調査か。これ以上となるとお金掛かるからオススメしないけどね〜」
スッ……と差し出されるリットの右手。俺はその手をつかんでひっくり返すと、その場に跪いた。
「この身にかけてリット様をお護りするので、なにとぞ調査をお願いいたします」
「!??!?!?!」
わかってるよ、金くれって意味だってことくらい。
でもちょっとまけて欲しいじゃん?
なのでちょっとふざけてみた。
「……リット?」
「き、き、君は……!」
「え、いや、ただのおふざけ——えぐん!?」
ゴッ、と肘打ちが上から降ってきて俺の脳天に突き刺さった。
「バカ! いつもの倍、請求するからな!」
リットは肩を怒らせて去っていった。
「っつぅ〜……なんなんだ、アイツ」
俺がふらふらしながら立ち上がると、
「お前、なにやってんだよ……」
オリザちゃんが言ってきた。
「え、なんでよ」
「騎士が、姫にやるようなポーズしやがって」
「わかってるよ。だからわかりやすいおふざけじゃん……?」
「ほんっと、お前はバカだ」
「えぇ……?」
俺、なんか間違ったの? シンプルに「おもんない」って言われるより凹むんだけど……?





