しりぬぐい
昭和から平成へと時代が変わった年、大学生の僕は横浜万博の警備のバイトに応募する。この経験が自分の人生に大きな影響を与えるとは知らずに。第7話、しりぬぐい
今日は結城さんが休みで、代打の沼田さんとゲート警備に入った。夕方、僕がゲートに立っていると、
「今日、結城さんはいますか?」と女の人が話かけてきた。びっくりして、振り向くと、ソバージュのポニーテール、ミニスカート。あ、結城さんの洋子ちゃんだ。かわいいなと思った。結城さんがうらやましかった。
「あ、今日は休み」
「次はいつバイト?」
嫌な予感。
「明後日の昼からだと思います」
なぜか緊張して答えた。そして、彼女は黙って駅の方に歩いて行った。
「誰?今の」と沼田さんがゲート横のボックスから出てきた。
「多分、結城さんの彼女」
「今日、結城さん、圭子ちゃんとドライブって言ってたよ」
ますます嫌な予感。
「知ってる?結城さん、族の時もあちこち彼女がいて、あそこ切られそうになったんだよ。俺の高校で伝説だったんだから。一年上のやばい先輩って」
「結城さん、そんなにモテるんだ」
「結城さんの地元は綱島なんだけど、綱島のプリンスって呼ばれててさ。知ってるパープルレイン歌ってるプリンス?」
そのプリンスは知ってるので頷いた。
「結城さん、顔黒くしたら似てるてしよ。背高くて、痩せてて、頭はくるくるパーマ。高校の時は彼女がカミソリ持って、切ってやるって、追いかけてきたらしいよ」
確かに似てる。そして、追いかけられているとこが想像出来た。
「明後日、結城さんがゲートに立ってたら、やばいんじゃないか?」と沼田さんが心配そうに言う。
二日後の昼の12時前、僕は崎陽軒の詰所に来て、着替えをしていたところに結城さんが現れた。今日は僕と結城さんがペアで、住吉さんと藤井さんと交代で24時間勤務。
「結城さん、一昨日、洋子ちゃんが来て、結城さんの次のバイトは、いつってゲートに立つ僕に聞いてきたよ」
「マジで!なんて答えたの?」
「明後日の昼からって。だから、今日バイトだって言っちゃった」
「そうか・・・」
結城さんが珍しく考えごとしてる。
「なんかあったの?」
「何度か電話あったみたい。でも俺出かけてていなくて。遅くなってもいいからって伝言あったけど、電話するの忘れてた」
「きっと今日夕方、彼女、ゲート通って帰るから謝れば?」
「いやー、ちょっと会いたくねーな」
なんか面倒くさくなってきた。
「洋子ちゃんは俺を束縛したがる。だからこれ以上は深入りしたくないんだ」
何を言っているのだこの男は。
住吉さんと藤井さんが来ると結城さんはこう言った
「俺、バイト辞めたことにしておいて。そんで、彼女がゲート通る朝と夕方は、俺、ゲート立てないから代わりにお願い。その代わり夜中俺一人で頑張るから」
めちゃくちゃなこと言ってる。住吉さんが、
「そんなことできっかよ!素直に別れるって言えばいいだろうが」と言うと、
「俺、付き合うって言ってないし。それでも、洋子ちゃんは毎日電話するとか、電話くれとかうるさくて、面倒なんだよ」
この場合、解決策はないような気がする。二人で話し合うとかしないといけないのではないか?
