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横浜万博の警備バイトに飛び込んだら、クセ者だらけの仲間と人生が変わった  作者: 岩田 ヒロ


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6/8

久美と新島

昭和から平成へと時代が変わった年、大学生の僕は横浜万博の警備のバイトに応募する。この経験が自分の人生に大きな影響を与えるとは知らずに。第6話、久美と新島

 台風のおかげで7、8月の入場者数が大きく落ち込んだため、万博協会は65歳以上の入場を無料にしたり、15万枚の無料招待券を配布した。そのおかげで9月に入ると入場者数が爆発的に増えた。最終的に9月の入場者数は全入場者数の1/3となった。桜木町駅のゲートは大混雑となったため、横浜駅から東口ゲートを通過して入場する長い列が僕たちの横を通過したのだった。


 そんな9月の上旬に僕はバイトを休み、久美と一泊二日で新島に行った。二人とも実家で暮らしていたために、こんな旅行は特別なイベントだ。もちろん彼女は女友達と旅行に、僕も男友達と旅行に行くと親に嘘をついた。東海汽船のフェリーに乗って島に着いた。9月とは言え、まだまだ夏で、暑い。島では原付をレンタルして観光をした。彼女は黒のビキニの上にTシャツと短パンを着てバイクに跨っていた。日焼け止めを塗りあい、サーファーがいない、静かなビーチで二人で泳いだ。写真もたくさん撮った。海も太陽も、そして彼女もまぶしかった。泊まったホテルで晩御飯を食べて、すぐに部屋に戻った。部屋で二人になると久美から例の匂いがしてきた。いつものように一瞬あの中学の女の子を思い出した。


 夜の11時頃、僕は星を見に行こうと彼女を誘った。近くの浜辺のコンクリートのひな壇に座り、空を見るとたくさんの星たちが光っていた。

「こんなたくさんの星初めて」

「ほんと、びっくり」と僕はそのまま寝転がって夜空を眺めた。

「あっ、流星!」と彼女が言うと、

「見えた、見えた。あっ、あっちも」

 そのまま少しの時間、二人とも黙って夜空を観ていた。


 少しして彼女が突然僕に無言で覆いかぶさってきた。両膝をついて僕にまたがり、両手を僕の頭に左右についた。彼女は僕の顔の上で僕を見ていた。ところがすぐに彼女の髪の毛がサラサラッと僕の顔の周りにおりてきた、まるで髪の毛のカーテンが僕の頭の周りをサラサラッと囲んだようだった。彼女の顔は髪の毛で光が遮断され、暗闇の中にあり、全く見えない。僕は彼女の目があるであろう付近をウロウロしていた。きっと彼女は僕の顔や目は薄暗い中見えていたに違いない。彼女の髪の匂いに包まれた。


 暗闇の中で彼女が僕の目を覗いて何か探っているようだった。僕は一瞬、直子さんのことを探られているのかと不安になった。絶対久美にバレてるはずないと思ったのだけれど。彼女は黙ったままだ。さっきまで部屋にいたときは何もそんな疑いも見せなかったのにどうしたのかと思った。しかし、少しして彼女のおでこが僕のおでこにふれ、鼻の頭同士がふれ、彼女の柔らかい唇が僕の唇に触れた。彼女はさっき僕の顔や目から何を読み取ったのだろうか。


 そのあと二人は無言で横に並んで夜空を見ていた。夜の空と海は真っ暗で、星たちが強く輝いている。目慣れると小さな弱々しい星までもがよく見えた。僕は彼女の手を握った、彼女も握り返してくれた。僕の不安は少しずつ消えていった。

「ねぇ、わたしたち高校卒業して2年目じゃない。あの頃から付き合っている人たちって、もうわたしたちだけみたいよ」

「えっ、嘘だ」

「ほんと、自然消滅とか、別々な大学行って、好きな子できて、別れたりしてるみたい」

 なんで彼女がそんなこと言ってくるのだろうか?さっき何かを見透かされたのだろうかとまたまた不安になる。


 僕は高校二年の頃を思い出した。久美は同じクラスで気になる女の子だった。かわいくて、結構モテていた。何人かの男の子たちが告白して振られたという噂があった。だけど僕はよく彼女と目が合った。目が合うと彼女は目をそらした。僕はもしかしてミャクがあるのかもと思っていた。文化祭のある日の夜、片付けをした後の学校から駅までの帰り道、久美が一人で歩いていた。僕と一緒にいた友人は自然に久美に話しかけ、明日の文化祭のことについて話しながら歩いた。


 駅に着くと友人は僕と反対方向の電車に乗った。久美と僕と は同じ方向の電車だったので二人で電車を待った。二人きりになると急に話が続かなくなった。さっき話した文化祭の話を繰り返したりしたが、つまんないやつと思われたくなかったら、思い切って言ってみた。

「あ、あのさ、今度映画でも見に行かない?」

 彼女はびっくりした顔した。そして、周りを見渡したのか、電車が来るのか確かめたのか分からないけど、ちょっとして、

「いいよ」と答えたのだ。やっぱり、ミャクがあるかもの僕の予感は当たっていたのだと思った。その後、僕たちは何度かデートして、付き合いはじめたのだ。


 我に返り、

「俺はそんなことないよ、ずっと久美と付き合っていたいと思ってるよ」

「わたしもよ。でも、分かんないよ。別れた人たちも昔は別れるなんて思ってなかったんだから」

「これから先は分かんないか」と言って、手を強く握った。


「タイムマシーンとかで将来を覗いてみたいね」と直子さんに言ったことと同じことを言った。

「あまり見たくないな」と久美が直子さんと同じことを言ったので驚いた。

「見ちゃったら、こうしていられないかもよ」と言うので、

「見たら安心出来るかもよ」と言って彼女を見たら、うれしそうに笑っていた。久美を大事にしなきゃと思った。


 新島から帰り、警備のバイトに戻った。昼間は入場者が通過するので、夜、人通りがなくなると僕と結城さんの報告会がゲート行われることがお約束になった。

「新島はどうだった?」

「9月の平日だったから人が少なくて良かったよ。泳いでるの僕ら二人でプライベートビーチみたいだった」

「その彼女は高校から付き合ってたんだよね?」

「そう」

「共学はいいな。俺、男子校だから、族の集会しか出会いがなかった」と結城さんが言ったが、僕も結城さんの世界を想像出来なかった。

「で、彼女と直子さんはどっちがいいの?」と痛いとこを聞いてきた。


「どっちかと言われれば、彼女の久美。でも、直子さんとも隠れて付き合っていきたい。だって、性格もあっちも全然違うし」

「お、おまえも分かってきたな。俺も洋子ちゃんと圭子ちゃんとやっちゃった。このバイトしてると結構お金入るから二人と遊べるよな。でも、10月1日で万博終了。その後は俺、家の床屋やらなければいけないから、一人としか付き合えないな」とどこまで本当に考えているか疑問だったがとても残念そうだった。

「僕もそろそろ真面目に学校行って、単位取らないといけないから、夜、塾のバイトとくらいしか出来なくなりそう」

「お金の切れ目が縁の切れ目だったりしてな」


 こんな会話を昼間、コンパニオンやお客さんさが通過しているところでは出来ない。いや、聞かれてはいけない。夜中のひと気のないゲートだから出来るのだ。でも、僕はこんな夜中の会話が好きだった。

読んでいただき、ありがとうございます。毎週火曜日に続編を投稿する予定です。

コメント、感想、よろしくお願いします。

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