358・フロストガルドの小さな使者(ナイジェル視点)
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意識が戻る。
「ここは?」
僕──ナイジェルは、ゆっくりと辺りを眺める。
ここは……王城?
しかし、リンチギハムとは違う。凍えるような寒風が肌に当たった。空気も澄み切っており、寒さで震えた。
僕は確か、リュシアンに謎の場所に連れ去られ、椅子に拘束されていたはずだ。
なのに今の僕は、どうやら城のバルコニーらしき場所で立っているらしい。
バルコニーから城下に目を向ける。
雪が積もる街の中、人々が歩いていた。皆、防寒具を身に纏っており、歩く速度も遅かった。
しかし、その表情は笑顔だ。
市場らしき場所では、人々が買い物をしている。広場では子ども達が楽しそうに遊ぶ。
理想的な城下町だった。
人々の顔には、明日への不安なんてものが一切ないように感じた。
そして、不思議なところはそれだけではない。
「視点がいつもより低いような……それに、歩幅だって狭い。体が小さくなっているのか? だとしたら、僕は……」
「どうしたんだい?」
後ろから急に呼びかけられ、声のする方へ顔を向ける。
え……。
戸惑う。
城の中から声をかけてきた少年は、僕が知っている人間とよく似ていたからだ。
偶然と片付けていいのだろうか。
固まっている僕に、少年が首をかしげる。
「まるで、狐につままれたような顔をしているね。なにか不思議なことでもあったのかい? ゼルド」
「ゼルド……?」
「うん。君は、ゼルド・リンチギハム。リンチギハムの第一王子だ。そんなことも忘れたのかい?」
ゼルド・リンチギハム……。
聞いたことがある。
今よりもずっと昔、リンチギハムの国王として君臨し、『賢王』と称された人物だ。
彼が築き上げた功績は多く、その頃に今のリンチギハムの形が出来上がったと言っても過言ではない。僕も理想の国王になるために、彼の行いを学んでいた。
だが、彼には一つ、不可解な点がある。
それは長年、ずっとなにかの研究に執着していたことだ。
その謎は数ある歴史学者でも紐解けないと聞く。結局彼がなにを気にしていたのか分からず、現代にまで至る。
──という、リンチギハムの歴代国王の中でも一・二を争うくらいに有名で、謎も多い人物なんだけど……今の僕は、どうしてゼルドと呼ばれているんだろう?
「君は何者なんだい? なにを知っている」
警戒心を僅かに滲ませて、問う。
だが、少年はますます不思議そうな顔をして、
「何者……って。ますます変だね。自己紹介なら昨日、済ませたじゃないか。もう一度名乗ろうか?」
冗談めかして笑って、彼は右手を差し出す。
「僕は──リュシアン。フロストガルドの第一王子だ。もう一度言うね。これから、よろしく」
──それが、ゼルドとしての僕とリュシアンの、最初の邂逅であった。





