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僕たち横浜万博警備隊 ― 1989年、青春と事件の半年間 ―  作者: 岩田 ヒロ


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8/10

万博閉幕の夜

 万博の最終日。昼から僕と結城さん、そして住吉さんと藤井さんの4人がゲート警備に入った。


 しかし全員が不機嫌だった。

 なぜなら、パビリオンの警備員やコンパニオンは今日が最後で、閉幕後に盛大な打ち上げをして解散。明日から仕事はない。


 だが僕たちは24時間勤務なので、明日の昼まで仕事。

 つまり閉幕しても打ち上げに参加できない。


 さらに閉幕後も万博の解体作業があるため、業者がゲートを出入りする。

 僕たちの本当の業務終了は10月末だった。


「なんだよ、なんだよ、最悪だよな今日は。あいつら酔っ払って一緒に帰って、西口で2次会、朝まで3次会だよ。あーつまんねー」


 結城さんは愚痴をこぼす。


 確かに僕たちだけが“蚊帳の外”だった。

 しかも、会場内で飲んで帰る警備員やコンパニオンを見送らなければならない。


 24時間ゲート警備はA班とB班が交互に担当するが、よりによって今日は僕たちA班。

 ついていない。


***


 昼過ぎから大勢のお客さんが入場していく。

 最終日の夜は盛大な花火が上がるからだ。


 僕たちはこれまでにない不機嫌な顔でゲートに立っていた。


 立ちながら、僕はこの半年間のことを思い出していた。


 田村さんの無断欠勤。

 火事。

 結城さんのフィアット。

 ダフ屋。

 競馬。

 洋子ちゃんに叩かれた結城さん。

 そのとばっちりで連絡が取れなくなった直子さん。

 久美と行った新島。


 半年前にこんな事件や事故や恋愛に遭遇するとは思わなかった。

 大学に通うだけでは絶対に得られなかった経験だ。


 洋子ちゃんはたまに見かけるが、結城さんを完全にシカト。

 直子さんも僕を見向きもせず、ゲートを通過していった。


 僕は何も悪いことしていないのに。

 後ろ姿を見た夜、何度か電話しようと思ったが、やめた。

 向こうから電話が来るのを待つことにした。


***


 日が沈み、花火が終わると、大勢のお客さんが一気に出てきた。

 歩道に収まりきらず、車道にはみ出してゲートを通過する。


 最初は「歩道を歩いてください」と注意したが、途中で諦めた。


 お客さんがほぼ退場すると、会場内で打ち上げが始まった。


 夜10時を過ぎ、コンパニオンや警備員たちが帰っていく。

 明日から彼らの姿が見えなくなるとは信じられなかった。

 このまま永遠に続くような気がしていた。


***


 そんなことを考えていると、歩道を直子さんが通過していく。


 ——きっとこれが見納めだ。


 そう思った瞬間、彼女が振り返り、僕のところへ走ってきた。


「電話ちょうだい」


 それだけ言って去っていった。


 よかった。

 直子さんから声をかけてくれた。


 さっきまで「なんで今日に限って警備なんだよ」と不機嫌だったのが、

 突然「今日バイトでよかった」と思った。


 ボックスの中にいた結城さんが、


「電話ちょうだい〜」


 と僕をからかう。


「なんだよ、仲直りかよ」


「まだ分かんないよ。後で電話してみる」


***


 その後、僕がボックスに入り、結城さんがゲートに立った。


 11時過ぎ、なんと洋子ちゃんが通過した。

 知らない男と手をつないでいる。


 結城さんの“ビリビリした殺気”が伝わってきた。


 ——うわ、結城さん、大人の対応で静かに見送ってくれ。


 そう願った。


 結城さんが一歩、二歩と前に進む。

 やばいと思い、


「結城さん、ストップ」


 と小声で言った。


 洋子ちゃんは仕返しとばかりに、男と手をつないだ姿を見せつけるように通過した。


 後ろ姿が小さくなった時、洋子ちゃんが片手を上げ、大きく手を振った。

 “バイバイ”と聞こえた気がした。


 それを見た結城さんが、


「なんだよ、あのおんな。ふん」


 と負け惜しみのように言った。


***


 11時半になり、直子さんが帰る頃だと思い、警備は結城さんに任せて電話ボックスに入った。


「もしもし」


 直子さんが出た。ほっとした。


「もしもし、万博終わったね」


「うん」


「でも僕たちのゲート警備は10月末まであるんだ」


「……」


「あのさ、あの日の女の人」


「知ってる」


 遮られた。


「アメリカ・パビリオンの人だよね。すごい美人で有名だったみたい」


「ふーん。いろんな人が彼女に声かけてたみたい」


「直子さんは、万博終わった後どうするの?」


 とりあえず誤解は解けたようで、いつも通りに会話ができた。

 次に会う約束をして電話を切った。


 最終日、僕がゲートに立っていたから、直子さんが声をかけてくれた。

 よかった、この日バイトで。


***


「どうだった?」


「誤解はとけて、次会う約束した。そうそう、洋子ちゃんって美人で有名だったみたい。いろんな人が声かけてたって」


「美人はさ、自意識過剰なんだよ。自分はかわいいって思ってて、周りの男は必ず私のこと好きになるって思ってる。そんで“君は私のことだけ見なさい”って言うんだよ」


「そうなんだ」


「女の子は、目の前の男が他に好きな子いるなとか分かるらしいよ」


「そうなの?」


「おまえ、直子さんが他に遊んでる男いると思う?」


「いてもおかしくない」


「高校からの彼女は?」


「いないと信じたい」


「女は嘘うまいから、俺たち男は騙される。俺ら男は嘘が下手だから、女はすぐ見抜く」


 さすが、あそこを切られそうになった男の言葉は重い。


「僕たちの知らないところで彼女たちが何してるかなんて分かんないし、逆に僕らのことも彼女たちは知らないと思うけど」


「そうだろ。だから放っとくんだよ。でも二人になったら目見て話して、エッチすればいいの。な」


「そうだね」


 説得力があった。


***


 そろそろ住吉さんと藤井さんが来て交代する時間だ。


「圭子ちゃんはどうなったの?」


「今日はバイト入ってないって。今度“彼女になって”って言うつもり。知ってる? 彼氏彼女になるってことは浮気禁止なんだよ」


「じゃあ僕は久美に対してまずいことしてるってこと?」


「そう」


「バレなければいいんだよね?」


「バレたらあそこちょん切られるぞ」


「オメーラ、夜中に大きな声で変な話してんじゃねぇよ!」


 住吉さんがやってきて怒鳴った。

読んで頂き、ありがとうございます。

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