「付き合うとか約束してないのにエッチしたんだろ。子供できたら、どうすんだよ?」
「俺、中で出してないもん」
「と、とりあえず、じ、時間だから、ゲ、ゲート行って、ひ、ひきつぎしましよ」と藤井さんが言った。
結局、夕方の時間は僕がゲートに立ち、住吉んさんがゲート横のボックスで座ることにした。
夕方の5時頃、洋子ちゃんが来た。
「結城くんは?」
えっ、昨日は結城さんで、今日は結城くんて呼ぶんだ。
「あ、今日も休むって」
「彼、私のこと避けてるでしょ?」
「いや、よくわからないです」
なんで僕がゲートに立って警備しながら、こんな可愛い子に責められなければいないのだ。横のボックスで住吉さんが今でも吹き出しそうたな顔して、ゲートの先を見ている。洋子ちゃんもボックスの中に結城さんがいないかちらっと見た。
「サイテーな男。なんとか連絡つけてよ」とすごい顔で睨んできた。
その時だ。洋子ちゃんの後ろを直子さんが通り過ぎた。間違いない。最悪だ。夜、電話して言い訳しないといけない。
「分かった?わたしに電話くれるように言って!」
「わかりました」と答えるしかなかった。早く行ってほしいのに僕の横から動かない。
帰りがけのコンパニオンたちが振り返って僕たちを見て、こそこそ話している。僕が悪いことしたみたいだ。
「あ、あの警備の邪魔なのでもう行ってれません?」
「結城くん、来るまで待つわ」
何言い出すんだ!この子。
あ、配送のトラックが来た。
「危ないからちょっと歩道に行って下さい」と言って、彼女の腕を押して、歩道まで移動させた。
「お疲れ様です」と言って、通行証をチェックしてトラックを通した。運ちゃんが意味深に笑ってる。
洋子ちゃんは歩道に立って、結城さんが現れないかと思っているようなそぶりで横浜駅の方を見ている。僕は彼女を無視してゲート横に立っていた。1時間ほどして彼女は横浜駅の方に帰っていった。
まずいなぁ。直子さんに何て言おう。
「今日はどこで、何してたかとかさ聞いてくるわけよ。しつこく。俺はさ、気にしないよ彼女が俺の知らないとこで何しようが。会って、楽しくて、エッチできればいいでしょ」
結城さんが言う。
「彼女がその気になるようなこと言ったでしょ。かわいいねとか、好きだよとか。好きな子をある程度独占したいとかは思うんじゃないの」と僕は言った。
「言ったよ、勢いで。だけど、彼女は異常だって。すごい独占欲」
「おかげで、さっき直子さんに見られちゃったよ、洋子ちゃんと話してるとこ。今から電話してくるから、ゲートお願いね」と僕は言って、電話ボックスに入る。
10回コールしても誰も出ない。彼女は実家暮らしだから親が出てもおかしくないのに。電話番号を間違えたかもと思い、掛け直したが誰も出ない。やべ、無視されてるかもしれない。
「どう?直子さん、誤解は解けた?」
「誰も出なかった。もう、最悪だ」
「俺のせいじゃない。洋子ちゃんが悪い」
「ほったんは結城さんだよ」と睨みつけた。
「明日の朝、捕まえて話せば?」
「そんなこと朝のゲートで、出来ないよ」
参った。明日の夜また電話しようと思ったけど、ふと僕が洋子ちゃんみたいになったような気がした。しつこいと逆効果かもしれない。
その後、住吉さんが結城さんだけ特別シフト組むなんて不公平だから、特別シフト無し。洋子ちゃんだかなんだかが結城さんに話しかけてきたら自分で始末しろということになった。
数日後、結城さんがゲートに立っている時に洋子ちゃんがやってきた。少しすると、洋子ちゃんが持ってるハンドバッグで結城さんの顔を思いっきりはたいた。
バシッ、バシッと2回も。女の人が男をはたくの初めて見た。
洋子ちゃんは立ち去った。結城さんはゲートで、何も無かったように立ち続けた。
「なんではたかれたの?」
「俺は洋子ちゃんの彼氏ではないって言ったら、はたかれた。要は付き合っていると勘違いしてたんだよ。まぁ、すっきりしたよ。これで圭子ちゃんと真面目に付き合う気になった」
この後、僕は直子さんに連絡していない。ゲートで何度か見かけたけど無視しているようだ。久美がいるから真剣に誤解を解く必要もないしと思った。僕の家の電話番号は知っているのだから、その気があれば電話もできるはずだ。なんか面倒だからほっとくことにした。
結城さんも僕も女の子たちをもてあそんだと言われてもしようがないのかもしれない。でも、あの時は熱い気持ちで彼女たちと過ごしたのは間違いない。騙すとか、身体だけが目当てではなかったと思う。彼女たちの匂いを嗅ぎ、髪の毛や素肌に触れることが出来てよかったと思う。
そんなことを考えながら、万博の最後の日、十月一日を迎えた。
読んでいただき、ありがとうございます。毎週火曜日に続編を投稿する予定です。
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